Bone of contention

血の味のする唾を吐き捨て、ブーンはLucky38を見上げる。

「お前は過去を伝えられるほどルーから信頼はされていないようだな。」
勝ち誇ったような男の声が耳の奥で響く。



プレデンシャルスイートにはキャスしかいなかった。
「怪我でもしたの?」
「・・・Luciaはまだ戻らないのか。」

ブーンの声音に何かを感じ取ったキャスが、眉根を寄せる。

「あんた、どうしたのよ。」
「・・・あいつ、Luciaにはリージョンの知り合いがいるのか?」

キャスの表情でブーンは悟った。
俺には知らされていない。キャスは・・・知っている。他のメンバーは?
「誰に、聞いたの。」
サングラスでブーンの表情を読むことはできない。今、あんたはどんな顔をしてるのよ。
「・・・お前は知っているんだな。」
「まぁ・・・そうね。」

ブーンが背を向けて立ち去ろうとするのを、キャスが無理やり引き留める。

「あんた何を考えてるの。」
「・・・別に、何も。」
キャスが拳に力を籠めた。
「あのこは、あのこよ。何も変わらない。」
「・・・そんなことわかってる。」
不機嫌そうにキャスの手を振り払う。

カッとなったキャスがブーンの前に立ちはだかった。
「あんたは、何もわかっちゃいない。」
「・・・あいつは、俺に、話さなかった。それで十分だろう。どいてくれ。」


キャスが腕を振り上げた時、エレベータのドアが開いた。
ラウルとLuciaが目の前で繰り広げられている出来事に目を丸くしている。
「おいおい、どうしたんだ。」ラウルが割って入る。

ブーンに腹に拳を撃ち込むと、キャスはその場を離れる。

むっつりと押し黙ったまま、ブーンは外へと出て行く。
ラウルが後を追うようにLuciaを押しやった。


「ブーンさん!!」
Luciaの声を無視して、ブーンはどんどん歩いていってしまう。Luciaは必死で後を追った。

「・・・アルケイドはどうした。」
「せんせい?オールドモルモンフォートに戻ったよ。」
「・・・そうか。」
心がざわめいて落ち着かない。Luciaとどんな顔をして話をすればいいのか、ブーンはわからなかった。

「・・・聞いた。」
「え?」
急に立ち止まったブーン。こちらを向いてくれない。
聞いた?何を?

「・・・男に、会った。そいつはお前が自分のものだと言っていた。」
「ジーノに会ったの?」
Luciaの口から男の名が零れ落ちた。
あいつをジーノと呼ぶのか。
ブーンは自分の中に湧き上がる感情が、なんであるのか考えていた。
過去を隠していたことに対しての怒りか?俺だけが知らされていなかったことへのショックか?それとも。


「おやおやおや。これはこれは。」

楽し気に2人に声をかけてきたのは、ヴァルプス・インカルタ。
「運び屋よ。シーザーは君に仕事頼みたいと、そう思う程度には評価している。」
ちらりとブーンを見ると、そこのプロフリゲートに与するより、我々に力を貸したまえと言う。
手土産を持ってきてくれるなら、シーザーはプロフリゲートに手を貸したことを忘れてくれるだろう。

運び屋は我々のものだ。・・・いや、俺のものだ。
いきなり距離を詰め、Luciaの腕を掴もうとする。

「やめろ。」
ブーンがLuciaの前に立ちはだかる。
暫くの間、2人の男は睨みあっていた。

ふと、ヴァルプス・インカルタが嗤う。
「信用していない仲間同士、お似合いではないか。」
そう言うと、背を向け立ち去って行った。


「・・・後を追わなくていいのか。」
「え?」
「俺なんかより・・・いや、いい。戻るか。」
Lucky38へ戻ろうとするブーンのシャツを掴み、Luciaは必死に引き留めた。
「ブーンさん。私。リージョンに力を貸すつもりなんてない。」
「・・・。」
「ブーンさん。」
Luciaの目を見ようとしない。

「ブーンさん!!聞いて!!」
「・・・俺には話したくないんだろう?心配するな、仕事は最後まできちんとこなす。」
そう呟くブーンを、Luciaは呆然と見送るしかできなかった