さてと、そろそろダイヤモンドシティのニックのところに行くか。
「ディーコン、俺はダイヤモンドシティに行ってやらなければならないことがあるんだ。」
「息子さんの事か?」
「おいおい・・・なんでもお見通しか。」
「いや、すまんな。これはお前個人の問題だった。口出しして悪かった。またいつでも戻ってきてくれ。」
ディーコンと別れて、オールド・ノース・チャーチを後にした。
ニックの事務所に着くとエリーとコーヒーで一息ついているところだった。
ふと机の上を見ると、何かの依頼書・・・?
「ああ、あんたか。なんだアール・スターリングの件が気になるのか?」
「失踪事件?インスティチュートか?」
「どうだろうな。そう考えている奴らもいるようだが。あんたがやってくれるなら嬉しいよ。」
「いいよ、ニック。手伝うよ。まずは何をすればいい?」
「そうだな。まず依頼者のバディムに会いに行こうか。」
飲み終えたコーヒーカップを机の上に置くと、ニックは立ち上がり事務所を出て行った。
慌ててその後ろを追いかける。
「アール・スターリングはどんなやつだったんだ?」
「ま、それもバディムに聞くんだな。酒場ダグアウト・インでバーテンのアシスタントとして働いていたんだ。」
ダグアウト・イン
「やあ。」
「よう、いらっしゃい。注文が決まったら教えてくれ。」
「いや、アール・スターリングの事で来た。」
「ああ、バレンタイン事務所のやつか。アールが急に消えたんだ。良い奴だったのに。まぁ、女が絡むと最悪だったがな。」
バディムがどこからか鍵を出してきた。
「これは?」
「アールの家の鍵だ。家に行けば何かわかるかもしれないからな。」
「なるほど。預かろう。」
「頼んだぞ。そうだ、スカーレットにも話を聞いてみるといい。」
向こうで掃除をしている女性を指さした。
「アール・スターリングのことで聞きたいことがあるんだ。」
「アールのこと?」
「彼は・・・そうね。外見の事ばかり話してたわ。新しい顔を手に入れること。何にもならないのに。」
「新しい顔?整形したがってたのか?」
ニックと顔を見合わせる。
とりあえず、バディムから預かったアールの家の鍵を使って中に何かないか見てみよう。
ニックと2人で黙々と家探しするが、目ぼしい証拠は見当たらなかった。
家の中を荒らされた形跡もなし。荷物は生活していた時、そのままの状態のように見える。
「ふむ。どうしたものか。」
「ニック、これを見てくれ。」
ソファーの下に落ちていたレシートを拾い上げる。
「メガ整形外科センターのレシートか?」
「そういえば、スカーレットがアールは整形したがってたと言っていたな。」
「よし、先生たちに話を聞いてみよう。」
アールの家を出て、メガ整形外科センターへと向かう。
Dr.スーンが一人忙しそうに薬の調合をしたりしていた。
「ドクター。このレシートについて何か知らないか?」
「レシート?この汚い筆跡はDr.クロッカーのものに違いない。アール・スターリングは患者だったみたいだな。」
後ろにニックが立っているのに気づいたDr.スーンは、事件なのか?と聞いてきた。
ニックが目くばせで床に視線を送る。
よくよく見ると、地下に続く扉付近に赤い物・・・血のようなものが飛び散っているのが見えた。
地下で何が行われている・・・?
「行方不明者を探しているんだ、ドクター。その地下にヒントがあるんじゃないかと思っている。」
「行方不明者?アールの事を言っているんだな、そうだろう?それで気が済むのなら、仕方がない。」
渋々ながら、Dr.スーンは地下へと続く扉を開けてくれた。
地下に降りていくと、むせるような血の匂いがした。
「こりゃひどいな」さすがのニックも閉口する。
暗がりの中でぶつぶつと何かつぶやく声が聞こえてくる。
彼は一体・・・何をしているんだ?
「ドクター・・・?」
恐る恐る声をかけると、びっくりして手にしていたメスをこちらに向けて身構えた。
「ああ、悪い子だ!ここに降りてこなければよかったのに!だが大丈夫。治してやる!なんだって治せるんだ!」
「おちついて、ドクター。話をしよう、アールについて。」
アールの名前を聞くと、Dr.クロッカーはひどく落ちつかなげにその場をうろうろし始めた。
「おい。」と小声でニックが声をかけてくる。
そっと足元を指さす。
「あれを見ろ。」
「ああ、アール。本当に・・・、本当に厄介な奴だったな。」
足元を見つめながら呟くDr.クロッカーの視線の先には、死体が。どうやらアール・スターリングのようだ。
「ドクター・・・?」
「いつも通りの簡単な手術だったんだ。私は・・・そんなつもりはなかった。」
少しずつDr.クロッカーの声に焦りが混じり始める。メスを持った手に力が入っている。
「武器を捨てるんだ、先生。もう十分苦しんだんだろう?ミスをしたかもしれないけど、やり直すことはできる。」
「言っていることは正しい。できることは・・・これだけだ。」
そう言うと、止める間もなくDr.クロッカーは自分の腕に注射を打った。
あっという間に崩れ落ちるDr.クロッカー。どうやら自分で薬物を注射して、自殺したようだ。
「なんてこった・・・」足元に倒れこむDr.クロッカーを見下ろしながら、2人でため息をつく。
どうしたもんかと頭を悩ませていると、騒ぎを聞きつけたDr.スーンが地下へ降りてきた。
目に飛び込んできた惨劇に一瞬ひるんだが、気を取り直して俺たちを睨みつける。
「これは一体どういうことなんだ?」
Dr.クロッカーがアール・スターリングを殺してしまったこと、罪の意識に耐えきれなかったのか自殺してしまったことを話す。
Dr.スーンはとても不愉快そうに話を聞いていた。
出て行って欲しいと言われたので、ニックと2人でメガ整形外科センターを後にした。
バレンタイン探偵事務所へ戻るとエリーが待ち構えていた。
「どうだった?アールはやっぱりインスティチュートに誘拐されたの?」
「いや、Dr.クロッカーが手術でヘマをしてアールを殺した。」
「手術??」
ニックがよっこらせ、といつもの椅子に座り込んだのでコーヒーを出すついでに、俺にもコーヒーを渡してくれた。
「いなくなったのがアールだから、レイダーかインスティチュートの仕業かと思っていたんだけどね。で、Dr.クロッカーは今どこにいるの?独房で腐っているといいんだけど。」
ニックと2人で「死んだ」と言う。
エリーは訳がわからない、と言った顔をした。
「死んだ?」
「そう・・・。自殺したよ。罰を受けた、ということにしておこうか。」
「はぁ・・・。なんだか後味の悪い事件だったわね。あとでバディムに報告しておいてね、ニック。」