
長旅というが、いったいどこへ行くと言うのだろうか。
プレストンに行先を尋ねてもはぐらかすだけだった。
「スタージェスには言ってあるのか?」
「ああ、それなら心配はいらない。新人を連れて居住地を廻ると話してあるから。」
そう言うと、また俺を見てにこにこと笑う。
「あんたが傍にいてくれて、私は幸せだよ。」
臆面もなく、そう言うプレストン。
俺の表情を見て、困らせるつもりじゃないんだと呟く。
そろそろ出るか、とソファから立ち上がるプレストンに続いてタフィントン・ボートハウスを後にした。
バンカーヒルに立ち寄り、食料と水分を補給する。
店主とのやりとりはプレストンに任せて、俺は帽子を目深に被り出来る限り目立たないようにしていた。
手渡された食料をバックパックに仕舞い込みながら、まだ南下するのかプレストンに尋ねる。
「グッドネイバーにでも行くのか?」
「あんなところには行かん。もっと・・・南だ。」
「ああ、キャッスルか?」
「もっと、もっと先だな。」
マーケットを占拠しているスーパーミュータントを倒しながら、どこまで行くつもりなんだろう。
ちらりとプレストンを見るが、にこりと笑うだけだ。
現時点では聞いても答えてくれそうにないし、俺がいない間どうしていたのか聞いてみるか。
「俺が連邦を彷徨ったり、ヌカワールドに行ったりしていた間はどうしていたんだ?」
「あー・・ああ。色々あったよ。シンスの残りやレイダーはまだまだいるからな。」
「他の皆には会ったりしていたのか?」
「パイパーがたまに遊びに来たり、ディーコンがいつの間にか家の中にいたりしたな。」
ああ、目に浮かぶな。元気そうでなによりだ。
南ボストン軍検閲所を通り過ぎると、遠くにジャマイカプレインにある教会が見えてきた。
プレストン:沢山の人が宝の山を探しにここに来たが、戻ってきた人はいるんだろうか
「ジャマイカプレインに用があるのか?」
プレストンは微笑んだまま、首を横に振る。
相変わらずフェラル達が巣食っているのを片付け、ハイドパークにいるレイダーに気づかれないように先へ進む。
こっちだ、と東の方を指さす。
採石場のようなものが見えてきた。あれは・・・?
「クインシー採石所だ。」
遠くを見つめたままプレストンが呟く。
「クインシー・・・?」とプレストンに尋ねようとした時、帽子を銃弾が掠めて行った。
ここもレイダーに占拠されているのか。
「まずは片づけよう、将軍!」
ぐるりと回り、採石場の外にいたレイダーたちはおおよそ片付けた。
先を歩くプレストンの向こう側に、荒らされた町の景色が見えてきた。
「プレストン」
「どうした、将軍。」
プレストンは振り返らずに応える。
「ここは」
「そう、ここはクインシーだ。我々の旅路のスタート地点。苦難の始まり。」
振り返った顔に少しだけ、悲哀の色が見えた。
クインシーの虐殺。
プレストン本人からも、ニックからも少しだけ聞いたことがある。
ミニッツメン内部で裏切りがあり、ここから生き残りを連れて新しい居住地を探しての逃避行。
最終的にはコンコードで俺に出会った、と。
「あんたに知っておいて欲しくてな。」
「何を?」
「俺が・・・どれだけアンタに救われたのか、を。」