
翌朝。
泊まっていた部屋から出ると、アルバが宿屋から出て行こうとする後姿が見えた。
一晩中ここで飲み明かしていたのだろうか。
リディアとエリクに目くばせをし、合図を送る。
気づかれないように距離を保って、後を追うことにしよう。
アルバは気づいているのか、いないのか。
振り返ることもせず前を歩いていく。
フロガーと一緒に住んでいると言っていたのを思い出す。
家にいたら・・・面倒だ。
アルバが入っていった家の前で暫く待つ。
リディア:従士様?
ilex:フロガーがいたら、嫌なのよね
エリク:あー、確かに。面倒くさいことになりそう
ilex:とはいえ、このまま待っている訳にもいかないわね。よし、行こう
扉に手をかけると、ぎぃと音がしてあっさりと開いた。
中を窺うがフロガーはいないようだ。アルバの姿も見えない。
3人はそっと家の中に滑り込む。
地下へと続く階段がある。
アルバはそこにいるのだろうか。
音を立てないように気を付けながら、階段を降りて行く。
地下の部屋には・・・棺桶?
そこにアルバが横たわっているのが見える。
気配に気づいたのか、ゆらりとアルバが起き上がった。
燃えるような赤い瞳に見つめられたエリクが背負っていた剣に手をかけるのと同時に、リディアがアルバに向かって斬りかかって行く。
リディア:ウラーーーー!!!
エリク:・・・アルバに害を為す者は許さない・・・
ilex:エリク!!!
ilexがエリクの横っ面を殴りつける。
アルバが倒れたことによってエリクの催眠を解けたようだ。
殴られて痛む頬を押さえて、恨めしそうにilexを見つめる。
エリク:ひどいよ、ilex・・・
リディア:まぁまぁ。何を読んでいるのですか、従士様?
ilex:アルバの日記みたい。棺桶の中にあった。
エリク:日記?何が書いてあるんだい?
ilex:・・・どうやらモヴァルスとかいう吸血鬼の長が絡んでいるようね
この日記を首長に見せれば証拠となるだろう。
ついでに吸血鬼退治に行こうか。
フロガーは有罪か無罪かと首長が聞いてくる。
そんなことよりも、とアルバが吸血鬼であること、街を支配しようともくろんでいたことを告げる。
初めはilexの言葉を取り合わない首長だったが、アルバの日記が決定的な証拠となった。
日記を読みながら唸り声を上げる。
元凶を倒してきて欲しいと首長に頼まれ、二つ返事で依頼を受けるilex。
ilex:正直な話、フロガーのことは知ったこっちゃないけど
イドグロッド:けど?なんだね?
ilex:ヘルギがね。あの娘をちゃんと弔ってあげたい
イドグロッド:・・・そうか。あんたは見えたんだね。
リディア:従士様、早速向かいましょう
イドグロッド:ああ、そうそう。腕の立つ戦士を連れて行くといい
エリク:腕のいい戦士?
そんなのいたかな?と3人で首を捻りながらハイムーン広場を出ると、そこには町の住人たちが待ち受けていた。
町の衛兵ならまだしも。
大勢連れて行って、操られたら目も当てられない。
いきり立つ住民たちを無視して、ilexはモヴァルスがいる隠れ家へと走り出した。
慌ててリディアとエリクが後を追う。
住民たちに追いつかれる前に片付けてしまおうと、大慌てで洞窟に飛び込む。
蜘蛛や見張りを倒して、更に奥へと進む。
開けた場所に出た。
テーブルの上に、チーズやワインの瓶、そして・・・なんの肉なのか知りたくもないが、肉の塊が置かれているのが見える。
玉座ような椅子に座っていた男が闖入者に気づき立ち上がった。
吠えるような声で手下の吸血鬼たちを呼び寄せる。
操られる隙を与えず、ilexがダガーを突き立て、リディアが剣を振り下ろす。
モヴァルスや他の吸血鬼たちも全て倒した。
もうこれでモーサルは吸血鬼に悩まされることはないだろう。
ほっと溜息をつくilexの肩をリディアが優しく叩いた。
顔を上げると、隠れ家の入り口にヘルギの姿が見える。
ヘルギ:良くしてくれて、ありがとう
礼を言うと、ヘルギは姿を消した。
首長にモヴァルスを倒したことを伝えると、大喜び。
まさか倒せるとは思っていなかったと、思わず本音が飛び出した。
苦笑いしながら3人で顔を見合わせる。
イドグロッド:モーサルの住民は、皆あんたを手本にするとよいのだけれど
ilex:とりあえずフロガーとソンニールの尻は蹴っ飛ばしておいて
リディア:従士様!
イドグロッド:ははは。考えておこう。さて、従士の枠が空いているんだが、あんたなら大歓迎だよ
エリク:従士だって、ilex!
ilex:うーん、今すぐには答えられないかな。ああ、そうだ。私たちウステングラブに行きたいの
イドグロッド:ウステングラブ?なんだってあんな遺跡に行くんだ
そう言いながらも首長は北に少し行けば遺跡があると教えてくれた。
用事を片付けたら、また来るかもしれないと首長に伝えハイムーン広場を後にする。