Saudade 3

Saudade 1
Saudade 2
・Saudade 3

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父親の商談に付き従いながら、大人たちの裏側を観察し続けていた。
父と叔父との双方に擦り寄りながら、どちらにつくほうがより利があるか、計算している仲間もいることもうっすらとではあるが感じていた。

少しだけ、そのような話を父親に切り出したことがあったが、今はまだ気にしなくていいと一蹴されてからは口に出すことは控えることにした。

「その叔父さんとやらからは何も言われなかったのかい?」シセロが口を挟む。
「・・・俺のことを競争相手とは思っていなかったんだろう。あの時までは」


15歳の誕生日。
成人の儀を行うために、いつになく人を呼び大きな宴を催すことになった。
両親から、ずっと欲しがっていた狼犬をプレゼントされたDiyaabはいつになくはしゃいでいた。

犬は賢く、すぐにDiyaabや両親に懐いた。
ただし犬の中の序列では、父親が一番偉く、次が母、そしてDiyaabの順のようだった。
父や母の言うことはすぐに聞くが、Diyaabの指示は時々わざと聞いていないような節があった。
それでも、凛々しく忠誠心が強い狼犬をDiyaabは心から愛した。


宴の中で、父がDiyaabを後継ぎとして家業の仲間たちの前で紹介をした。
大きな歓声が上がり、Diyaabは大人たちに囲まれて酒を注がれたりする。
母も嬉しそうに客たちに、息子の紹介をしていた。

ふと、部屋の隅で父と叔父が話し込んでいるのが目に入ってきた。
そちらに近づこうとしたところで、客たちに再び囲まれてしまった。
「フィラースが自慢していた息子だ。すぐに大きな商談をまとめたりするようになるだろう。」
「ラティーファ、うちの娘を嫁にどうだ?」
「それなら、うちの娘の方が年が近い。」
客は好き勝手に話を広げ、母親がそれを笑いながら窘めている。

急に大人たちの目の色が変わったことに、思わず腰が引けたDiyaabは夜風に当たってくると言い残して部屋を出た。


外に出て、犬と一息つく。
父と共に行動をして、少しは家業の事を分かった気でいた。
大人に対しても、愚かしいと少し馬鹿にしていたところがあった。
が、実際にその世界に足を踏み入れるとなった今、恐ろしさがじわじわと心を占め始めるのを感じる。

「・・・思い上がっていたわけだ。」
「15歳なんて、そんなもんだろう?」そんなことを言いながら、シセロが茶を注ぐ。
「まぁ、いい勉強にはなったな。」


中庭を歩いていると、離れにある父の部屋から何やら声が聞こえてきた。
母の声だ。
犬を連れて急いで父の部屋へと向かう。

血の気のひいた母の顔と・・・こちらに背を向けた叔父の姿が目に飛び込んできた。
部屋の外にいるDiyaabに気づいた母は、咄嗟に近寄らないように視線で合図する。
遠くで観察するように、という絶対的な合図だった。

足元に血の海が広がっていることに気付く。
あの服の裾は、父、か?

狼犬に声を出さないようにと指示を出し、物陰から母と叔父の様子を観察するしかなかった。


「ハイサム、これは、どういうことなの。」震える声を抑えながら、母親が尋ねる。
「・・・盗賊がはいったんだ。」
「盗賊?盗賊ですって!?よくもまぁ、そんなことを・・・!」
部屋を出ようとする母の腕を叔父が強く掴む。
「なにを、するつもりだ。」
「離しなさい。」
「フィラースは盗賊に殺されたんだ。寡婦となったお前を後妻として貰ってやってもいいんだぞ。」
「な、なんてことを!!」

頬を叩く乾いた音が響いた。

「夫は、あなたの不正に気付いていたわ。ユースリーが家主となった今、あなたは裁かれるのよ。」
「ほう・・・?なるほど。ならば話は変わる。」
叔父が笑みを浮かべて母を見つめた。


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