Skyrim~Diyaab 別れ、そして・・・
一度自室にとあてがわれた部屋へ戻り、頭の中で計画を反芻する。
ウィンドヘルムの街中の地図も思い描く。
あの石壁は昇ることはできまい。
港へ逃げることができれば、あとは問題ないだろう。
よし、と腰を上げナジルに暫く姿を消すことを話すとしよう。
広間に戻ると、ナジルは何か書き物をしていた。
俺に気づくと何食わぬ顔をして、さっと隠す。
気づかないふりをして、空いている椅子に腰かけ・・・暫く留守を頼むと告げる。
片方の眉を上げ疑問の表情。溜息をつきながら、わかったよと呟く。
ふと、俺のマントの裾が解れている。繕ってやるから渡せと手を差し出してきた。
マントを渡すと、器用な手つきで解れた裾を縫い出した。器用だな、あんた。
マントを縫いながら、シセロはどうするんだ?と聞いてくる。
そうだな。俺がいない間、責務を全うするように話をしておこう。アストリッドの時の二の舞はごめんだ。
頷きながら、出来上がったマントを渡すナジル。
鼻歌を歌い上機嫌な様子のシセロ。
話すだけで納得するかは・・・一か八かの賭けだ。わからないなら、わからせるまで。
後ろから声をかけると嬉しそうな顔で、聞こえし者!と俺を呼ぶ。
なんだい、仕事かい?誰か殺そうよ!シセロと聞こえし者、狩へと赴こうぞ!
捲し立てるシセロの顎を掴み黙らせる。
俺は暫く姿を消す。その間、夜母とLadyの世話、闇の一党を守ることをお前に任せる。
俺の言葉を聞くと、シセロが駄々っ子のように地団太を踏んだ。
いやだ、いやだ!シセロも共に行く!!また聞こえし者が消えてしまうのは、嫌だ!!
深いため息をついて、その場を離れる。
仕方がないと呟いたのを耳にして、俺が諦めたと思ったシセロはニコニコしながら近づいてきた。
首に手を回し、足元を蹴飛ばす。
不意を突かれたシセロはうつ伏せに倒れこんだ。
一瞬何が起こったのか分からずに身動きできないでいるシセロの肩と腰に力をかけ、立ち上がれないようにする。
いいか。俺がいない間、アストリッドにしたようなことをしたら許さんぞ。
戻ってきた時に一人でも欠けている人間が居たら、お前を地の底まで追いかけて地獄を見せてやるからな。
わかったか?と声をかけるが、シセロは嫌だ嫌だと駄々をこね続ける。
髪を掴み、耳元で再び囁く。わかったのか?はいという返事しか俺は聞かんぞ。
そしてシセロの首筋に手刀を振り下ろす。
ウィンドヘルム。逃げ出すなら、この港側からだな・・・。水は冷たそうだ。
改めて街中を探索し、衛兵の動きなどを観察する。
夜になるのを待って王の宮殿へと向かうことにしよう。
ウルフリック・ストームクロークは遅くまで石拳のガルマルと話し込んでいた。
広間では執政や市民が食事をしたりしている。
ウルフリックが寝室へと引き上げると、ガルマルや執政も部屋へと戻って行った。
ウルフリックが横になっているのを確認し、音を立てないようにドアを閉める。
暫くの間、部屋の隅に隠れて衛兵が近寄ってこないか確認する。
それでは、その首を頂くとしよう。
だが想像していた以上にウルフリックに体力があり、一撃で殺すことができなかった。まずい。
大量に出血しながら、ウルフリックは剣を振り下ろす。
騒ぎを聞きつけた衛兵も駆けつけてきた。
ウルフリックに致命傷を与えることはできたが、止めを刺すことができないまま逃げ出すより他なくなってしまった。
くそっ。そう呟きながら、宮殿の外を目指す。
衛兵を切りつけながら、重い扉を押し開ける。
血糊で短剣の束がぬるついてきた。軽く袖口で血を拭きとる。
港へと向かいながら、追いかけてくる衛兵を片付ける。
先回りしていたのか、思っていたより多くの衛兵が港で待ち受けていた。
追いかけてきた衛兵を全て切り捨てた後、俺は冷たい水の中へと飛び込んだ。
「ねえ、しってます?」新人の娘がナジルに話かける。
ナジルは眉を寄せて新人を見つめる。
聞くところによると、最近見慣れない男が聖域の周りをうろついているらしい。
商人らしい身なりの男は、一定の距離を保ったまま聖域の様子を窺っているというのだ。
あいつの身内が様子を探りにでもきたのか・・・?
ナジルは心の中で、そう独り言ちたが新人には告げず周囲の警戒を怠らないようにとだけ指示を出した。
新人とナジルが話をしている横をシセロが駆け抜けて行った。
「ナジル!Ladyを連れて、いつものところへ散歩に行ってくるよ!」
手を上げて了承の意を伝える。
Diyaabが姿を消して暫くの間、シセロは食事もとらず夜母の前に座り込んでいるだけだった。
Ladyも同じように、聖域の外でじっと主人の帰りを待っている。
2人とも死んじゃう。心配したバベットがシセロの元にLadyを連れてきた。
悲しそうに鼻を鳴らし、シセロに寄りそうLady。
「嗚呼、そうだね。俺たちは2人とも、ご主人がいない間ここを守らなきゃ、駄目だね。」
Diyaabが好きだと言っていた、山中の小さな家。
ここと聖域とを行き来するのが、日課となっていた。Ladyもこの家が好きなようだ。
ふと見ると、見知らぬ老人が椅子に座って景色を眺めているではないか。
・・・誰だ?
シセロは愛用の短剣をいつでも出せる様にして、老人へと近づいて行く。
近寄ってくる気配に老人が振り返った。
左目が白く濁っている。頬の辺りにも生々しい傷跡が見える。
「じーさん、ここで何してるんだい?ここはシセロの家だよぉ」できる限り陽気な声を出してみる。
じろり、と老人に睨まれた。
そして老人はそのまま背を向けて家の方へと歩いていく。
不意に、Ladyが甘えた声をだし千切れんばかりに尻尾を振り出す。
喜びのあまり地団太を踏んでいるようにも見える。
「ちょっと、Ladyどうしたっていうんだい?」あまりの様子に驚くシセロ。
Ladyが老人の周りをぐるぐる回る。
その手に頭をぐいぐい押し付け、撫でてくれとせがむ。
老人は、しわがれた声で良い子だと呟きLadyの頭を優しく撫でてやる。
声。
その声。
シセロも老人に飛びつく。
「き、聞こえし者なのかい・・・?」
だが老人はシセロを迷惑そうに押しのけ、家の中へと入っていった。
勿論シセロも後を追う。
老人は足が悪いのか、右足を庇うように歩いている。
「シセロの目はごまかせないよ!聞こえ者なんだろう?変装してるんだね!」
老人が深い深いため息をついた。
「シセロ。外で聞こえし者と呼ぶのはやめろ」
聞こえし者だ!!シセロは喜びの余り大声を出す。
それにしても・・・その姿はどうしたんだい?変装だろ?いつもの姿に戻っておくれよ。
「変装じゃない。」
ウルフリックの暗殺に失敗した後、故郷で待ち受けていたのは懲罰だった。当然の事だ、契約を違えたのだから。
更にギルドを抜けるというDiyaabに、メンバーは容赦するはずがなかった。
生きて戻れるかどうかと思っていた時、ギルドのリーダーが紙切れを手にDiyaabの元へとやってきた。
ナジルが何かあった時の為にと、Skyrimの闇の一党ここにありという噂を流し、更にはDiyaabのマントに密書を仕込んでいたのだ。
そのお蔭で生きて出ることができ、Skyrimに戻ってくることができた。
しかし左目は濁ったままだ。足の傷も癒えていない。
「聖域に戻ることはできない。この体では迷惑をかけるだけだからな。」
「駄目だ!駄目だよ、聞こえし者!!もし体が動かないなら、シセロが代わりに動く!君は母の声を聞くんだ!」
「母の声・・・か。俺にはもう聞こえないんじゃないか?」
シセロが必死の形相でDiyaabにしがみつく。
ナジルも待ってる。バベットも待ってる。皆待っているんだよ、聞こえし者!
仕方がないな、と溜息をついてDiyaabは聖域へと戻ることに同意した。
シセロが連れてきた老人を見て、ナジルとバベットは絶句した。
「お前・・・生きていたんだな。俺の小細工は・・・無駄じゃなかったんだな。」
「ナジル、助かった。」
バベットはDiyaabの腰に抱きついてきた。余りの勢いに倒れこみそうになる。
シセロがDiyaabの手をひいて、夜母の前へと連れて行く。
「母よ、愛しき母よ。放蕩息子が帰還したよ。」
「よく戻りましたね、若者よ。」
不意に涙がこぼれてきた。俺は、俺の居場所に戻ってきたんだな。
長々とお付き合いいただきましたDiyaab編。
これにて終了となります。お読み頂き、ありがとうございました!