メモリーラウンジに座り込んだ俺を安心させるように、Dr.アマリはにっこり微笑んだ。
「大丈夫よ、心配しないで。さぁ、記憶の旅へいってらっしゃい」
目を開けると、頭の中にDr.アマリの声が響いてきた。
どうやら記憶の中に入りこむことに成功したようだ。
「聞こえる?よかったわ、シミュレーションはうまくいきそうね!・・・記憶はかなり断片的だけど」
遠くに何かぼんやりとしたものが見える。そっちに向かって移動を開始する。
目に飛び込んできたのは、少年と母親だ。
裕福には見えない。父親の怒号も聞こえてくる。母と子は父親の声を無視している。
母親が少年に向かって拳銃を渡した。
何も言わずに拳銃を受け取る・・・あの少年はケロッグなのか?
少年に触れると過去の記憶にアクセスできるようだ。
少年の言葉を聞いていると、父親を殺さずに家を出たことを悔いているようだった。
NCRとその法規から逃れる場所を見つけることを心に決めたようだ。
次の記憶へと移動を行う。
次の場所は成人したケロッグと・・・女性がいる。どうやら奥さんのようだ。
娘がいるのか。
なら・・・何故俺からショーンを、ノーラを奪ったんだ。
この場面は、奥さんと娘を守ろうとしているケロッグの気持ちが感じられるような気がして・・・少し複雑な思いが胸をよぎった。
だが、次の暗い通路を歩いている場面で聞こえてくる男の嘲笑じみた声から考えるに、奥さんと娘は殺されたのではないかと思う。
そして、どんどん悪いほうへと転がり落ちていくようだ。
頼まれて人を殺す仕事。
人生に疲れ切った男の顔だ。
そして、とうとうインスティチュートが接触してきたらしい。
インスティチュート。
こいつらは本当にどういう存在なんだ?ケロッグのような殺し屋を雇って何を・・・。
そうか、次の記憶は・・・。
Vault111での記憶か。
『俺は冷酷な人殺しだが、それでも人間なんだ』
一番新しい記憶は、ダイヤモンドシティでの日々のようだ。
あれは、ケロッグと・・・ショーン!ショーンなのか!
ケロッグの心の声を聴いていると、どうやら俺をおびき寄せるためにダイヤモンドシティに2人で暮らしていたようだ。
なぜ、俺をおびき寄せる必要があるんだ?
そんなことを考えていると、どこからともなく一人の男性がやってきた。
バージルという科学者がインスティチュートから逃げ出し、輝きの海に隠れていると男は言った。
その男を見つけ出し、始末することを指示されている。
そして男はショーンと連れ立って・・・消えた。
Dr.アマリがインスティチュートの秘密を見つけて喜んでいる声を聴きながら、記憶の旅を終えることにした。
「大丈夫?ゆっくりと立ち上がるのよ。」
Dr.アマリが心配そうに声をかけてきた。
「ケロッグの一生を見た・・・。人の家庭を壊した奴の・・・俺が殺した奴の・・・」
「ええ・・・ええ・・・、そうね。どんな気分?」
「それが、よくわからないんだ。憎いのか、悲しいのか、苦しいのか・・・」
「あんなものを見せられちゃね・・・。」
ケロッグが追うことになっていた、バージルという研究者を輝きの海で見つけ出さなければと言うとDr.アマリは首を振った。
「何故、そんな場所にいるのかしら」
「ドクター、どうしてそう思う?」
「輝きの海は・・・放射能嵐が吹き荒れる場所で、まともな生物はいやしないわ。どうしても行くつもりなら、対策を考えて行かなきゃね。例えば、薬を大量に持って行くとかパワーアーマーを着込んでいくとか。」
「なるほどな」
先に現実に戻っていたニックが椅子に座って休んでいた。
「ニック、お疲れ様。本当に感謝している」
『俺の頭の中で探し物が見つかると良いな。ハッハッハ。俺は正しかった。冷凍されているときに、あんたを殺せばよかった』
その声音、話し方、ケロッグそのものだった。
恐る恐るニックに声をかける。
「ケロッグ・・・お前なのか?」
「何を言っているんだ?」
返事をしたのは、どうやらニックのようだ。
ほっと胸をなでおろす。
「今・・・まるでケロッグのようだったんだ」
「俺が?・・・そういえばDr.アマリが記憶の印象が少し残るかもしれないと言っていたが・・・」
「体に異常はないか?」
「ああ、なんの問題もない。それで、次はどうするんだ?」
「輝きの海という場所にケロッグが追うはずだったインスティチュートの研究者が隠れているらしい。」