Wake Me Up

これは、まずい。
プレストン・ガービーの背中に冷たい汗が流れた。
コンコードの歴史博物館でレイダーたちに囲まれた時の感覚が戻ってくる。

ここはサンシャイン・タイティングCo-op。
ミニッツメンの居住区の一つだ。

ミニッツメンの将軍であるGeorgeが独りになりたいと姿を消して、約一か月が経過した。
事実はプレストンとスタージェスしか知らない。
入植者たちには、将軍は連邦の居住区を見回りに出ていると話してあるのだ。


それでも、暫くの間は平和な時間が流れていた。
インスティチュートが破壊されたことにより、人造人間の出没は以前よりは減っている。
居住区に人造人間が紛れ込んで内紛が起こることも前に比べれば大分減ったと感じていた。
それが気の緩みをもたらしたのか。


サンシャイン・タイティングCo-opが、スーパーミュータントの群れと、更には見たこのがない機械の軍団に襲われている。


「皆!!遮蔽物を利用するんだ!まともにやりあうな!!」
運が悪いことに、今日見回りに連れていたのは最近入ったばかりに新兵たちだったのだ。
戦いに慣れておらず、自ら危険に身を晒している。

「危ない!!!」
プレストンは近くで立ちすくんでいた青年を建物の陰に押し込む。
マスケット銃を構えて撃とうとした時、がちゃがちゃとジャムる音がした。

終わった。
思わず目を瞑る。
スーパーミュータント達が放つガトリングの音と機械たちのビーム音が遠くで響く。




ダン!
ダン!
ダン!

弾を撃ち込む音と比例して、機械が地に落ちる音とスーパーミュータントの呻き声が聴こえてきた。

まさか、将軍なのか?
銃声のした方にGeorgeの姿を探すが、見当たらない。
では・・・誰が?

「その立派な銃は飾り物か?」

不機嫌そうな顔した、髭面の男がプレストンに声をかけてきた。
再び銃を構え、スレッジハンマーを振り上げるスーパーミュータントの頭を撃ち抜く。
見れば、まだ脅威は去っていないようだ。
「どこの誰だか知らないが・・・手を貸してくれないか。」
「俺は高いぞ。」

男の言葉を聞かずに、プレストンは周りの新兵たちに敵を迎えるよう配置を指示する。




「君のおかげで居住地が生き延びた。本当にありがとう。」
「礼の言葉はいらん。」

冷たい目でプレストンを見据えている。
戦いの前に言っていた「高いぞ。」は本気のようだ。
礼は言葉ではなく、キャップで支払えと言っているのだ。
プレストンとしても、礼として幾ばくかを支払うつもりではいた。
ミニッツメンは裕福とは言えず、皆の好意で成り立っている部分がある。

「まぁ、この程度なら8000キャップでいい。」
「は、8000キャップ??君は、いったい。」
「命を救われておいて、支払いはできないと、そういうことか?」
心底馬鹿にしたように吐き捨てる。


唇を噛み締めながら、男にミニッツメンの実情を説明する。
面白くもなさそうにプレストンの話を聞いている。

「なるほど。」
男が納得してくれたのかと、思わずほっとする。

「ミニッツメンとやらは、手助けして貰っても礼も支払うことができなくらいチンケな集団だということだな。」
その物言いに、プレストンは思わずカッと血が上り、胸倉を掴みかかる。
だが、逆に手を取られて、あっという間に体が宙を舞い地面に叩きつけられていた。

「いいことを思いついた。」
地に倒れ伏すプレストンの肩を足で踏みつけて、にやりと笑う。
入植者や新兵たちが慌ててプレストンを助けようと近寄るが、男の銃に威嚇されてしまう。

「お前が体で支払えばいい。」
「なっ・・・!??」
「俺はこれからエドワードだかという奴に会うために、カボット邸に行く必要がある。依頼を片付けるまで、付き合うんだな。」
「ふざけるな!」
肩を踏みつける足に力が加えられ、銃口が頭を狙っている。
有無を言わせるつもりは無さそうだ。

くそっと毒づきながら、プレストンは男に手を貸すことに同意した。
周りで心配そうに見守っていた新兵の一人に、スタージェスに報告するように指示を出す。


「あんた、名前はなんというんだ。」
「名前?そんなもの聞いてどうする。」
「あんたを呼ぶのに困るだろう。俺は、プレストン・ガービーだ。」
「名前なんてのは記号でしかない。ま、仲間からはNo.9と呼ばれている。」
「No.9?それが名前なのか?」


「No.9でも、ジョンでもジャックでも好きに呼べばいい。」

馬鹿にしたように鼻を鳴らし、No.9と名乗る男は歩きだした。