コツコツコツとすり鉢を使う音が響く。
ウィンターホールド大学の錬金台で黙々と作業をしているJadeの傍にブレリナが近寄ってきた。
「Jade。さっきトルフディル先生が探してたみたいだけど。」
「あ、それなら大丈夫。もう話は終わってる。」
ああ、もう!とJadeが出来上がった薬を見て舌打ちする。
Jadeの手元を見ると、マジカ減退の薬が作られていた。
何を作りたいのか尋ねると、体力治癒の薬だとJadeが呟く。
ブレリナは棚に乗っている材料を集めて、体力治癒薬が出来上がる組み合わせを教えてやる。
ああ、そうか!と顔を輝かせて、Jadeは教えられた組み合わせをすり鉢に入れて混ぜ合わせていく。
それにしても、とブレリナ。
この娘は錬金術が本当に苦手なのね。
「わ、やった!できた!ありがとう!」
「で、なんで苦手な錬金術をそんなに頑張ってるわけ?手が酷いことになってるわよ。」
何度も失敗したらしく、Jadeの手は薬草に色に染まり、荒れていた。
ブレリナの質問が聞こえなかったのか、聞こえないふりなのか、Jadeは答えずにひたすら薬を作り続けた。
満足のいく数を作り終えて、ほっと一息つくJade。
「付き合ってくれて、ありがとう。ブレリナ。」
「いいのよ。そうだ、今日はもうリフテンに戻るの?」
「うん。そうだ、夜ご飯一緒に食べようよ。それから家に戻ろうかな。」
珍しくJadeがブレリナを食事に誘った。
じゃあ、折角だからとオンマンドとジェイ・ザルゴも誘ってフローズン・ハースへ向かう。
「ねぇ、今日作った回復薬はもしかしてマーキュリオのため?」
ブレリナから直球の質問が飛んできて思わず咽るJade。
ジェイ・ザルゴが興味津々といった体で思わず身を乗り出す。
「なんだ、Jade。あいつのために薬を作りに来たのか?そうなのか?」
耳を赤くしたJadeを見て、オンマンドとジェイ・ザルゴがにやにやと笑う。
手にしていたエールを一息に飲み干し、ブレリナがテーブルをどんと叩く。
「前から聞きたかったんだけど、マーキュリオのどこがいいの?」
オンマンドがぎょっとしてブレリナを窘める。
「だってさ。マーキュリオは不愛想だし、口数少ないし、怖いじゃない。」
「怖くないよ。」Jadeが穏やかな声で答えた。
鮭のステーキをもぐもぐ食べながら、ジェイ・ザルゴもJadeに同意する。
「マーキュリオは魔法の事聞くと、いっぱい喋るよ。ジェイ・ザルゴほどじゃないけど、大成するね。」
「じゃあ、どこがいいの?」酔っているのか、座った目をしたブレリナの追求が続く。
Jadeがウィンターホールド大学で仕事があると朝早く出掛けたため、マーキュリオは書斎に籠って調べ物をしていた。
日が落ちても戻って来ないところをみると、今日は泊まりかなと考え1人で簡単に夕食を済ませ、再び調べ物をするために書斎へと戻る。
そろそろ寝るかと明かりを消しに立ち上がった時に、玄関の扉が閉まる音がした。
Jadeが重そうなバックパックを降ろしたところでマーキュリオは声をかける。
「今日は泊まってくるのかと思ってたぞ。」
「あ、おこしちゃった?」
近寄ると、ふわりと酒の臭いがした。どうやら酔っているらしい。
夜更けに酔っぱらって外を歩いてきたのかと思うと、思わず眉間に皺が寄る。
「・・・飲んだのなら、朝になってから帰ってこい。危ないだろう。」
だってね、とバックパックから沢山の薬を取り出すと、Jadeは得意げに微笑んだ。
これ、できたの。マーキュリオが遺跡に行くときに持っていってもらうの。
薬を持つ手を見ると、薬草の色が染みついて荒れている。
「でね、ブレリナがね。」酔ったJadeの会話があちこちへと飛ぶ。
「うん?」
「マーキュリオのどこがいいのって言うんだよ。」
思わず苦笑してしまうマーキュリオ。
「・・・で、なんて答えたんだ?」
「ふふ。ひみつ。」悪戯ぽく笑うとJadeはマーキュリオに抱きついた。
「じゃあさ、マーキュリオは?私のどこがいいの?」
そんなことを改めて聞くのか、とマーキュリオは少しだけ悲しい気持ちになる。
仕方がない酔っぱらいだな、と呟いてJadeを見つめる。
「錬金術が苦手なのに、手を荒らしてまで俺の為に薬を作ってくれるところ」指先にキス。
「魔法を使わずに、メイス使って戦って傷を作るところ」頬にできていた傷にキス。
「真っ直ぐに俺を見つめる瞳」瞼にキス。
「俺の独り言も、実は聞き逃さない耳」耳たぶを甘噛み。
「気が強いけど、泣き虫でもあるところ。」軽く唇にキス。
それで、お前は?と甘やかに尋ねる。
「本に夢中になると、ご飯食べるの忘れるでしょ。」
「遺跡に一緒に行くと、蘊蓄垂れるでしょ。」
「魔法使えっていっつも怒るでしょ。」
「・・・なんだ、いいとこ出てこないじゃないか。」
「でもね。」
マーキュリオの首に腕を回し、こそりと秘密を漏らす様に耳元で囁く。
「でもね、全部、好きよ。」
そう言うと照れ臭そうにマーキュリオの胸に顔を埋める。
「なんか結局惚気られたわね。」
ウィンターホールド大学ではJadeが帰った後、ブレリナとオンマンドがまだ飲み続けていた。
ブレリナに向かってJadeはマーキュリオのいいところを力説し、挙句全部好きだと言い放っていたのだ。
結婚式を挙げる前の一幕を知っているオンマンドは、仲良くやってて良かったと嬉しく思っていた。
「友達が幸せそうで、僕は嬉しいと思うよ。」
まぁ、そうなんだけど。なんか寂しくなっちゃってさ、とブレリナがぶつぶつと口ごもる。
その気持ちはわかるな、と心の中で呟く。
「よし、ブレリナの気が済むまで付き合おう。」
そう言うとオンマンドは空いたコップにエールを継ぎ足した。
「In The Seventh Heaven」終