ウィンターホールド大学での仕事がひと段落着いたので、休暇を取ってドーンスター ⇒ モーサル ⇒ソリチュードと旅をすることにしたJadeとマーキュリオ。

途中ドゥーマーの遺跡に潜ってみたりと、なかなか楽しい旅路だ。

ソリチュードからマルカルスへ向かってみようか?と話をしながら、今夜の宿ウィンキング・スキーヴァーへとやってきた。

宿屋の主人と話をしていると、ふいに女性が声をかけてきた。

「あら、マーキュリオじゃない。」
声の方に向き直ると、上品な装いの美しい女性が艶やかに微笑んでいる。

マーキュリオが一瞬驚き、それから苦い顔をしたのをJadeは見逃さなかった。
女性はマーキュリオとJadeを見比べながら、近づいてくる。

「ジェマイマか・・・。久しぶりだな。ソリチュードで何をしている。」
ジェマイマと呼ばれた女性は、Jadeに視線を走らせた後マーキュリオの腕にそっと手を置いて、意味ありげに笑う。
「何って・・・知っているでしょう?」
もう一度Jadeを見て、「貴方、子守をしているの?」と尋ねる。

思わずカッとなって、他を見てくると宿屋を飛び出すJade。
後を追おうとしたマーキュリオの腕を掴み、ジェマイマは食事に誘った。
掴まれた腕をそっと外し、呆れたような表情でジェマイマを見つめる。
「・・・お前は、あんな意地の悪い言い方をするような奴ではなかったはずだ。」
「あら、意地悪をしたつもりはないわ。」



なにさ、子守って!!とJadeは最初怒っていたが、ふと思いついた昔の彼女とかなんだろうかという考えが頭から離れなくなってしまった。
綺麗な人だったな。綺麗な服着てたな。

ぼんやりと考えながら歩いていたため、向かいから荷物を持ってやってきたアルトマーの女性とぶつかってしまう。
「あ、ごめんなさい!」
「大丈夫よ、気にしないで。」
持っていた荷物を落としてしまったので、一緒に拾う。
女性が、自分をじっと見つめていることに気が付いた。

「な、なに?」
「あなた・・・随分と汚れているわね。」

軽蔑したような物言いではなく、事実がそのまま口から出たというような口調だった。
思わず自分の服装を確認するJade。
言われてみれば、遺跡で戦って着替えもせずにそのままの状態だ。袖口には血糊が付き、埃でうっすらと汚れている。
格別自分が汚いとは思わなかったが、先ほどマーキュリオに声をかけてきた女性と比べれば・・・その差は歴然だ。

軽くショックを受け、黙り込んだJadeに向かって女性が店に来なさいよと誘う。

ターリエと名乗る女性は、ソリチュードで高級服飾店レディアント装具店を姉と2人で営んでいるという。
上手いこと乗せられたような気がしないでもないが、折角なので似合う服を見繕ってもらうとしよう。

姉のエンダリーとターリエがあれこれと服やら靴やらアクセサリやらを持ってきてくれ、ああでもないと着せ替え人形のように着替えさせる。
Jadeは肩の出る、明るい色の服が気に入ったので買うことにした。
それなら髪型やアクセサリも素敵に仕上げましょうとエンダリーが髪を結い上げ、飾りをつけてくれる。
仕上げにと、薄く化粧までしてくれた。

鏡の中に映る自分が、今まで着たことのない装いで微笑んでいるのがくすぐったい。
「あら、似合うじゃない。さっきまで着てた服は宿屋に届けておくわね。」
「ありがとう!あ、じゃあ武器も一緒に預けてもいいかな。」
「そうね。折角可愛い服装してるのに、腰にメイスぶら下げているのは頂けないわ。」

うきうきとした足取りでレディアント装具店を後にする。
宿屋へ戻ろうとすると、マーキュリオがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

一瞬眩しそうな顔をしてJadeを見つめる。
「お前・・・どうしたんだ、その格好。」

「・・・いいじゃない。」
「そんな服・・・」
そんな服。先ほどまでの浮足立った気持ちに冷や水を浴びせられた気分だ。
マーキュリオの渋い顔をまともに見ることができず、顔を背けて歩き出す。

「着替えてくれ。」腕を掴まれた。
「マーキュリオに言われる筋合いない!」

腕を振り払い、宿屋とは反対側へと駆け出していく。



夕暮れ時になり、ランタンの灯りが灯り始めた。
どこかで陽気な音楽が奏でられている。歌声も聞こえてきた。
見ると、そこは吟遊詩人大学。出店が出ていて、皆楽しそうに飲み食いしている。

吸い込まれるように近づいて行くと、歌を歌っていた吟遊詩人が酒を片手に近寄ってきた。
「やあ、お嬢さん。この出会いに祝杯を上げようじゃないか。」
その軽い口調に思わず微笑む。差し出された杯を受け取り、一気に飲み干す。

「美味しい。」甘くて心地よい酔いが体に広がる。
「お口にあってよかった。君はとっても可愛いね。その服も凄く似合ってるよ。」
吟遊詩人はそう言うと、そっとJadeの肩に手を回してきた。
マーキュリオに言って欲しかった台詞をさらりと口にする。
美味しいお酒と陽気な雰囲気に気分が良くなり、肩に回された手を不快には思わなかった。

「おい。」
吟遊詩人の腕がねじり上げられる。微かに焦げたような臭いもした。

いたた!と悲鳴を上げ吟遊詩人が逃げ出していく。
振り返ると、今まで見たことない怒った表情のマーキュリオが立っていた。
「何をしている。」
Jadeの腕を掴み、強引にその場から連れ出す。

険しい顔をして、無言でJadeを宿屋へ連れ帰ってきたマーキュリオをジェマイマは見逃さなかった。
仲間と食事をしていた席を立ち、2人に近づいてくる。
「お嬢ちゃんの子守?腕の立つ傭兵なのに、あなた大変ね。」
Jadeの服装を見て、くすりと笑う。

マーキュリオがジェマイマを睨みつける。
「俺の大切な嫁さんだ。」


そのまま二階へと上がり、乱暴に部屋へ連れ込まれる。
掴んでいた手を離すと、マーキュリオは背を向けたまま窓際で立ち尽くす。

ああ、くそっとマーキュリオが呟いた。
大きくため息をつき振り返ると、Jadeが声を出さないように唇を噛み締めて涙を零していた。
触れようとマーキュリオが一歩踏み出すと、びくっと体を縮める。

「おい。」
「ど、どうせ似合わないもの。」
「そんなこと言ってないだろう。」
「あんな、ふうに、綺麗に、なれないもん。綺麗じゃ、ないもん」

へたへたと床に座り込み、しゃくりあげるJadeを見て、最初何を言っているのかマーキュリオはわからなかった。

ジェマイマか。
そう思い当たると、「違うんだ」と呟いたがJadeの耳には届かない。

無理やり抱き上げベッドの端に座らせると、マーキュリオは椅子を引き寄せJadeの向かいに座り込んだ。
Jadeの手を取り愛おしそうに撫でる。
何度か言い淀んだ後、似合っているよと囁いた。

「・・・無理にほめなくていい・・・」俯いて、マーキュリオを見ようともしない。

「違う。」
強くJadeの手を握りしめる。折角結い上げてもらった髪も崩れて顔にかかっている。そっと優しく髪を払う。

見せたくないんだよ。
嬉しそうにしているお前をずっと見つめていたいけど、他の男に見せたくないんだ。
心の中でそう呟いた。

バツの悪そうな顔をして、Jadeを見つめる。
「全部、俺のわがままなんだ。」手に口づけしながら、傷つけたことを謝るマーキュリオの言葉を黙ってJadeは聞いていた。

すくっとJadeが立ち上がった。

「・・・似合ってる?」
「うん。」
その場でくるりと回る。
「・・・可愛い?」
「ああ、可愛いよ。髪型も、全部可愛いよ。」

「うれしい。」涙で濡れた顔でにっこり微笑む。


その夜。
遅い時間まで、Jadeと出会うまでに携わっていた傭兵の仕事の話をマーキュリオは聞かせていた。
ジェマイマは以前の雇い主で、シロディールからスカイリムへの旅路を守ってやったという。

話の途中でJadeが、すやすやと寝息を立てていることに気が付いた。
自分の妬心と、ジェマイマに対してのJadeの妬心にくすぐったさを覚えながら、腕の中のJadeと一緒に眠りに落ちて行った。

「西の風は日暮れまで」終