Blue Blood,Bad Blood

マーキュリオと一緒に旅に出るために、Jadeはウィンターホールドの学長としての仕事を懸命に片付けていた。
トルフディルとも話をして、不在の間は学長代理としてトルフディルに学校を預かってもらうことに。
オンマンドやジェイ・ザルゴ、ブレリナといった学友たちにも力を貸してくれるよう頼み込む。

「本当はトルフディル先生に学長やってもらいたいんだけどな。」

トルフディルは穏やかに首を横に振る。
「君が学長だよ。」
「ま、いいんじゃないか?ずっと学校にいなくちゃ駄目だって規則もないんだしさ。」
「見識を深めるってやつだな。ジェイ・ザルゴも負けないように勉強するぞ。」

机の上の散らかった書類を片付けながらブレリナも同意する。
「それで、大体終わったのかしら?」
「うん!みんなありがとう。明日リフテンに戻って、マーキュリオと合流する予定。」

リフテンから南周りでホワイトラン方面へ抜けて、マルカルスへ向かうつもりであることを話す。

ドゥーマーの遺跡やノルドの遺跡など、冒険する場所は沢山あるのだ。
そんな話を楽し気にしているとことに、手紙を届けに配達員がやってきた。


「Jadine Balladur様はいらっしゃいますか?」

Jadeが怪訝そうに配達員を見つめる。
「・・・誰に言われて、ここに来たの。」

声をかけられた配達員は手紙をJadeの手に渡す。
「ああ、貴方でしたか。Balladur伯に手紙を渡す様に言われております。」
受け取った手紙をすぐには開けようとしないJadeを、オンマンドたちは心配そうに見守る。


手紙を渡したにも関わらず、配達人は立ち去ろうとしない。

「・・・なに?なんなの?」
「返答を持ち帰るように、Balladur伯に言われておりまして。」
Jadeの顔が歪んだ。

大きく溜息をついて、渋々手紙を読む。
ジェイ・ザルゴが興味本位で覗き込んだ。
「Jade、父さんが亡くなったって書いてあるぞ!」
「そのようね。それよりも・・・。」
Jadeには父が亡くなったことよりも、その先に書かれている一文に気を取られた。

「家に戻り、婚儀の準備を整えるように」

配達人が慇懃無礼に返答を訪ねてきた。
「いかがなさいますか?我々と共にハイロックへ戻りますか?」
「我々・・・?他に誰かいる訳?」
「ええ、Tessier伯もいらっしゃってます。」
「Valentinですって・・・?」

手の中に炎の球を作り、受け取った手紙を灰にする。

「これが答えよ。クソ兄貴に、Jadineは死んだと、そう伝えなさい。」
「しかし」
「とっとと出てかないと、アンタも灰にするわよ。」

怒りに燃える瞳で見据え、手を振り上げたところで、配達人が慌てて学長室から飛び出して行った。


「・・・嫌なもの見せて、ごめんなさい。」
トルフディルや学友たちに、故郷のことを少しだけ話す。
後継ぎである兄だけを溺愛する父母に、横暴な兄。
その頃は魔法が下手で、家族皆から馬鹿にされていたこと。
兄とその友達たちに、ひどくいじめられていたこと。

ブレリナが思わずJadeの手を握りしめる。

「もう大丈夫。故郷を出る時に、全部捨ててきたつもりなんだけどね。まだ追いかけてくるとは思わなかった。」
「お父様が亡くなったって。」
「どうでもいい。クソ兄貴が後を継いで、母も大喜びなんじゃない?」

それより気がかりなことは、Valentinが一緒にSkyrimまで来ていることだ。
Jadeをどうしても連れ戻そうと、兄が考えていると思うとぞっとした。

「トルフディル先生、申し訳ないんだけど急いでリフテンに戻るね。旅に出るのを早めようと思う。」
「承知したよ。また配達人が来たら、追い払っておこう。」
「ありがとう。行ってくる。」




Jadeの帰りを待ちながら、マーキュリオは旅支度を始めていた。

タレン・ジェイから、宿屋に置かれていた手紙のことで相談を受けたことを思い出し、手紙の中身を確認しているところに、ドアをノックする音が聞こえてきた。
手紙に気を取られ返答が遅れると、更に強く扉をノックされる。

溜息をつきながら、マーキュリオは入り口へと向かう。
ハニーサイドまでやってくるなんて、タレンやキーラバだろうか。

「誰だ?」

扉を開けると、そこにはSkyrimでは見かけない豪華な服装をした背の高い男が立っていた。
じろじろとマーキュリオを眺めると、家の中に視線を移す。
「ここにJadineがいると聞いたんだが。」
「Jadine?誰の事を言っている?」
「まぁ、中で待たせてもらおう。」

家の中に図々しく入り込もうとする男を、マーキュリオは押し返した。


「マーキュリオ!!」
そこへJadeが息を切らして戻ってきた。

マーキュリオと言い合いをしている男の顔を見て、ぎょっとした表情になる。
「Valentin。アンタなんでこんなとこにいるのよ。」
「やぁ、Jadine。やはりここにいたんだね。」
にこやかに笑うと、男はJadeの手を取ろうとした。

その手を振り払い、話をするために家の中へと仕方がなく招き入れる。

ValentinはJadeの父が亡くなり、兄であるJaspeが家を継いだことを話す。
兄はすでにハイロックの名家の娘と結婚しているが、より家系を強固なものにするためにTessier伯の次男であるValentinとJadeを結婚させようというのだ。

「・・・私はもう結婚してるの。彼が、その相手よ。大切な人。」
マーキュリオを庇うように、前に立つ。

2人を眺めていたValentinが肩を竦める。
「Skyrimでの結婚だろ?そんなのハイロックでは何の意味もなさないよ。証拠でもあるのかい?証書は?」
「意味をなさない?証書?」
「でもまぁ、僕は妻に愛人がいても気にしないよ。僕も好きにさせてもらうから。」

あまりに言いように思わず絶句するJade。

「俺は」
マーキュリオが口を挟んだ。
「俺は、妻に愛人がいるなんてのはお断りだ。自分にも愛人など不要。しかも」
じろりとValentinを睨む。
「妻の愛人が、お前だなんて耐えられん。」

Valentinは余裕の表情を浮かべ、鼻であしらう。


優雅な手つきでJadeの肩にかかる髪に触れながら指を絡ませる。
幼い頃、髪の毛を掴まれて虐められた記憶が蘇り、体が固まった。

「Jadine、僕が長い髪が好きだと言ったから伸ばしたんだろう?」

確かに髪を伸ばすことになったきっかけはValentinのひとことだった。
そこから兄や母が、せめて女の子らしく見える様に髪の伸ばすべきだと強制したのだ。
Jade自身の意志など無視して。


「ふざけるんじゃないわよ!!」

マーキュリオが止める間もなく、Valentinが掴んでいた髪をナイフでそぎ落とす。
「その髪でも持って帰って、JaspeにJadineは死んだと伝えたらいい。Jadine Balladurは、もうこの世にはいない!」

手の中に残った髪を見つめ、Valentinは憎々し気にJadeを睨みつけた。
「下手に出てればいい気になりやがって。」
「それはこっちの台詞だ。3つ数えるうちに出て行け。」
マーキュリオが手の中でバチバチと音を立てる光の球を作り出した。


「マーキュリオ」
「うん?」
「・・・ごめんなさい。うちのことで嫌な思いさせて。」

一部分が短くなった髪を、どうせならとマーキュリオに整えてもらいながら、Jadeは先ほどの出来事を詫びた。
ほら、終わった。と肩についた髪を払い落としてもらう。
頭を触ると、今までにないくらい短くなっている。
なんだか体が軽くなったような気分だ。



「しばらくここにも戻らないほうがいいだろうな。」
「うん・・・。」
「タレンに調査を頼まれたこともあるし、丁度いい。長旅になるぞ?」
「大丈夫。大学にも言ってあるよ。」
にっこり笑うと、マーキュリオは短くなったJadeの頭を優しく撫でた。

「お前の過去のことは、話したくなったら話せばいい。」

Jadeが何か言いかけて言葉を飲み込んだ。
マーキュリオはJadeに話をするように促す。

「Valentinのこと・・・。あいつ、あの、昔の恋人とか、そういうのじゃなくて。」
「うん。」
「あいつが好きだから、髪を伸ばしたわけじゃない。」
「わかってる。」

マーキュリオはJadeを抱き寄せ、口付けた。
JadeがValentinに、マーキュリオを「大切な人」と紹介したことがとても嬉しかった。


手早く旅の用意を整えると、ビーアンドバルブに立ち寄りタレン・ジェイとキーラバに暫く戻らないつもりである旨を伝える。
キーラバの元にはすでに、Valentinが二人の家を訪れていたという情報が届いていた。
「家を見張っておくようにしよう。」
「すまんな、タレン。」
「留守中、よろしくね。」


二人に見送られながら、Jadeとマーキュリオはリフテンを後にした。
久しぶりに本格的な長旅になると思うと、Jadeはわくわくした。
実家にいた頃には味わうことなどなかった高揚感。
そして、一緒にいてのびのびと過ごすことができる、相手がいること。

「ぼやぼやしてると置いて行くぞ。」


心の底から、Skyrimに来て良かったと思いながら、マーキュリオの後を追いかけた。


「Blue Blood,Bad Blood」終