目覚め

焦げる臭いがする。仲間たちの呻き声が聞こえた。
ひとり、またひとり、倒れる。
助けを求めて差し出される手を掴もうとするが、届かない。
足が動かない。叫ぼうとしても声が出ない。

耳を劈くような大音量がして、辺りが血の海に。

そして、暗転。


天井を見つめ、今ここがどこであるのか、暫し考える。
いつもの夢。
ここは、ヴァン・ローンの安宿。
汗で肌に張り付くTシャツを脱ぎ捨てながら、リース・コナリーは吐息をつく。

ベッドに腰かけ時計を見ると、まだ早朝。5時前だ。
辺りは暗く、人の動く気配はない。
シャツを着替え、ブーツをひもを結ぶ。
机の上に置いてあるカメラを手にして、リースはまだ夜が明けていない町へと彷徨い出した。


悪夢はいつも同じ。
助けを求める仲間を救うことができずに終わる。
頭をすっきりさせるために、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

荒廃した大陸の中でいち早く復興を遂げようとしている都市ヴァン・ローン。
政府機関の関係者たち、大企業の裕福な金持ちなどが暮らす中央地区(セントラル)には、ビルが立ち並ぶ。
中央地区を取り囲むように、中流階級である労働者や技術者たちの住むミッドタウン、ミッドタウンからも弾きだされた浮浪者や犯罪者たちのいるスラム街が混在している。

リースは宿を出て、街の外れにある廃墟へと向かった。

「カテドラル」
今は崩壊しているが、以前は荘厳なステンドグラスがあり、人々が休息と祈りを求めてやってくる場所であったらしい。
砕け散った硝子を踏みしめ、辛うじてドーム型を維持している天井を見上げた。

かしゃり、かしゃりと、気が向くままにシャッターを切る。
今時使うものがほとんどいないような、年代物の古びたカメラ。
フィルム式のカメラはある意味貴重品だ。
世界中を旅しながら、気の向くままに風景をカメラに収めてきた。

うっすらと朝日が差し込み出し、足元が明るくなってきた。
廃墟の中に漂う静寂が心を落ち着かせてくれる。

そろそろ宿へ戻るかとカテドラルから足を踏み出した時、誰かが走る足音を耳にした。

1人。
少し離れて、2、いや3人。
追われているのか。
巻き込まれるのはごめんだ、とリースは足早にカテドラルから離れようとする。


目の前に、黒いパーカーのフードを目深に被った人物が飛び出してきた。
ぶつかりそうになり、慌てて身を翻す。

フードの中からリースを見つめるその瞳には、恐怖と焦りが映っていた。
「・・・っ、たす・・・」
青年は後ろを振り返りながらリースに助けを求める。
走り続けてきたために、言葉が出てこない。
リースが小さく舌打ちしたのが聞こえ、青年は絶望した。

じゃり
見ると、青年を追いかけていたと思われる男3人が静かに近寄ってきていた。
「おい、そこの。」
「・・・。」
「そのカメラはなんだ。余計なものを撮ってないだろうな」
カメラを掴もうとして伸ばしてきた腕を、リースは捻り上げる。

反撃されるとは思ってもいなかった男たちは、一瞬虚を突かれる格好になった。
カメラを取ろうとした男の肩関節を外し、首の付け根に手刀を振り下ろす。
男を転がすと、腰にさげていた銃を奪い取った。


3人の中でリーダー格の男が、意識を失い倒れ伏す仲間を冷たい目で見降ろすと、足蹴にした。
「そいつを大人しく渡せば、てめぇを見逃してやってもいいんだぞ。」
青年は怯えて後退りする。
捕まえようと伸ばす男の腕をリースが掴む。

あっという間に2人を倒すと、銃にサイレンサーついていることを確認し、3人の足を撃ち抜いた。

「行くぞ。」
真っ青になっている青年の肩を押すと、リースは走りだした。


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