After a storm

後ろを振り返らぬようにして、ブーンはフリーサイドを歩いていく。
無性に、誰かと話がしたい気分だ。
今の、この気分を吐き出したくて仕方がなかった。
だが・・・誰に?

唯一思い浮かんだのが、アルケイドだった。

アルケイドはオールドモルモンフォートにいると言っていた。
「・・・行ってみるか・・・。」




オールドモルモンフォートは相も変わらず医者が忙しそうに動き回っている。
ジュリー・ファルカスがブーンに気付き声をかけてきた。
「あなたは・・・確かアルケイドの知り合いよね?今日はどんな用?」
「いや、俺は・・・。」
アルケイドに用があるなら、あっちのテントで怪我人を見ているわと教えて、ジュリーは立ち去って行く。

往生際が悪いな。
そう自分でも感じていた。
ここまで来て、どうアルケイドに話を聞いてもらえばいいのかと逡巡している自分が可笑しかった。


テントからテントへと移動して、怪我人や病人を見て回っている姿が見えた。

「・・・少し、いいか。」
「!?ブーン?どうしてここに?」


少し考えてから、Luciaに聞いたのか。とアルケイドが呟く。
曖昧に頷くブーンを見て、怪訝そうな顔をした。
暫く、互いに黙ったまま立ち尽くす。

「それで?」
「・・・え?」
「何か、話したいことがあるんだろう?君が用もなく僕に会いに来るとは思えないからな。」
ブーンの次の言葉を待つ。

「・・・Luciaに、いや、Luciaの過去をお前は聞いているか?」
アルケイドが目を細め、窺うようにブーンを見つめた。
「そうだな。そして彼女に僕の過去も話して聞かせたよ。」
「お前の過去?」

ここではちょっとと言い、アルケイドは自身のテントへブーンを誘う。

机の上の書類を片付けながら、自身の父親の話やナヴァロを追われたこと、医者になった経緯を話して聞かせる。
「Luciaから聞いてはいないのか?」
「・・・。」
「彼女と碌に話をせずに、ここに来たようだな。で、お前の話したいことはなんだ?」

暫く地面を見つめていたブーンが、意を決したように顔を上げる。

「・・・俺は、Luciaの過去を、教えて貰っていなかった。」
「まぁ、言えなかっただろうな。」
「ある男から聞かされた。」
「男?」
ブーンが頷く。
スーツを着て、Luciaを気安くルーと呼ぶ、男。
誰の事を話しているのか、アルケイドには心当たりがあった。あいつだ。

「俺は」
ブーンの言葉の続きを待つ。

「・・・俺は、あいつが奴隷だったということよりも、自分に秘密にされていたということに、ひっかかっているようだ。」

思わずぽかんとした顔になってしまうアルケイド。
「つまり、リージョンに関係があったということより、自分に言ってくれなかったということが、と。」
「・・・そういうことだ。あの男の、勝ち誇ったような顔にイライラさせられる。」

「ブーン。」
「・・・なんだ。」
「それは、おそらく、焼きもちというやつだ。」
思わず顔を背けるブーンをアルケイドは優しく見つめた。

「・・・俺は、何度も、あいつを泣かせてしまった。ここに来る前も。」
目を閉じると、夜中に一人で泣いていた姿やカーラと間違って呼んでしまった時の顔が浮かんでくる。

「ブーン。ちゃんとLuciaと話をしろ。あの男が強硬手段を取る前に。」



ブーンと別れてから、Luciaはヴァルプスとケリをつけるためにリタの店に乗り込んでいた。
もう来ないと言った後だっただけに、顔を出しにくいが背に腹は代えられない。

姿を現したLuciaを見て、リタが嬉しそうに笑った。
「もう来ないと思ってたわ!来てくれたのね。」
「ジーノ、いる?」
「・・・話をするの?」
険しい顔で頷くLuciaに、リタは二階にいるわと教える。

ドアをノックすると中からヴァルプスの声が聞こえてきた。
ドアノブを回す手が震える。

姿を現したLuciaを見て、ヴァルプスは目を細めた。

「これはこれは、運び屋か。それとも君はルーかな?」
「私は、Luciaよ。」


かちり、と撃鉄を起こした。
Luciaの動作を冷たい目でヴァルプスは見据えている。

「手が震えているぞ。」
「わ、わたしは。」
「今なら、お前を許してやってもいい。ルー、俺と一緒に来るんだ。」
いやいやというようにLuciaは首を横に振る。

その姿を見てヴァルプスの目に怒りが灯る。

「・・・あの男か。」
「え?」
「まぁ、いい。お前をここに閉じ込めておくとしようか。あいつの元へ戻らせない。」

ぎらぎらとした、その目。
今まで見たことがない、その目。


「近寄らないで。う、撃つわよ。」

「ルー、お前に撃てるのか?」
「ジーノ。いいえ、ヴァルプス・インカルタ。もう、会わない。」

銃声が一発、鳴り響いた。


震える手を、なんとか押さえつけながらLuciaはLucky38へ帰ろうとしていた。
後戻りはできない。戻るつもりもない。

ブーンはもう力(ちから)を貸してくれないかもしれないけれど、やるしかないのだ。
泣きそうな気持ちを飲み込み、フリーサイドを歩いてく。

「Lucia。」


振り返ると、ブーンが立っていた。
「ブーンさん・・・、あの。」
「・・・Lucia。俺は、お前からではなく、あの男から過去の事を聞かされたのが面白くなかったんだ。」
大人げないな、とブーンは呟く。

何かブーンに言わなきゃと焦る気持ちばかりが沸き起こる。
ヴァルプスとのやりとりの余韻がまだ残っているようで、震えが止まらず言葉がうまく出てこない。
そんなLuciaの様子に気づいたブーンが、そっとLuciaの手を取る。

「・・・なにか、あったのか?」
「わた、し、ジーノ・・・ううん、ヴァルプス・インカルタに、さよなら、してきた、の。」


「お前は話そうとしてくれたのに、耳を貸さなくてすまなかった。」
涙が零れてきて、答えることができないLuciaは、ただ首を振るしかなかった。
「・・・一緒に、フーバーダムへ行って戦いたいと思っているんだ。許してくれるか?」
「わ、わたしも、だまって、て、ごめんなさい。」

ブーンがそっとLuciaの肩を抱く。
「・・・リージョン憎しになっている俺に、言える訳ない。」
「ごめ、んな、さい。」
「・・・もう、謝るな。」



Luciaが立ち去った後、銃声を聞きつけたリタが慌てて店の二階へと駆けあがっていく。

床に、一つ、銃弾が撃ち込まれた穴が空いていた。
「怪我は??」
「ああ、リタか。怪我などない。」
穴を見つめていたヴァルプスが答える。

「その甘さが、命取りになるぞ。運び屋よ。」