結婚してから、ウィンターホールド大学とリフテンに居を構えるJadeとマーキュリオ。
なんだかんだと大学の仕事が忙しいようで、あちこち飛び回るJadeにマーキュリオも同行する日々だ。
毎日付き合ってもらうのも悪いと思ったのか、今日は1人で大学に行ってくるねとJadeが言う。
「一緒に行かなくて大丈夫か?」
「うん!今日は大学内でなんか会議なんだって。私・・・そんなのよくわからないのに。」
自信なさげにJadeが俯く。
マーキュリオは、そんなJadeを抱きしめようとするがJadeは恥ずかしがって腕から逃げ出してしまう。
少しだけ気まずい空気が流れたが、気を取り直してマーキュリオはJadeを見送った。
久しぶりに一人になった。近場の遺跡で調べ物でもするか。
上手くいけば小銭も稼げるだろう。
日が落ちてきたのでリフテンへとマーキュリオは戻ってきた。
家を見ると・・・明かりがついていない。Jadeはまだ戻っていないようだ。
遅くなるのかもしれんな。
今朝の気まずさを思い出し、酒でも呑むかとビーアンド・バルブへと向かうことにする。
「マーキュリオ、1人か?可愛い嫁さんはどうした。」
「・・・1人で呑みにきてはダメか。」
ぶすっとした顔でカウンターに座り込むマーキュリオに、タレン・ジェイはエールを差し出す。
話したくなったら何か言うだろうと、タレンは暫く放っておくことにした。
マーキュリオは酒場のざわめきに耳を傾けながら酒を飲み続ける。
「それくらいにしておけ。こんなところで飲んだくれてる場合じゃないだろう。」
そう言うとタレンがマーキュリオの手からゴブレットを奪う。
渋い顔をしてタレンを睨みつけると、ゴブレットを奪い返す。
「なんだ、喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩なぞ、しない。」ゴブレットの中身を煽るように飲み干すと、瓶から継ぎ足す。瓶が空になってしまい更に渋面を造る。
まじまじと見つめてくるタレンの視線を避けるように、顔を背け頬杖をつく。
「家で彼女が待っているだろう。そろそろ戻ったほうがいいんじゃないか?」
「待っていない。」
「え?」
「今日は大学に行っている。さっき家を見たら、まだ戻っていなかった。」
とはいえ、もう2~3時間は酒場でぐだぐだしている。もしかしたら帰ってきてるかもな。
「お前、何か拗ねているのか?」
思いもよらぬ言葉が飛んできた。・・・俺は拗ねているのか?
「俺は・・・。」
「どうせ、ちゃんと気持ちを伝えていないんだろう?凄腕の魔術師も形無しだな」
タレンがゴブレットに強い酒を注ぐ。理性を吹き飛ばして、思いを吐き出してみるのも手かもなと呟く。
さすがに頭がぼんやりしてきたので、ビーアンド・バルブを後にして家路へとつくことにした。
家の扉を開けると、灯りが揺らめいているのが見えた。
マーキュリオを待っていたのか、居間の椅子に腰かけたままJadeが居眠りをしているのが見えた。
こんなところで寝ていたら風邪をひくだろう・・・。まったく子供じゃないんだから。
ふう、と溜息をついてJadeの肩をゆする。
目をこすり寝ぼけた声で「おかえりなさい」と言い、寝ぼけたままマーキュリオに抱きついてきた。
今朝の態度を考えると、そんなことをするとは思ってもいなかったマーキュリオは驚いて抱きしめ返していいのか躊躇する。
「どうした?」
マーキュリオの胸に顔を埋め、息を吸い込む。
「・・・。」
「泣いているのか?」
「帰ってきたら、真っ暗で」
「ああ、すまん。タレンのところにいた。」
「マーキュリオいなくて。どこにいったか心配だった」最後の方は少し声が震えている。
Jadeの耳から顎をなぞり、唇に触れ口づけをする。
Jadeの首筋に顔を埋めると、愛おしい匂いがした。背中に手を回し強く抱きしめる。
同じようにJadeもマーキュリオの背に手を回す。
「俺は、な。」
「・・・うん。」
Jadeの耳に愛を囁き、再び口づけする。長く長く。
マーキュリオがふと目を覚ますと、すでに夜も明け窓から日が差していた。
Jadeが隣で規則正しい寝息を立てている。
幸せそうに、むにゃむにゃと口を動かすJadeを見ていると、愛しい気持ちが湧いてくる。
Jadeを起こさないように、そっと抱きしめるとマーキュリオは再び眠りに着いた。
「夜の底が白々と」終