Green with envy

ラウルとの話が終わり、部屋に戻るとLuciaはすでにアルケイドと出かけた後だった。
NCRからの頼まれごとについて、もう少し話をしようと思っていたブーンは気落ちした。

「あら、Luciaと一緒に出掛けたと思ってたんだけど」
独りでぼんやりとしているとことにキャスが声をかけてきた。
「・・・アルケイドと出かけたようだ。」

ふぅんと呟き、何か言いたげな表情でブーンを見つめるキャス。
「・・・なんだ。」
「いや、別に。NCRからの仕事なのに、アンタと一緒じゃないのが不思議だっただけよ。」
別に約束していた訳でもないからな、と自嘲気味に答える。

キャスがじっと見つめてくるのに居心地の悪さを覚えたブーンは、少し出てくると呟いてプレデンシャルスイートを後にした。


急に自由な時間が出来てしまった。
さてどうするか、と考えているところへ、怯えた表情をした女性がブーンに縋りついてきた。

「た、たすけてください!」
「・・・いったいなんだ?」

フリーサイドで喧嘩に巻き込まれて、友人がひどい目に遭っている。
あなた、NCRの人でしょう?助けてください!
女性はそう繰り返す。

「・・・まて、俺はNCRの人間では・・・」
「他の人にお願いしても、誰も聞いてくれないんです!酔っぱらって、抱きつこうとするし・・・」
Strip地区でふらふらしているNCR兵はギャンブルにのめり込んだり、ゴモラで欲望を満たしたり・・・いい話は聞かない。
ブーンの言葉を待たずに、女性はフリーサイドへと走って行った。

小さく舌打ちして、仕方がなく後を追いかける。


フリーサイドの路地へと入り込んだブーンは、女性が言っていたような喧嘩があったような様子を感じられずにいた。
どういうことだ?

曲がり角に、スーツを着た男が1人立っているだけだった。

声をかけてみるか・・・?そもそもあの女はどこにいったんだ・・・?
ゆっくりと路地を進んで行く。

「・・・女がここへ来なかったか?」
「・・・。」
「ここで何か起こったか?」
「・・・。」

帽子を目深に被った男の表情を読み取ることはできない。
ブーンの問いかけにも答えず、腕組みをして佇むだけだった。
応える気もないようだ。

その立ち居に、どこかで見たことがあるような気がしたが思い出すことができない。
あの女がどこへ行ったのか気にはなるが、ブーンはLucky38へと戻ることにした。




「おい。」

ブーンが振り返ると、男は静かに腕組みを解き、こちらに向かって歩き出す。
「ルー、ああ、お前らは”運び屋”と呼んでいたか。」
その物言いが記憶を呼び戻した。
Lucky38の前で、Luciaの腕を掴んで引き留めていた男。
その後・・・赤いドレスをプレゼントした男。

思わず男を睨みつける。

「あいつは、俺のものだ。」
「・・・何を言っている。」



男はブーンを憎悪を含んだ目で凝視する。
暫く2人は睨みあったまま、動こうとしなかった。


「俺とあいつは昔からの知り合いだ。お前らが出る幕ではない。」
「・・・知り合いだかなんだか知らんが、Luciaは誰のものでもない。」

ブーンの、その言葉にカッとなった男は、胸倉を掴み締め上げる。



蔑んだような表情でブーンの胸倉を掴む手に力を籠め、足元に唾を吐き捨てる。
「お前みたいなプロフリゲートは十字架がふさわしい」

ぐいと顔を近づけニヤリと笑うと、空いた手でブーンを頬を殴った。

「元々俺の所の奴隷だ。軽々しく名前を呼ぶな。あいつは俺のものだ。」
奴隷。
その言葉を使う人間は他に考えられない。
男の手を振り払おうとブーンが藻掻くと、急に掴んでいた力が緩んだ。




土を蹴る音がし、咄嗟に飛び退る。

銃を構えようと手を掛けると、男はふてぶてしい表情でブーンを見つめてきた。
「NCRは罪もない一般市民を、撃ち殺すのか。」
「・・・!お前・・・リージョン兵だろうが・・・!」
ふん、とブーンの言葉をあしらう。
一体俺のどこがリージョン兵だと?証拠は?そうやってでっち上げて捕まえるのがお前らのやり方か。


口の中で血の味がした。
ここで、この男を撃ち殺すことはできるだろう。
だが。
恐らく何か仕組まれている。
NCRの不評に、更には・・・Luciaの不評につながるような真似は、できない。

ブーンが銃から手を離したことに気付き、勝ち誇ったような顔をして男は言い放つ。
「まぁ、お前は過去を伝えられるほどルーから信頼はされていないようだな。」
お前の目の前で、あいつを奪ってやるよ。楽しみにしておけ。

立ち去って行く男を、ブーンは怒りに燃える目で睨みつけていた。



リタのカフェに、ヴァルプスの姿があった。
「終わったの?」
「・・・まぁな。」
「何かあったらと、フリーサイドの手下たちも控えてたのよ。」
「あんな奴に何ができる。」

俺のものにならないなら。誰のものにもならないようにしてやる。
ヴァルプスは、ブーンの表情を思い出し、面白そうに喉を鳴らす。

「さてと。仕上げにかからないとな。」