Also A Deram...

月: 2020年7月

花束を君に

マーキュリオとウィンターホールドから久しぶりにリフテンにやってきたJade。

「リフテンだ!久しぶり・・・というか、ここはマーキュリオと会ったという記憶しかない場所かも。」
「・・・」

マーキュリオが黙ってJadeを見つめていた。
「マーキュリオ?大学出てから、変だよ?大丈夫?」
「ん?あ、ああ。ビーアンドバルブに顔を出したいんだが」そう言って視線を外す。
「うん。いいよ。」

ウィンターホールドを出て、リフテンに近づくにつれマーキュリオが無口になってきているのが気になっていた。

表情もなんだか緊張しているような感じで強張っている。
どうしたんだろう・・・?

ビーアンドバルブではいつものようにタレン・ジェイが酒を給仕したり、キーラバが口悪く客をあしらっていたりした。
マーキュリオに気づいたタレン・ジェイが近づいてきて、親し気に声をかけてきた。

「やあ、マーキュリオじゃないか。最近見ないと思っていたら・・・こちらは?」
「タレン。ああ、こちらは・・・俺の・・・」思わず口ごもるマーキュリオ。
タレン・ジェイは目ざとくJadeの首に下げられているマーラのアミュレットに気づいた。
が、何も言わずマーキュリオの顔を見つめる。

「部屋を借りに来たわけ?ゴールドがあるなら、うちに来たのは正解ね。」キーラバが言葉を挟む。
「キーラバ。部屋は・・・どうだったかな。」とタレン・ジェイがキーラバの元へと戻り、何やら話し込んでいる。

Jadeはというと、お腹が空いたのかキーラバが出してくれたキャベツのポテトスープとサケのステーキをもくもくと食べている。
「マーキュリオ。申し訳ないんだが、空いている部屋が一つしかない。」
「なっ」
キーラバが、小声でよかったわねと呟いた。
「待ってくれ。俺は」
「私は一緒でもいいよ?」のんきなJadeの声が割って入る。

マーキュリオが困ったような、呆れたような、悲しいような顔でJadeを見つめた。
タレン・ジェイがそんなマーキュリオとJadeを連れて2階の一室へと案内する。

大きなダブルベッドが備え付けられている、なかなか立派な部屋に通された。
疲れと満腹で眠くなったJadeは着替えもせずに、ベッドへと倒れこんだ。
マーキュリオは部屋の端にある椅子に苦虫を潰したような顔で座り込んでいる。

「マーキュリオ・・・寝ないの?」ぼんやりとした声でJadeがマーキュリオに声をかける。
「・・・」Jadeを見つめたまま、マーキュリオは黙り込んでいる。
そのうちJadeが規則正しい寝息を立て始めた。


「タレン。余計な気を使わないでくれ」
Jadeが寝たことを確認したマーキュリオは階下へと降りてきて、タレン・ジェイと飲み始めた。
「なぜ?アミュレットを渡した相手なんだろう?」
「あいつは・・・わかっていないんだ。」
ぐいとブラック・ブライアのリザーブを飲み干した。

「マーキュリオ、場所を変えて飲むことにしよう」

目を覚ますと、マーキュリオがいないことに気づいたJadeは下に降りてキーラバに聞いてみることにした。
「キーラバ、マーキュリオどこにいったか知ってる?」
キーラバはJadeを見ると、ふんと鼻を鳴らした。
「タレンと一緒にヘルガんとこ行ったわよ。」
突き放す様に、それだけ言うとキーラバは自室へ行ってしまった。

ヘルガの宿舎をこっそり覗いてみると、マーキュリオとタレンが隅で飲んでいるのが見えた。
・・・マーキュリオの膝にヘルガが座っているではないか。
マーキュリオはヘルガを押しのけようとしているが、ヘルガはものともせず甘えた声を出している。

かっと顔に血が上るのを感じた。
こんなとこで何してるの。

タレン・ジェイはJadeがヘルガの宿舎に入ってきた時から気づいていた。彼女がどうするかを見届けようと思っていたのだ。
泣きそうな顔でマーキュリオを見つめ、宿舎を出て行くのを見て後を追うことにした。
「マーキュリオ、俺はそろそろ戻ることにする。キーラバに怒られるからな。」
「・・・おう。俺もそろそろ戻る。」
「なによーぉ。マーキュリオ、もうちょっとここにいたら?気分を晴らすのに、私と一緒にどお?」
「・・・遠慮する。」


ヘルガの宿舎を出ると、タレンはJadeがぼんやりと河の流れを見つめているのを見つけた。
「お嬢さん、夜風は冷えるから部屋に戻ったほうがいい。」
タレンに後ろから声をかけられ驚いたJadeは目元をこすって、振り返った。

「あ、キーラバのとこの。へへ、眠れなくて夜風に当たってたの。」
「・・・君は・・・その、首からかけているアミュレットについて、何も知らないのかい?」
「え?これ?」
タレンは余計なお世話かとも思ったが、簡単に意味するところをJadeに教えてやった。
みるみるうちにJadeの顔が赤くなっていく。

「そんなこと、ひとことも、マーキュリオ言わなかった。」
「あいつに・・・君の思いを伝えてやってくれないか?」
タレン・ジェイは優しくJadeの肩を叩く。ビーアンドバルブに戻ろうかとJadeを促した。


ヘルガを振り切って、ようやくビーアンドバルブに戻ってきたマーキュリオ。
Jadeは寝ているだろうと思って灯りもつけずに部屋の中に入ると、ベッドに腰かけているJadeがぼんやりと見えた。
「起こしたか?すまんな。俺は下で寝るとするよ」
背を向けたマーキュリオにJadeが飛びついてきた。

「おい、どうした?怖い夢でも見たか?」
「・・・ヘルガさんを膝に乗せてたの、嫌なの。」
ヘルガの宿舎に行っていたことを知られた・・・と思ったマーキュリオは、Jadeに向きなおった。
Jadeがマーキュリオの胸に顔を埋めてくる。

「お前、何故知っている?」
「・・・嫌なの。」
マーキュリオがそっとJadeの背中に手を回した。
「マーキュリオ、好き。」小声で震えながらJadeが囁く。

「え?」咄嗟の事に、気の利いた返事もできない。
Jadeはというと、恥ずかしさのあまりマーキュリオの背中に回した腕に力が思い切り入っている。
「俺が・・・渡したアミュレットなんだがな。」
胸に顔を埋めたままJadeが頷く。タレン・ジェイに教えて貰ったと呟いた。
「明日、一緒にマーラの聖堂へ行かないか。」
Jadeが再び頷いた。

口付けをすると留めることができなくなりそうで、マーキュリオはJadeをそっと体から離し、眠るように言った。
「傍にいるから。お前は眠るといい。」

ベッドの傍らに椅子を運んできて、手をつなぐとJadeは子供のように安心して眠りについた。



次の日。
マーラの聖堂にはJadeとマーキュリオとの結婚式を祝うため、ウィンターホールド大学の面々やエランドゥル、ゴルディールたちが駆け付けてくれた。

マラマルが祝福の言葉を与えてくれて、晴れて夫婦となった2人。

「「「「おめでとう!幸せに!」」」



花束を君に 終



きみがいるだけで

マーキュリオと2人、ウィンドスタッド邸からソリチュードやドラゴンズブリッジ等を回ったりドゥーマーの遺跡に潜ったりして楽しい旅を続けている。

Jadeの破壊魔法スキルもかなり上達してきたので、一度ウィンターホールドへ戻ろうかという話になった。
大学に戻るのは本当に久しぶりだ。

マーキュリオがウィンターホールド大学へ行った後、リフテンに行こうと言う。
この間、ウィンドスタッド邸でアミュレットをプレゼントされた時もリフテンへ行こうと言っていた。リフテンになにかあるのだろうか?

雪山を越えて、あと少しでウィンターホールド大学というところまでやってきた。
久しぶりのウィンターホールドで嬉しくなったJadeは少しはしゃいでいた。

「おい、気を付けろよ。」
「あ、あっちに大学が見える!」
と、高台に上がって遠くを眺めた瞬間。足を滑らせた。

あっという間の出来事で、構えることも庇うこともできず、真っ逆さまに落ちて行った。

幸いなことに落ちた先は深い雪の上。気づくと雪の中に埋まりこんでいた。
しばらくの間気を失っていたのか、体がすっかり冷え切っている。
雪の中から這いずり出て、怪我がないか確認する。骨折や大きな怪我はないようだ。
顔や手に所々擦り傷があるくらい。運が良かった。

遠くからマーキュリオが名前を呼んでいるのが聞こえてきた。
マーキュリオの声が聞こえると、ほっとしたのかJadeは少し涙ぐんだ。

「このバカ!!ケガはないか!?」Jadeの姿を見つけるとマーキュリオは走り寄って、大きな怪我がないか確認する。
「・・・ごめん、マーキュリオ。骨折とか怪我はしてないみたい。」へへへと笑う。

「本当に・・・心配したぞ。」
そう言うと、マーキュリオは冷え切ったJadeの体を抱きしめた。
大丈夫だよ、と言おうと顔を上げるとマーキュリオが唇を重ねてきた。Jadeの背中に回した腕に、ぐっと力が入るのを感じる。
Jadeもそっとマーキュリオの背中に腕を回す。

マーキュリオが、ふと我に返り体を離す。顔を背けて「すまん」と小声で呟いた。


ウィンターホールド大学にたどり着くまで、たどり着いてからもマーキュリオは話しかけても上の空のようで、返事も「ああ」や「うむ」しか言わない。
この間の事を後悔しているのだろうか?そう思うとJadeは胸が締め付けられた。悲しくてやりきれない。

学友を誰か誘ってウィンターホールドの町で飲み明かしたい気分だ。
ブレリナには実験があるからと断られ、ジェイ・ザルゴには酒は飲まないと断られたJadeは、オンマンドを半ば脅すような形で飲みに誘い、フローズン・ハースへとやってきた。

「もう・・・なんだよ。」オンマンドは渋々Jadeに付き合ってエールを飲んでいる。
黙り込んで飲み続けているJadeの首に、見慣れないアミュレットが下げられていることに気づいた。
「Jade、それ。そのアミュレット、どうした?」
「・・・ん?これ?マーキュリオがくれたの。」
よく見ると、マーラのアミュレットだ。マーラのアミュレットをマーキュリオに貰ったと言うことは・・・これは。
「なんだよ、お前ら。そういうことかよ。」惚気話でも聞かされるのかと思うと、ちょっとうんざりした。

しかし、どうもJadeの様子を見ていると・・・そういう話がしたいのではないようだ。
マーキュリオのバカ・・・とぶつぶつ言っている。
Jadeは、マーキュリオが何かのはずみで、この間のようなこと(抱きしめたりしたこと)をしてしまったけど、それを後悔しているから口をきいてくれないんだ、と悲しそうに呟いた。
「お前、マーラのアミュレット受け取っておいて、一体何を」
「なに?このアミュレットがなんなの???」・・・酔ってきたJadeは話をまともに聞きやしない。

まさかな、とオンマンドは思った。まさかJadeはマーラのアミュレットに込められた意味をわかっていないんじゃ?だからと言ってオンマンドが、その意味を教えるのはどうなんだろうか?それは・・・俺の役目じゃないな。
気づくとJadeは涙をこぼしながら、酔いつぶれていた。
「おいおい!!こんなところで寝るなよ!」揺すってみたが、むにゃむにゃ言うだけで起き上がろうとしない。なんということだ。



Jadeを担ぎ、アークメイジ居住区まで何とか運んできたオンマンドは、入り口でマーキュリオが仁王立ちしているのに気づいた。ちょっと待ってくれよ。俺、何も悪いことしてないぞ。
「・・・どういうことだ。」
「それを俺に言うなよ。聞いて欲しいことがあるからってJadeに誘われたんだよ。」
マーキュリオはオンマンドから奪うようにしてJadeを抱き上げた。
そのまま立ち去ろうとしたオンマンドだったが、マーキュリオに一言いいたくなった。
「マーキュリオ。」
「・・・なんだ。」
「式には呼んでくれよ。大学の皆でお祝いに行くよ。」

一瞬意味を飲み込めなかったマーキュリオだったが、すぐに耳まで赤くなった。
「お、おい。それは、どういう」
「とはいえ、Jadeは・・・よくわかってないみたいだけど。・・・がんばれよ。」

ぼんやりした頭にマーキュリオの声が聞こえてきた。あれ?オンマンドと飲んでいたはずなんだけどな。
「おい、水を飲め。まったく・・・こんなに飲むなんて、どうしたんだ。」
素直にマーキュリオからコップを受け取ると、こくりと飲み干した。
「だって・・・」と呟くと、ほろりと涙が零れ落ちた。
Jadeが泣いていることに気づいたマーキュリオは涙を優しく拭いながら、頬を撫でる。じっと見つめた後、優しく口付けた。

「・・・どうして?」
「ん?」
「・・・この間から、ちゃんと話してくれないのに、なんでまたkissするの?」
マーキュリオは一瞬言葉に詰まり、Jadeの首筋に顔を埋めて唸り声をあげた。ぎゅっと体を抱きしめる。
「くそっ」

Jadeの頭がマーキュリオの肩にもたれかかってきた。ふわりとJadeの香りが漂う。
「・・・言わなきゃ、わからんのか」
「・・・。」
「・・・?おい?」
聞き耳を立てると、規則正しい寝息が聞こえてきた。マーキュリオに抱きしめられて安心したのか、Jadeは酔いが回って眠りに落ちてしまっていた。

マーキュリオはほっとしたような、残念なような複雑な気持ちでJadeをベッドまで運んでやった。
「困ったお嬢さんだ。」

「いつになったら・・・わかってくれるんだ?」髪を撫でつけ、毛布をかけてやりアークメイジ居住区を後にする。
できる限り早くリフテンへ行こうと心に決めるマーキュリオであった。



「きみがいるだけで」終

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Can’t Help Falling In Love

倒したリージョン兵の返り血を浴びて、死体の山の真ん中で立ち尽くすルシア。
右肩をしきりに触っている。

それに気づいたブーンが、後ろから声をかけてきた。
「怪我でもしたか?」肩に触れようとした時、体をふいに硬くした。

「ああ、すまん。」触れられたくないようだった。差し出した右手をそっと元に戻す。
「ご、ごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって。」無理やり笑おうとしているのが、わかる。

「戻って、その血を洗い流せ。怪我ならアルケイドに見てもらうんだな。」
へへへ、と笑って答えずに背を向けて歩き出すルシアを、ブーンはじっと見つめた。


「あらあら。随分と汚れたわね!シャワー浴びちゃいな。」
血の匂いをさせて戻ってきたルシアを見て、キャスが声をかけてきた。
小さく頷きバスルームへと姿を消すルシアを見送り、キャスは新しいTシャツを用意してやった。
「ルシア、新しいシャツここに置いて・・・」
汚れた服を脱いでいるところに遭遇。
右肩に火傷のような引き攣れと肩甲骨付近にタトゥーが刻み込まれているのが目に飛び込んできた。

あっと小さく叫んで、ルシアは慌てて背中を隠そうとする。
「ルシア、あんた・・・怪我したの?」
「ええと・・・あの・・・」
「痛いの?」
大きくかぶりを振る。ちがうの、と口の中で小さく呟いた。
「こっちへおいで」キャスが優しくルシアを抱き寄せる。
火傷と思ったのは、どうやら焼き印の痕のようだ。タトゥーは躍動する牛。これは・・・。思い当たることはただ一つ。
「ルシア、あんたもしかして・・・。」

観念したのかルシアは重い口を開いて、過去にシーザー・リージョンの奴隷だったことを話しだした。

「本当のお父さん、お母さんの記憶はないわ。育ててくれた人たちが・・・奴隷商人でね、5歳の時に売られたの。」
聞いたことがある。孤児を積極的に受け入れて、まるで高潔な人間のような顔をして裏でリージョンに売り飛ばす輩がいると。
「2つの家」
「うん?」
「最初に売られた家で、こっちのタトゥーを入れられてね。」
「5歳の子供に・・・」キャスは青くなった。
「11歳の秋に・・・大きな家・・・私と同じくらいの兄弟がいる家に売られたの。そこで、焼き印を押された。」
ルシアを抱く手に力が入る。このこは、よくここまで生きてきた。

ルシアはキャスの胸に顔を埋めて、小さく笑った。
「もう痛くないよ。時々・・・疼くくらい。」
ルシアはそこで言葉を切った。次の言葉を探しているのか、なかなか出てこない。

「あのね。」
「うん。」
「怖いの。」
そこで言葉を切り、体を震わせた。
「見つかったら、どうしようって。」
「あんた・・・逃げ出したの?」逃亡奴隷を許すほどリージョンは甘くないだろう。見つかった場合、最悪殺される。
「・・・捨てられた。」ぽつりとルシアが呟く。
「え?捨てられた?」
「13歳の時に・・・病気になって。役立たずはいらないって、山の中に捨てられた。」
キャスは言葉が出なかった。確かにルシアの体は年齢にしては、か細い。女性らしいふくよかさも、あまり見てとれない。
でも、だからって。


バスタブからお湯が流れ出ている音がする。
「よし、体冷えちゃうからお風呂に入んな。背中流してあげる。」

「病気して・・・よく生き残れたわね。」
「キャラバン隊の犬が倒れているのを見つけてくれて。すごく運が良かったんだと思う。そのキャラバン隊の人たちも皆いい人でね。」
キャスに背中を流してもらいながら、ルシアは遠くを見るような目で記憶を辿る。
あの犬やキャラバンの皆は、元気だろうか?
「そっか・・・。いつか元いた家の奴に見つかるんじゃないかって思ってるんだね。」
ブーンと一緒に行動していれば、嫌でもリージョン兵と戦うことになる。逃げることもできやしない。キャスは深くため息をついた。

「ブーンには言ってないの?」
「・・・うん。」
湯船に深々と浸かって、ルシアは答える。
「一時的にでもリージョンに関わっていたって・・・言えなくて。」
「馬鹿ね!あんたリージョンに所属していたわけじゃないでしょ!」思わず大きな声がでてしまった。
バスルームに大きく響き渡る。

「ありがとう」

と、そこで外からブーンが声をかけてきた。
「おい、どうした」
ルシアを見ると、必死の形相でキャスの袖を掴んでいる。
まったく、もう・・・と口の中で呟いて、ブーンに答える。
「なんでもないわよ!ルシアの背中流し終わって、これから上がるところだから覗かないで!」
「ば、馬鹿か。誰が覗き見なんかするか。」ブーンが慌てて立ち去るのが聞こえてきた。

「キャスさん、話を聞いてくれてありがとう。」
「馬鹿ね、仲間でしょう?着替えは置いておくから、ゆっくりね。」
へへへ、と笑って肩までお湯に浸かるルシアを残してキャスはバスルームを出た。

「あいつは・・・怪我でもしたのか?」
濡れた手足をタオルで拭いていると、ブーンが近づいてきた。
あんたのせいで・・・、とブーンが悪くないのはわかってはいるが、そういった感情がどうしても湧き上がってしまい、キャスは冷たく「なんで?」と聞いた。
口元に手をやり、視線を泳がす。ブーンにしては珍しく、言葉を選んでいるようだ。
「・・・さっき、右肩をひどく気にしている仕草をしていた。触られるのが嫌なようでな。」
「ふーん。」
「怪我をしていることを隠そうとしているなら、馬鹿なことはするなと言っておいてくれ。」
キャスがブーンを睨みつける。
「あんたが言えば良いんじゃないの。」
「俺が言うより・・・お前やアルケイドのほうがいいだろう。」自嘲気味にそう言うブーンをまじまじと見つめる。

「あんた・・・あんたって・・・」
「なんだ。」
「あんたって、そこなしの馬鹿野郎ね。」

もういい、と呟いてブーンの脇をすり抜ける。
本当に・・・あの男は・・・

腹立ち気に後ろを振り返ると、風呂上がりのルシアにブーンが声をかけていた。
不器用な様子で、ルシアに怪我はないかと聞いているようだ。

「いつか、ちゃんとブーンに伝えなよ、ルシア」

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Thinking of you

男性陣が珍しく全て出払った日の午後。
(アルケイドはオールドモルモンフォートへ、ブーンとラウルは武器の手入れをするためにラウルの小屋へ)

珍しく新鮮なリンゴと小麦粉、バターも手に入ったのでリリーがアップルパイを作ろうと言い出した。
ルシアはキャスと一緒にリリーにレシピを聞きながら焼き上げ、買い出しから戻ったヴェロニカと4人でお茶にすることに。リリーが折角だからと、美味しいお茶まで入れてくれた。
女性陣4人はあれやこれやとお喋りに花が咲いた。足元でレックスがのんびりと寝そべっている。

「この間、ルシアとネリス空軍基地に行ってきたんだけどさ。入り口にいた子、結構好みだったんだよね」
「キャスはイケメン好きだからなぁ」ヴェロニカが混ぜっ返す。
「ばあちゃんは、顔だけの男は好きじゃないね」
「えー!じゃあ、リリーはどんな人がいいの?」
「そうだねぇ。逞しくてしっかりした男かねぇ」

あ、と何かを思い出したルシアが、もじもじしながら質問をした。
「あ、あのね・・・」
3人の視線が集まる。
「男の人って・・・、やっぱり、こう・・・グラマーな人が好き?」
キャスが茶を吹き出し、ヴェロニカはアップルパイをこぼした。リリーは大きな手でルシアの頭を撫でて聞き返した。
「私のかわいい子。どうしてそんなことを聞くんだい?」
「えと・・・。この間、ベニーのところに行ったときにね。私の姿を上から下まで見て・・・こんな子供だったかって言ったの。」
「あんのクソ野郎」キャスが舌打ちする。死んで当然だね!と相槌を打つヴェロニカ。
「それだけじゃないね?」リリーが、お見通しだよと言わんばかりに先を促す。

ルシアは耳まで赤くなった。何かをもぞもぞと呟いた。
「ブ、ブーンさんの・・・奥さん、美人だったんだって」
「うん」
「派手な人だったって言う人もいたけど、きっと綺麗でスタイルも良くて・・・」
「あいつに言われたの?俺は美人でグラマーは好きだって?」ヴェロニカがアップルパイを頬張りながら聞く。
「ううん。でも、俺にぴったりだったって言ってた。つまり、そういうことでしょう?」

「それで、諦めるのかい?」リリーが聞いてきた。
「え?」
「あんたの中の、好きって気持ちをなかったことにできるのかい?」

ルシアが頭を大きく振った。
「じゃあ、いいじゃないか。ばあちゃんはいつでも味方だよ。」愛しそうにルシアの頬を大きな手で撫でる。
私たちだって!とキャスとヴェロニカが立ち上がる。
さっきまで泣きそうな顔をしていたルシアも破顔一笑。へへ、と笑って残りのお茶を飲み干した。
そこへアルケイドの声が聞こえてきた。「ルシア!ちょっと手伝ってくれないかー!?」
「はーい!」

キッチンから走り出て行くルシアを見送ってヴェロニカが呟いた。
「ブーンはさ、自覚ないのかね。ルシアとラウルが仲良くしてたら不機嫌になったんだよね。絶対焼きもちだと思うんだけど」
「あー、あいつそういえばBlackWidowをルシアが取った時、すごい機嫌悪くなってさ。アルケイドとあたし八つ当たりされたようなもんだわ。」
「死んだ奥さんに悪いとか余計なことを考えていると、ばあちゃんは思うね」

女3人で喧々諤々と話をしているところに、ひょっこりアルケイドが顔をのぞかせた。
「ルシア、機嫌良いみたいだけど、何かあった?」
キャスがにやりと笑った。

「ねえ、ルシアを幸せにする会に入らない?」

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Take Me Home, Country Roads

ネリス空軍基地でラウルの壮絶な過去と老いることへの恐れを聞いた帰り道。

ラッキー38に戻ってくると、意を決したようにルシアが声をかけてきた。
「ラウル、背中貸して」
「どうした、ボス?」

不思議そうな顔をして、それでもラウルはルシアに背を向けた。
その広い背中に顔を埋め、腰に手を回す。
「おいおい、ボス。随分と積極的じゃないか。」
あやす様に、その手をぽんぽんと叩いた。

ぐすっと鼻をすする音が聞こえた。
「ボス、泣いてるのか?」
背中に顔をぐりぐりと押し付ける。どうやら否定しているようだ。
ふう、と深くため息をつくとラウルはルシアの手に自分の手を重ねた。
「ボス、さっきの話のせいで泣いているなら・・・すまなかった。泣かせるつもりじゃなかったんだ。」
再び背中に埋めた顔を左右に振る。
「ボス、鼻水はつけるなよ」
「・・・ごめん、ラウル」
「何故あんたが謝る?それなら・・・場所を考えずに話をしてしまった俺の責任だ。」
「聞かせてくれて・・・ありがとう」鼻声でそう答えるルシア。
「聞いてくれて、ありがとうなボス。ほら、折角ならこっちへこい」
そう言うとラウルはルシアの手を引き、胸に抱きしめ頭を優しく撫でた。

「年寄りで申し訳ないが、まあ我慢してくれ」
「へへへ」
「若い娘を抱きしめるなんて、何年ぶりだろうなぁ」
「私でよければ、いつでもどうぞ」どうやら笑えるようになったようだ。ひとしきり話をした後、2人は別れた。


銃の手入れをしているラウルの元へヴェロニカが浮かない顔をして近づいてきた。
「ねえ、ラウル。ブーンの様子がおかしいんだけど、なんか聞いてる?」
「ブーンが?さてね・・・」
「いつも以上に不機嫌でさ、仏頂面で。リージョンにやられたわけでもなさそうだし・・・。怪我はしていなさそうだった」
「ふーん、不機嫌ねぇ」
「なによ、ラウル。にやにやして」
「そのうち機嫌も直るだろ」
そうなんだけどさ、とぶつぶつ言いながらヴェロニカは立ち去って行った。

ブーンの部屋を覗いてみると、確かに眉間に皺が寄って怖い顔をしてグラスを傾けていた。
ラウルは余計なお世話とわかっていたが、ブーンに一言だけ言いたくなった。
「そんな仏頂面で飲んでも酒がまずくなるだけだろう」
「・・・ラウルか」
何か言いたそうな表情が浮かんだが、ブーンは酒と共にそれを飲み干した。

「お前のな」
「ん?」
「お前の、その冷静さを俺は買っている。」
「・・・そうか」
「だがな、後悔ばかりに囚われていると見えるものも見えなくなるぞ」
ブーンは弾かれたように顔を上げたが、それを見ずにラウルは部屋を出た。

キッチンに通りかかると、ルシアとキャスが仲良く夕ご飯の支度をしていた。
ラファエラが、妹が生きていたら見ることができたかも知れない風景なんだろうか。
「全く似ていないのにな。じじいはボケたかね」独り言を呟いたラウルを見つけたキャスが声をかけてきた。
「ラウル!ルシアがデザート何がいいって聞いてるよ!」

「そうだな、何か甘くて旨いものにしてくれ。ボス」

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思惑

「なんだと?」
思いがけない言葉を聞いて、クレイグ・ブーンはルシアに聞き返した。

ここはフリーサイド北門近く。
つい今しがたフィーンドの集団を倒したばかりで、足元には死体が転がっている。
「やっぱりBlackWidowのスキルは威力があるね。これでベニーもイチコロかな!?」
にこにこしながらルシアは答える。

「お前、一体いつそのスキルを取ったんだ」
思ったよりきつい口調になってしまったことに気づいて、ブーンは思わず顔を背けた。
うーんと、とルシアは記憶を辿る。

「この間、アルケイド先生とキャスに相談して。BlackWidowがいいんじゃないかって話になったの。」
無邪気に答えるルシアを直視できず、視線を合わせないまま口の中で唸る。
「・・・そうか」
「ブーンさん?」
「・・・戻るか」
ブーンの機嫌が悪くなったことにルシアは気づいたが、どうしていいのかわからず黙ったまま後をついて歩いた。


「話がある」
いつも以上にむっつりとした表情でブーンがアルケイドに声をかけた。
研究が一息つき、コーヒーを飲んで寛いでいたアルケイドは虚を突かれた形となった。
「え?ああ、どうした?」

眉間のしわをより深くしたブーンは、入り口に寄りかかったままだ。
黙ったままのブーンをアルケイドは見つめる。
「いつまでそうやっているつもりだ?」
「・・・。」
「言い出しにくいことなのか?」
「・・・ルシアに」
「ん?」
「ルシアに何故BlackWidowを取れと言った」

「え?」
問い返したが、ブーンは外を眺めこちらに顔を見せようとしない。
これは一体・・・?
アルケイドは先日キャスとルシアと3人で、次に取得するスキルのことを話していた場面を思い返していた。
確かにキャスと2人でBlackWidowがいいんじゃないかと言ったが・・・。
ブーンがぼそりと話を続ける。
「ルシアは」
「うん」
「あいつはBlackWidowを使えばベニーはイチコロだと喜んでいる」

アルケイドはどう答えるのが正解なのか、少し逡巡した。
「色々なスキルを覚えることは悪いことじゃないだろう?」
「・・・。」
ブーンはまだこちらを見ない。今どんな顔をして俺を問い詰めているんだか・・・。
「キャスにも聞いてみたらどうだ?彼女もいっしょに相談に乗っていたんだから。
俺はルシアが色々な事を覚えようとするのは良いことだと思っているよ。」
「・・・わかった」
低い声でそう答えてブーンはアルケイドの部屋から出て行った。

「さて・・・どうする?」
冷めてしまったコーヒーを一口飲み、アルケイドは楽しそうに呟いた。


キャスは今日も一人で静かにウィスキーを楽しむつもりでいた。もう酒も氷も用意した。
なのに何故。
苦虫を潰したような顔をしたブーンと向かい合っているのか。
「あのねぇ」
ブーンは黙ったままだ。
「あたしの楽しみの時間を邪魔しないで欲しいんだけど」
ブーンを無視して酒を注いだ。もしかしたら、口が滑らかになるかも?と考えてブーンの酒も用意してやった。
目の前に置かれたオンザロックをゆらゆらしながら、それでもまだブーンは話し出さない。

「なんなのよ。」キャスは2杯目を飲みだした。
意を決したように酒を流し込み、ブーンは手元のコップを眺めながら話し出した。
「ルシアにBlackWidowを取れと勧めたのは何故だ」
「はい?」
予想もしていなかった展開にキャスも咄嗟に答えが出なかった。
「何よ。BlackWidowを取るの、何が悪いのよ」3杯目。これは酒の力がいるかもしれない。ブーンのコップに継ぎ足してやった。

「悪いとは言っていない・・・」
キャスはブーンを眺めた。眉間にしわは寄ったままだが、なんとも言えない表情をしている。
「・・・。あんたが真っ先に喧嘩しかける相手は誰よ」
「リージョン」
「リージョンの構成員は?」
「?どういうことだ?」
「リージョンは男ばかりで構成されているわよね?BlackWidowを持っていれば、与えるダメージ大きいでしょ?だから取ったのよ、あのこ。」
ブーンはコップを握りしめたまま、無言だ。

「あのこが探しているベニーって男を倒すのにも有効でしょ?まぁ、ベニーの件はついでみたいなもんね」
「・・・すまない」
「え?」
「邪魔してすまなかった。久しぶりに飲んだ。」
そう言って、コップを置きブーンは部屋から出て行った。


ブーンを見送ったキャスは5杯目を口にした。
「ブーンさんにも効くかな?」と言っていたルシアの姿を思い出した。

「ルシアに乾杯」

-END-

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