
むっとした熱気と焦げ付く臭い。
生存者を探しながら、奥へと進む。
だが・・・アーンビョルンやガブリエラは、無残な姿となっていた。
他に生存者はいないのか。
襲い掛かってくる帝国兵を返り討ちにしつつ、人の気配を探す。
どこだ。
どこにいる。
炎を避けながら、食堂のあった場所までくると争う声が聞こえてきた。
あれは・・・ナジルか!
見ると、体の大きな帝国兵と戦っている。
階段を駆け上がり、ナジルを援護する。
思ってもいない方向からの攻撃に帝国兵は思わず足を止めた。隙をついて、首を刎ね飛ばす。
振り返り、ナジルの様子を確認する。大きな怪我は無さそうだ。
手を貸し立たせてやると、肩で息をしながら・・・いつものようにニヤリと笑った。
俺が生きていたことを嬉しく思うと言い、後は見ての通りだと首を竦める。
いつものような態度に少し、ほっとした。
ナジルには皇帝暗殺が仕組まれた罠だったと伝える。
この場でアストリッドの事を話すのは得策ではないだろうと思い、詳細は伏せておくことにした。
彼女を問い詰めるのは、この場を逃げ出してからでいい。
と、立ち話はここまでだ。
逃げ出さないとな。
ナジルを先に行かせ、周りを確認していると夜母が語り掛けてきた。
棺に入れという事か・・・?
夜母は全てお見通しということか。
アストリッドは・・・ここにいるのか?どこにいたんだ?
そんなことをあれこれ考えている俺に、夜母が瞼を閉じて休みなさいと言う。
疲れがどっと襲ってきた。
がたん、という振動で目が覚めた。
・・・どうやら助かったようだ。
棺から抜け出し、息を整える。
見ればバベットもいるじゃないか。そうか、ナジルとバベットは生き残ったのか。
心配そうに俺を見つめる。
さて・・・今回の騒動の後始末をしなければな。
ナジルにアストリッドが聖域にいるらしいことを伝える。
聖域は殆どが焼け落ちてしまっている。一体どこにアストリッドはいるんだ?
余りの惨状にバベットが泣きそうな声を出す。
ここはもう使えまい。どこか新しい場所を・・・。
以前、アストリッドが使っていた寝室の奥に続く穴を見つけた。ここは・・・?
アストリッド。あんたは一体何をしたんだ。
虫の息のアストリッド。俺の姿に気づき、かすれた声で今回の顛末を話し出した。
自分自身を贄として黒き聖餐を行ったこと。
シセロや夜母や俺が現れる前の闇の一党に戻りたかった。自分なら闇の一党を救えると思っていた。
そのために俺をマロに売り渡したが、結果として自分も裏切られてしまった・・・。道を誤ったわ・・・。
馬鹿野郎が。
俺の表情に気づいたのか、いないのか。
なんとか手を動かし、短剣を指さす。
ナジルにバベットと共に後ろを向くように指示する。
俺の意図に気づいたナジルが、バベットの背を押し向こうを向かせた。
アストリッド。
あんたは、大馬鹿だ。
死ぬ以外の選択だってあったろう。俺を追い出せばよかっただろう。
彼女の短剣を手に取り、望みを叶えてやる。
ありがとう、と声にならない呟きが聞こえたような気がした。
疲れた体をおして、夜母の元へ戻る。
アストリッドの事を責めることもなく、慰めを見いだせれば良いのだがと言う夜母。
・・・そうだな。シシスと共に在らんことを。
続いて夜母は皇帝暗殺の話をし出した。
アマウンド・モティエール。皇帝の真の居場所だと・・・?
あの男も、闇の一党に一杯食わせたということか?
ホワイトランにいるらしい。
そうか。借りはきっちりと返さないとな。
ナジルと今後の話もしなければ。