Saudade 2

指輪を弄びながら、昔の記憶を呼び戻す。

「俺は・・・ハンマーフェルのとある町で貿易商を営む両親のもとに生まれた。」

シセロがDiyaabに腰かけるようにと椅子を持ってきた。
自分も近くにあった椅子に座り、聞く体制を整える。

Skyrimに来て以来、すっかり忘れていた故郷。
そして、あの娘。



祖父の代から家業が栄え、街でもそこそこ名の知れた家柄だった。
そして父とその弟は、裏で暗殺者ギルドと繋がっていた。自身も暗殺業をこなすことがあった。
父は近隣では暗殺の仕事は決して引き受けず、商談と称して出た旅先でのみ仕事をこなしていた。
抜かりのない人だったはずなんだがなと、父親の事を思い出す。

母親はいいところのお嬢様で、家業についてはとんと興味を示さなかった。
それでも、仲の良い夫婦だったとDiyaabは思う。
父が長旅に出ると母親は寂しがったものだ。父が無事に帰ってくるようにと神に祈りを捧げていた姿が思い出される。

Diyaabが13歳になろうとした頃。
父から家業を継ぐ気はあるかと尋ねられた。
その頃はまだ父や叔父が暗殺者ギルドの仕事をしているとは知らされておらず、暢気に貿易商の家業を継ぐことをぼんやりと考えていた時期だった。
息子にその気があることを感じ取った父は、、誕生日を境にDiyaabを自身の商談に連れ歩くようになる。


ある大きな街で、裏路地を供を連れずDiyaabと2人だけで歩いていると、暴漢に絡まれてしまった。
今思えば、あれは商売敵の指金だったのだろう。
父は顔色一つ変えず、5人ほどの暴漢を叩きのめし、リーダーと思しき人物に情報を吐かせるまでやってのけた。
「Yusry、父さんは自分の身は自分で守れるように、そしてお前たちを守れるように強くなる。」
そして息子の目を覗き込み、強くなりたいと願うかと尋ねる。


「Yusryって、聞こえし者の名前?」シセロが口を挟んできた。
「・・・ああ、俺の、幼少の頃の名だ。もう捨てた名だがな。」

シセロが話の続きを強請る。
Diyaabは茶を一口飲み、再び過去の記憶へと戻って行った。


強くなることを望んだ息子に、父親は教師をつけ戦い方を仕込んだ。
少しずつ暗殺業の事も教えていった。
商いについては、可もなく不可もなく、Diyaab自身も得意だとは思えなかったが、戦いについてはそこそこのセンスがあるようだった。
人の声音や裏を考えること、裏切られた場合の報復措置、商売相手の選び方など色々なことを教わった。

叔父もまた同業者であることを知らされたのも、この頃だった。
ただ、叔父に対してDiyaabが家業を継ぐ、暗殺業も引き受けているということは明かしていない。
父には何か考えがあるようだったので、特に問うことはなかった。

叔父は、堅実を好む父とは対照的に、華美で派手なことを好んでいた。
金遣いも荒いようだった。
妻を早くに亡くし、子供を一人で育てていた。
自分の生活に口を出されるのを嫌い、結婚はもうしないと宣言していた。
とはいえ、女の気配がない訳ではなく、内縁の妻のような存在が家を出入りしていることは周知の事実。
そんなところも、父は苦々しく思っていただろう。

「・・・叔父には、俺と同い年の娘がいてな。」
「へぇ、その娘(こ)も家業ついでたのかい?」
「どうなんだろうな。知っては・・・いたかもしれん。」

黒髪の美しい娘だった。
Diyaabに負けず劣らず寡黙で、大きな瞳でじっと見つめてきたことを思い出す。


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