Nothing At All

Luciaがブーンと共にHoover Dumへ出かけた日。
キャスとアルケイドはNCRのやり方について、あれこれと話し込んでいた。

「NCRに占拠されるのは・・・俺は良くないと思っている。」
「まぁね。だからと言ってリージョンに蹂躙されるのは、ごめんだわ。」
「それは、俺もそう思うよ。」

2人で顔を見合わせて溜息をつく。

Hoover Dumから慌ただしく戻ってきたLuciaはブーンと別行動を取るようだ。
心配そうにしていたが、ブーンは敢えて何も言わなかった。


「おい、Luciaはどこへ行ったんだ?」
「・・・NCRに頼まれたことを片付けに行った。」
「独りでか?お前、なんでついていかないんだ。」
ブーンが恨めしそうな目でアルケイドを睨む。

「あいつが、決めたことだ。」

言葉少なにブーンはムーア大佐に指示された内容をアルケイドに説明する。
Mr.ハウスを排除せよ。
それが、NCRから下された指令。

キャスと話していた時に感じていた嫌な予感が当たったような気がした。
NCRは、あの子をなんだと思っているんだ。
アルケイドの顔に浮かんだであろう思いを、ブーンも感じているのか、悔しそうに唇を噛み締めている。

ラウルに呼ばれてブーンが立ち去って暫くすると、Luciaが上の階から戻ってきた。
いつの間にか後ろに立っていたLilyがLuciaを出迎える。
Lilyの大きな体に抱きつくと、ほっとした表情を見せた。


「Lucia、ちょっといいか?」
「どうしたの、せんせい?」
Lilyとの話が終わったところを見計らい、アルケイドがLuciaを呼ぶ。

Lucky38から外に出て、アルケイドはLuciaに過去の話をする。
エンクレイブの士官である父親のことや、ナヴァロで生まれたこと、NCRやB.O.S.に人々が殺されたこと。
「だから・・・NCRがVegas地区を占領することなくHoover Dumで勝つように支援できないかと考えている。」
「うん。」
アルケイドに誘われて、エンクレイブの残党に声をかけに行くことになった。


Jacob’s Townとノバックから一度フリーサイドへと戻ってくる。
「Westsideにジュダ・クリーガーがいる。あと、北の農場にはオリオン・モレノ。あとは・・・ジョンソンだな。」
「じゃあ、まず近場のWestsideに行こうか?」




「あら、あなた。もう怪我は大丈夫?」

アルケイドと連れ立って歩いているところに、急に声をかけられた。
派手ではないが小綺麗なワンピースを着た女性が、2人に向かって歩いてくるのが見える。
知り合いなのか?とLuciaを見て小首を傾げるアルケイド。
Luciaも誰なのかわからず、いぶかし気な顔をする。

女性は、そんなLuciaを見て、にこりと微笑んだ。
「この間と髪型も服装も変わってるから、わからないかな。リタよ。」
「・・・?あ、リタさん!?雰囲気が全然違うから、わからなかった・・・!」

アルケイドにリタを紹介する。
先日フリーサイドの通り魔に襲われた時に、助けてくれたのだと。
「ああ、あの日助けてくれたのは君なのか。僕からも礼を言うよ。」
リタがふわりと笑う。
「あなた・・・このこのお兄さん?」
「ち、ちがうよ、リタさん!アルケイド先生は、仲間だよ。」
「あら、これは失礼しました。」

折角会ったのだからと、リタが二人を店に誘う。
一瞬Luciaが戸惑ったのをアルケイドは見逃さなかった。
リタは気付いていないのか、Luciaの手を取って店へと歩き出す。


リタのカフェは、準備中のため客は誰もいなかった。
さぁ、座って。コーヒーを出すわね、とリタがキッチンへと姿を消す。

物珍しそうに辺りを見回して、アルケイドは近くのソファに座り込んだ。
「Lucia?」
「あ、うん。一休みさせてもらったら、Westsideに行こうね。」
「どうした?落ち着かないようだが。」

Luciaが口ごもっていると、店の扉が急に開き、スーツを着た男が1人中へと入ってきた。

「今、店は準備中だ。出て行け。」
冷たい声にアルケイドが思わず顔を顰める。

スーツの男はヴァルプス・インカルタだった。
アルケイドをちらりと見た後、Luciaを見つけて険しい顔をした。
二人が座る席に大股で歩み寄ると、腕組みをして見降ろす。

「・・・ルー。お前に聞きたいことがある。」
「や、やめてよ。」
「こい。」
Luciaの腕を掴み、無理やり連れ出そうとするヴァルプスをアルケイドが止める。

「やめろ。アンタ一体何のつもりだ。」
「・・・失せろ。」
ヴァルプスの勢いにアルケイドが怯んだ。
その隙にLuciaを立たせ、二階へと連れて行く。

後を追いかけようとするアルケイドを、キッチンから出てきたリタが止める。
「あらあら。先生、ちょっとだけ私と話をしましょ。」
「いや、あいつがLuciaを。一体なんなんだ。」
「大丈夫よ。酷い目にあわせたりしないから。」
「どういうことだ!?あんな乱暴に・・・!」
「はい、先生。コーヒー飲んで落ち着いて。」


腕を掴まれたまま階段を上がり、部屋の中へと連れ込まれる。
「ジーノ!!痛い!!」



壁に押し付けられ逃げ場がない。
思い切り睨みつけるが、ヴァルプスの険しい顔を見て視線を逸らしてしまう。

「どういうことだ。」

怒りと絶望が入り混じったような、そんな声音だった。
「どういうって・・・なに・・・が。」
「お前は、あの男と行動を共にしているのか。」
「あ、アルケイド先生は、仲間、だよ。」

ヴァルプスが舌打ちをした。

「違う。俺が言っているのは、あいつのことだ。あの男。」
憎々し気に、カーンズやブーマーとNCRを取り持ったことやMr.ハウスが殺害されたことを口にする。
ブーンのことを、ヴァルプスは言っているのだ。

「・・・NCRと心中なぞ、させんぞ。」



あ、と思った瞬間、ヴァルプスに口を塞がれた。
驚きすぎて、体が動かない。

「お前は、俺のものだ。」

その言葉で、正気に返り、思い切り頬をひっぱたく。
「ふ、ふざけないで!!」
確かにリージョンの奴隷だった頃、優しくしてくれた少年の事は好きだった。
でも、もうそれは過去なのだ。
過去なのだ。

「わ、私はリージョンに手を貸したりしない。もう奴隷じゃない!!!」

ヴァルプスの体を突き飛ばし、部屋から飛び出す。


泣きながら階段を降りてきたLuciaに気づいたアルケイドがリタを押しのける。
「Lucia!」
「リタさん、私、もう来ない。ここには来ない。」
「・・・そう、残念だわ。」

リタがハンカチを取り出し、Luciaの涙を拭く。
「リタさん、は、知ってた、の?」
「あの人が貴方のことを好きなこと?」
「ち、ちが、ちがう。わたし、が。」
ふふ、と笑ってLuciaを抱きしめる。

二階からヴァルプスが降りてくる音がした。
リタが、早く出て行くようにと2人を入り口のドアへと押しやる。

「幸せにね。」


外に出てからも暫くの間、Luciaは声を出さずに泣いていた。
アルケイドは何も言わず、そっと隣に寄り添っている。

「せんせい。」
「うん?どうした?」
「わ、わたし。前に、あのね。前に。」
ぽんぽんと優しくLuciaの背中を叩く。
落ち着いてから、ゆっくりと話せばいい。

ジーノと呼んでいた少年の家の奴隷だったこと。
少年は、優しかったこと。
そして、先ほど、過去と決別したこと。

時々、しゃくりあげながら、自身の過去についてアルケイドに話す。
「黙ってて、黙っててごめんなさい。キャスさんには話したこと、あるの。」
そうか、と穏やかに行ってアルケイドはLuciaの頭を引き寄せた。
「もう、いいんだよ。Lucia。お前は、自由なんだ。」

ブーンに、いつか言わなきゃと思っているけれど。
いつ言えばいいのかわからない、と言うLucia。
どこかタイミングを見て、話そう。今日は、ゆっくり休もうか。
アルケイドの言葉に、にっこりとLuciaは微笑んだ。


「・・・馬鹿ね、焦るなんて。」
ヴァルプスの赤く腫れた頬を見て、リタが呆れたように言った。

じろりとリタ睨みつけると、無言で近くにある椅子にどさりと座り込んだ。

「あいつは、俺のものだ。」
そう呟くと、考えを巡らせ、冷たく笑った。