Also A Deram...

月: 2020年9月

香りの魔女と無口な黒猫(1)

私はレティシア。
村はずれの森で小さな・・・そうね、薬局のようなものを営んでいる。
裏の畑や森の中で集めた薬草を調合して傷が早く治るような薬を作ったり、家畜がよく子を産むように餌に混ぜる薬やまじないなんかを行ったり、そんなことをして日々暮らしている。

この家を見つけたのは、2年位前。
魔女だった曾祖母が暮らしていたという家だ。
森に散歩に出かけた時に偶然見つけ母に聞くと、曾祖母が帝都へ出て行くまで暮らしていた家だと教えてくれた。

祖父母や父母は、曾祖母が魔女だったことの多くを語ろうとはしなかった。
どうやら100年前の大戦で亡くなったらしい。帝都を守って死んだそうだ。
その家で暮らしたいと言ったとき、父母は最初はあまりいい顔をしなかった。特に母親が。

元々、薬草を育てたり調合したりするのが得意だった私は、それで生計を立てたいと考えていた。
曾祖母みたいに帝都を守るような魔女にはなれなくても、村の役に立てる魔女にはなれるだろうと。



曾祖母の家には、彼女が書き記した薬の調合の技術やまじないの書物が残されていた。
正式に学んでいない私には、わからないことも多かった。

去年、村で家畜の流行病が出て多くの牛が死んでいった。
私にできたことは、ほんの少しだけ病の進行を遅らせることだけだった。
目の前で、どんどん牛が死んでいくのを見るのが、本当に苦しかった。

そんな時、曾祖母の事を知るという一人の女性が私を訪ねてきた。儀式を受けないか、と言うのだ。
正式に魔女として学ぶためには、使い魔と契約を交わす必要がある。
その儀式を受けろと、女性は言う。
彼女は自分の事を多くは語らなかった。一週間後にエルフルトの町に来てと言い残して、家を出て行った。



そして今日。
目の前で白髪の女性が、私の使い魔を決める儀式を行っている。
女性は、この地区の長だという。

・・・。
ただ、どの動物も怯えて私に近寄ろうとしない。使い魔が決まらないのだ。
こまったなと思った時、「俺がなろう。」と囁く声が耳元で聞こえたような気がした。
長も何かを感じ取ったようで私をじっと見つめている。

「・・・何かが通りましたね。」
『何か?』
「そう。どうやら、その何かに動物たちが怯えているようです。」
『私の使い魔は・・・どうなるのでしょう?』
「・・・今日は決まりそうにありません。明日また訪ねてきてください。」
仕方がない、今日の所は宿に戻るとしよう。そう思って軽く礼をして立ち去ろうとした私の後ろに長が声をかけてきた。

「もし」
振り返ると、長が緊張した面持ちで私を見つめていた。
「もし、明日ここに来るまでの間に出会いがあったとしたら・・・それを連れてきてください。」
『出会い?動物と、ですか?』
「・・・どうでしょうね。動物だと思っておきましょう。」



宿屋へ戻る道すがら、ぼんやりと使い魔は決まるのだろうかと考えながら歩いていた。
何かが通った、ってなんなんだろう?
そんなことを考えていると、家の屋根から黒い物体が降ってきて・・・あっという間に私の持っていた籠の中に飛び込んだ。
通りの角から、首輪を手にした14~5歳くらいの少年が、意地の悪そうな笑みを浮かべてやってくるのが見えた。

「なぁ、きったない黒猫見なかった?」
『黒猫?さぁ・・・?』
「片目が見えない、汚い黒猫。あれ、俺のだから。」にやにやしながら近づいてくる。

『知らないって言ってるでしょ。』
暫し睨みあう。少年が舌打ちしたのを機に、さっさとその場を立ち去る。
振り返らないようにして、宿屋の扉を開け中に入った。

ふう、と溜息をついて籠の中を見ると、黒猫がいた。
右目が開いていない。傷だらけだ。・・・あの少年にやられたのだろうか。
そっと、籠から出してやるとベッドの隅で小さくなっている。

このままにはしておけない。
湯で軽く洗ってやり、傷には持ち歩いている薬を付けてやった。
黒猫は痛みにもじっと耐えている。
宿屋の女将に食事を部屋に運んでもらい、黒猫と分け合って食べることにする。

食事を終えると人心地付いたのか、丸くなって寝始めた。

ああ、もしかして。この黒猫が、長が言っていた出会いなんだろうか。
明日、連れて行ってみよう。

『ねえ、あんた。助けてやったお礼って訳じゃないんだけど、私の使い魔にならない?』
「にゃ」黒猫が小さく返事をした。



<< つづく >>

西の風は日暮れまで

ウィンターホールド大学での仕事がひと段落着いたので、休暇を取ってドーンスター ⇒ モーサル ⇒ソリチュードと旅をすることにしたJadeとマーキュリオ。

途中ドゥーマーの遺跡に潜ってみたりと、なかなか楽しい旅路だ。

ソリチュードからマルカルスへ向かってみようか?と話をしながら、今夜の宿ウィンキング・スキーヴァーへとやってきた。

宿屋の主人と話をしていると、ふいに女性が声をかけてきた。

「あら、マーキュリオじゃない。」
声の方に向き直ると、上品な装いの美しい女性が艶やかに微笑んでいる。

マーキュリオが一瞬驚き、それから苦い顔をしたのをJadeは見逃さなかった。
女性はマーキュリオとJadeを見比べながら、近づいてくる。

「ジェマイマか・・・。久しぶりだな。ソリチュードで何をしている。」
ジェマイマと呼ばれた女性は、Jadeに視線を走らせた後マーキュリオの腕にそっと手を置いて、意味ありげに笑う。
「何って・・・知っているでしょう?」
もう一度Jadeを見て、「貴方、子守をしているの?」と尋ねる。

思わずカッとなって、他を見てくると宿屋を飛び出すJade。
後を追おうとしたマーキュリオの腕を掴み、ジェマイマは食事に誘った。
掴まれた腕をそっと外し、呆れたような表情でジェマイマを見つめる。
「・・・お前は、あんな意地の悪い言い方をするような奴ではなかったはずだ。」
「あら、意地悪をしたつもりはないわ。」



なにさ、子守って!!とJadeは最初怒っていたが、ふと思いついた昔の彼女とかなんだろうかという考えが頭から離れなくなってしまった。
綺麗な人だったな。綺麗な服着てたな。

ぼんやりと考えながら歩いていたため、向かいから荷物を持ってやってきたアルトマーの女性とぶつかってしまう。
「あ、ごめんなさい!」
「大丈夫よ、気にしないで。」
持っていた荷物を落としてしまったので、一緒に拾う。
女性が、自分をじっと見つめていることに気が付いた。

「な、なに?」
「あなた・・・随分と汚れているわね。」

軽蔑したような物言いではなく、事実がそのまま口から出たというような口調だった。
思わず自分の服装を確認するJade。
言われてみれば、遺跡で戦って着替えもせずにそのままの状態だ。袖口には血糊が付き、埃でうっすらと汚れている。
格別自分が汚いとは思わなかったが、先ほどマーキュリオに声をかけてきた女性と比べれば・・・その差は歴然だ。

軽くショックを受け、黙り込んだJadeに向かって女性が店に来なさいよと誘う。

ターリエと名乗る女性は、ソリチュードで高級服飾店レディアント装具店を姉と2人で営んでいるという。
上手いこと乗せられたような気がしないでもないが、折角なので似合う服を見繕ってもらうとしよう。

姉のエンダリーとターリエがあれこれと服やら靴やらアクセサリやらを持ってきてくれ、ああでもないと着せ替え人形のように着替えさせる。
Jadeは肩の出る、明るい色の服が気に入ったので買うことにした。
それなら髪型やアクセサリも素敵に仕上げましょうとエンダリーが髪を結い上げ、飾りをつけてくれる。
仕上げにと、薄く化粧までしてくれた。

鏡の中に映る自分が、今まで着たことのない装いで微笑んでいるのがくすぐったい。
「あら、似合うじゃない。さっきまで着てた服は宿屋に届けておくわね。」
「ありがとう!あ、じゃあ武器も一緒に預けてもいいかな。」
「そうね。折角可愛い服装してるのに、腰にメイスぶら下げているのは頂けないわ。」

うきうきとした足取りでレディアント装具店を後にする。
宿屋へ戻ろうとすると、マーキュリオがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

一瞬眩しそうな顔をしてJadeを見つめる。
「お前・・・どうしたんだ、その格好。」

「・・・いいじゃない。」
「そんな服・・・」
そんな服。先ほどまでの浮足立った気持ちに冷や水を浴びせられた気分だ。
マーキュリオの渋い顔をまともに見ることができず、顔を背けて歩き出す。

「着替えてくれ。」腕を掴まれた。
「マーキュリオに言われる筋合いない!」

腕を振り払い、宿屋とは反対側へと駆け出していく。



夕暮れ時になり、ランタンの灯りが灯り始めた。
どこかで陽気な音楽が奏でられている。歌声も聞こえてきた。
見ると、そこは吟遊詩人大学。出店が出ていて、皆楽しそうに飲み食いしている。

吸い込まれるように近づいて行くと、歌を歌っていた吟遊詩人が酒を片手に近寄ってきた。
「やあ、お嬢さん。この出会いに祝杯を上げようじゃないか。」
その軽い口調に思わず微笑む。差し出された杯を受け取り、一気に飲み干す。

「美味しい。」甘くて心地よい酔いが体に広がる。
「お口にあってよかった。君はとっても可愛いね。その服も凄く似合ってるよ。」
吟遊詩人はそう言うと、そっとJadeの肩に手を回してきた。
マーキュリオに言って欲しかった台詞をさらりと口にする。
美味しいお酒と陽気な雰囲気に気分が良くなり、肩に回された手を不快には思わなかった。

「おい。」
吟遊詩人の腕がねじり上げられる。微かに焦げたような臭いもした。

いたた!と悲鳴を上げ吟遊詩人が逃げ出していく。
振り返ると、今まで見たことない怒った表情のマーキュリオが立っていた。
「何をしている。」
Jadeの腕を掴み、強引にその場から連れ出す。

険しい顔をして、無言でJadeを宿屋へ連れ帰ってきたマーキュリオをジェマイマは見逃さなかった。
仲間と食事をしていた席を立ち、2人に近づいてくる。
「お嬢ちゃんの子守?腕の立つ傭兵なのに、あなた大変ね。」
Jadeの服装を見て、くすりと笑う。

マーキュリオがジェマイマを睨みつける。
「俺の大切な嫁さんだ。」


そのまま二階へと上がり、乱暴に部屋へ連れ込まれる。
掴んでいた手を離すと、マーキュリオは背を向けたまま窓際で立ち尽くす。

ああ、くそっとマーキュリオが呟いた。
大きくため息をつき振り返ると、Jadeが声を出さないように唇を噛み締めて涙を零していた。
触れようとマーキュリオが一歩踏み出すと、びくっと体を縮める。

「おい。」
「ど、どうせ似合わないもの。」
「そんなこと言ってないだろう。」
「あんな、ふうに、綺麗に、なれないもん。綺麗じゃ、ないもん」

へたへたと床に座り込み、しゃくりあげるJadeを見て、最初何を言っているのかマーキュリオはわからなかった。

ジェマイマか。
そう思い当たると、「違うんだ」と呟いたがJadeの耳には届かない。

無理やり抱き上げベッドの端に座らせると、マーキュリオは椅子を引き寄せJadeの向かいに座り込んだ。
Jadeの手を取り愛おしそうに撫でる。
何度か言い淀んだ後、似合っているよと囁いた。

「・・・無理にほめなくていい・・・」俯いて、マーキュリオを見ようともしない。

「違う。」
強くJadeの手を握りしめる。折角結い上げてもらった髪も崩れて顔にかかっている。そっと優しく髪を払う。

見せたくないんだよ。
嬉しそうにしているお前をずっと見つめていたいけど、他の男に見せたくないんだ。
心の中でそう呟いた。

バツの悪そうな顔をして、Jadeを見つめる。
「全部、俺のわがままなんだ。」手に口づけしながら、傷つけたことを謝るマーキュリオの言葉を黙ってJadeは聞いていた。

すくっとJadeが立ち上がった。

「・・・似合ってる?」
「うん。」
その場でくるりと回る。
「・・・可愛い?」
「ああ、可愛いよ。髪型も、全部可愛いよ。」

「うれしい。」涙で濡れた顔でにっこり微笑む。


その夜。
遅い時間まで、Jadeと出会うまでに携わっていた傭兵の仕事の話をマーキュリオは聞かせていた。
ジェマイマは以前の雇い主で、シロディールからスカイリムへの旅路を守ってやったという。

話の途中でJadeが、すやすやと寝息を立てていることに気が付いた。
自分の妬心と、ジェマイマに対してのJadeの妬心にくすぐったさを覚えながら、腕の中のJadeと一緒に眠りに落ちて行った。

「西の風は日暮れまで」終

A blessing in disguise

Lucky38の外で声をかけてきたリージョン兵、ヴァルプス・インカルタ。

シーザーからだと勲章を渡された時、ルシアの手をじっと見つめてたのが気にかかる。
あいつは一体何を見ていたの?。
まさか・・・元奴隷だって気づいた?

いや、それはないだろう。
奴隷の証である焼き印やタトゥーは背中にしかない。見える場所には何もないはずだ。

手が震えてしまったが、勲章を渋々受け取る。
そんなLuciaをまじまじとヴァルプスは見つめる。

シーザーがフォートで待っている、といい残しヴァルプス・インカルタは立ち去って行った。

いや、立ち去ろうとした。
二三歩歩いたところで、思い直したように向きを変え再びルシアへと向かってくる。

あ、と思ったときには右腕を掴まれていた。


何を見ているの。

ヴァルプスの視線の先は、手の甲にある小さな痣。
少し面白い形をしているが、小さな痣なので余り人には気づかれない・・・はずだ。

何故この男は、この痣を熱心に見ているの?なんなの?
恐怖が勝ってしまい、ヴァルプスの手を振りほどくことができないルシア。

そんなはずはない、とヴァルプスが小声で呟くのが聞こえた。
一瞬眉根を寄せ、信じられないといった表情で「ルーなのか?」と聞いてきた。

ルシアをルーと呼ぶ人間はほとんどいない。
それは、奴隷時代を思い出させるものだった。
恐怖に凍り付き、返事をすることもできない。声が出ないのだ。

ヴァルプスが痣を愛おしそうに撫でる。
「お前は・・・ルーなのか?」

その名の呼び方が記憶を呼び覚ます。
「ジーノ・・・?」
奴隷として売られた2つ目の家に、ルシアより少し年上の兄弟がいた。
兄の方は意地の悪い性格で、奴隷たちをよく虐めていた。ルシアとて例外ではない。
その兄からよく庇ってくれたのが弟のルドヴィコで、家族に隠れて「ルー」「ジーノ」と呼び合っていた。
奴隷を所有している家の人間にしては珍しく、ジーノという少年はルシアや他の奴隷たちにも親切だった。

しかし、ルシアが病に罹ると父親が働けない奴隷など不要と言い出し山奥に捨てるように家の者に命じた。
ジーノはなんとかしてルシアを助けようとしたが、父親や兄に殴られ部屋に閉じ込められ手が出せないようにされてしまう。

山中に捨てられ死を覚悟したルシアを助けたのは、偶然通りかかったキャラバン隊の犬たちだった。
ルシアを見つけ、体温が下がらないようにぴたりと寄り添ってくれた。
更にキャラバン隊も親切な人間で、持ち合わせていた薬を飲ませ体力が回復するまで荷馬車に乗せて一緒に行動してくれたのだ。

そういった思い出が脳裏を過る。

しかし。
懐かしさより、見つかってしまったという恐怖の方が大きくヴァルプスの手を振り払って逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
だが、声も出ず足も動かない。



震えるルシアの腕を一層強くつかむヴァルプス。
「俺は、俺は・・・あの時、お前を守ることができなかったことを・・・」
一歩踏み出そうとしたヴァルプスだったが、ラウルが2人の様子に不審を抱き近寄ってくることに気が付いて、さっと掴んでいた腕を離した。

「シーザーがお前を待っている。フォートへ来るといい」
それだけ言い残して、今度こそ後ろを振り返らずにヴァルプス・インカルタが立ち去って行った。

「ボス、大丈夫かい?あいつは・・・誰だ?」ラウルが心配そうに声をかけてきた。
『だ、大丈夫・・・。なんかCaesarが会いたがってるんだって』

ヴァルプスの後姿を不安げに見送る。



「運び屋には勲章と謁見の話をしてまいりました」
「そうか、わかった。よくやったな、ヴァルプス。」
シーザーへ結果を報告し、自室へと戻る。

棚の奥にしまい込んでいた、埃の被った小さな箱を取り出してヴァルプスは眺める。
そこには、おもちゃのような小さな指輪が入っていた。

「今度こそ。お前を・・・。」



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