Also A Deram...

投稿者: Feriz Page 1 of 2

In The Seventh Heaven

コツコツコツとすり鉢を使う音が響く。

ウィンターホールド大学の錬金台で黙々と作業をしているJadeの傍にブレリナが近寄ってきた。
「Jade。さっきトルフディル先生が探してたみたいだけど。」
「あ、それなら大丈夫。もう話は終わってる。」

ああ、もう!とJadeが出来上がった薬を見て舌打ちする。
Jadeの手元を見ると、マジカ減退の薬が作られていた。

何を作りたいのか尋ねると、体力治癒の薬だとJadeが呟く。
ブレリナは棚に乗っている材料を集めて、体力治癒薬が出来上がる組み合わせを教えてやる。
ああ、そうか!と顔を輝かせて、Jadeは教えられた組み合わせをすり鉢に入れて混ぜ合わせていく。

それにしても、とブレリナ。
この娘は錬金術が本当に苦手なのね。

「わ、やった!できた!ありがとう!」
「で、なんで苦手な錬金術をそんなに頑張ってるわけ?手が酷いことになってるわよ。」
何度も失敗したらしく、Jadeの手は薬草に色に染まり、荒れていた。
ブレリナの質問が聞こえなかったのか、聞こえないふりなのか、Jadeは答えずにひたすら薬を作り続けた。



満足のいく数を作り終えて、ほっと一息つくJade。
「付き合ってくれて、ありがとう。ブレリナ。」
「いいのよ。そうだ、今日はもうリフテンに戻るの?」
「うん。そうだ、夜ご飯一緒に食べようよ。それから家に戻ろうかな。」
珍しくJadeがブレリナを食事に誘った。

じゃあ、折角だからとオンマンドとジェイ・ザルゴも誘ってフローズン・ハースへ向かう。

「ねぇ、今日作った回復薬はもしかしてマーキュリオのため?」
ブレリナから直球の質問が飛んできて思わず咽るJade。
ジェイ・ザルゴが興味津々といった体で思わず身を乗り出す。

「なんだ、Jade。あいつのために薬を作りに来たのか?そうなのか?」
耳を赤くしたJadeを見て、オンマンドとジェイ・ザルゴがにやにやと笑う。
手にしていたエールを一息に飲み干し、ブレリナがテーブルをどんと叩く。

「前から聞きたかったんだけど、マーキュリオのどこがいいの?」
オンマンドがぎょっとしてブレリナを窘める。

「だってさ。マーキュリオは不愛想だし、口数少ないし、怖いじゃない。」
「怖くないよ。」Jadeが穏やかな声で答えた。
鮭のステーキをもぐもぐ食べながら、ジェイ・ザルゴもJadeに同意する。
「マーキュリオは魔法の事聞くと、いっぱい喋るよ。ジェイ・ザルゴほどじゃないけど、大成するね。」

「じゃあ、どこがいいの?」酔っているのか、座った目をしたブレリナの追求が続く。




Jadeがウィンターホールド大学で仕事があると朝早く出掛けたため、マーキュリオは書斎に籠って調べ物をしていた。

日が落ちても戻って来ないところをみると、今日は泊まりかなと考え1人で簡単に夕食を済ませ、再び調べ物をするために書斎へと戻る。

そろそろ寝るかと明かりを消しに立ち上がった時に、玄関の扉が閉まる音がした。
Jadeが重そうなバックパックを降ろしたところでマーキュリオは声をかける。

「今日は泊まってくるのかと思ってたぞ。」
「あ、おこしちゃった?」
近寄ると、ふわりと酒の臭いがした。どうやら酔っているらしい。
夜更けに酔っぱらって外を歩いてきたのかと思うと、思わず眉間に皺が寄る。

「・・・飲んだのなら、朝になってから帰ってこい。危ないだろう。」
だってね、とバックパックから沢山の薬を取り出すと、Jadeは得意げに微笑んだ。
これ、できたの。マーキュリオが遺跡に行くときに持っていってもらうの。

薬を持つ手を見ると、薬草の色が染みついて荒れている。

「でね、ブレリナがね。」酔ったJadeの会話があちこちへと飛ぶ。
「うん?」
「マーキュリオのどこがいいのって言うんだよ。」

思わず苦笑してしまうマーキュリオ。
「・・・で、なんて答えたんだ?」

「ふふ。ひみつ。」悪戯ぽく笑うとJadeはマーキュリオに抱きついた。

「じゃあさ、マーキュリオは?私のどこがいいの?」
そんなことを改めて聞くのか、とマーキュリオは少しだけ悲しい気持ちになる。
仕方がない酔っぱらいだな、と呟いてJadeを見つめる。

「錬金術が苦手なのに、手を荒らしてまで俺の為に薬を作ってくれるところ」指先にキス。

「魔法を使わずに、メイス使って戦って傷を作るところ」頬にできていた傷にキス。

「真っ直ぐに俺を見つめる瞳」瞼にキス。

「俺の独り言も、実は聞き逃さない耳」耳たぶを甘噛み。

「気が強いけど、泣き虫でもあるところ。」軽く唇にキス。

それで、お前は?と甘やかに尋ねる。
「本に夢中になると、ご飯食べるの忘れるでしょ。」
「遺跡に一緒に行くと、蘊蓄垂れるでしょ。」
「魔法使えっていっつも怒るでしょ。」

「・・・なんだ、いいとこ出てこないじゃないか。」

「でもね。」
マーキュリオの首に腕を回し、こそりと秘密を漏らす様に耳元で囁く。

「でもね、全部、好きよ。」

そう言うと照れ臭そうにマーキュリオの胸に顔を埋める。




「なんか結局惚気られたわね。」
ウィンターホールド大学ではJadeが帰った後、ブレリナとオンマンドがまだ飲み続けていた。

ブレリナに向かってJadeはマーキュリオのいいところを力説し、挙句全部好きだと言い放っていたのだ。
結婚式を挙げる前の一幕を知っているオンマンドは、仲良くやってて良かったと嬉しく思っていた。

「友達が幸せそうで、僕は嬉しいと思うよ。」
まぁ、そうなんだけど。なんか寂しくなっちゃってさ、とブレリナがぶつぶつと口ごもる。

その気持ちはわかるな、と心の中で呟く。

「よし、ブレリナの気が済むまで付き合おう。」
そう言うとオンマンドは空いたコップにエールを継ぎ足した。

「In The Seventh Heaven」終

Soleil

深酒をして泥のような眠りについたブーンが目を覚ましたのは、すでに日が高く昇った昼近くだった。

頭がまだ働かず、体は重い。
喉の渇きを覚えて立ち上がると、まだ酔ったような感覚で足元がふらついた。
こんな酷い二日酔いは久しぶりだ。

幸いなことに、今日は予定が入っていない。
1日自堕落に過ごしても問題はないということだ。

アルケイドがブーンの部屋を覗くと、痛む頭を抱えてベッドに寝転ぶ姿があった。

「やれやれ・・・。二日酔いか?」
「・・・何故、そう思う。」
「お前、昨日キッチンで酔い潰れていたのを覚えていないのか。」

渋い顔をしてアルケイドを見ると、呻き声を上げた。

「何があったんだ?」溜息をつきながら、アルケイドが尋ねる。
再び唸り声を上げるブーン。
「・・・薬と水をくれ。」



アルケイドが薬を手にキッチンへ向かうと、キャスとLuciaがお茶としながら話をしているのが見えた。
「あれ、ブーンは?まだ寝てるの?」キャスが珍しいわね、と呟く。
「ああ、今日は1日動けなさそうだ。酷い二日酔いで潰れてるよ。」
そう言うと、Luciaに向かって薬と水を持って行ってくれないかと頼む。

いつもなら、元気よく返事をするLuciaだったが一瞬迷いを見せた。
「あ、うん。渡してくるね。」アルケイドから薬と水を受け取ると、キッチンを後にした。

「・・・どう思う?」ぽつりとキャス。
「どうって?」
「あの二人、昨日何かあったのかなって思ってるんだよね。」
アルケイドは昨晩のブーンの酔い潰れた様子を思い浮かべたが、何があったのかブーンから聞いていなので話題にあげることは避けた。

「ブーンがLuciaを傷つけるようなことしたら・・・タマ蹴り上げてやる。」
「・・・尻を蹴上げるくらいにしてやってくれ・・・。想像するだけで痛い。」



ひまわり畑の中に愛しい笑顔が見えた。
花をかき分け進んで行くが、なかなか辿り着かない。
腕を伸ばせば、その手を掴めそうなのに。

必死な思いで、ようやく手を掴む。二度と離すものか。

彼女はいつもの笑顔で語り掛けてきた。
「クレイグ。もう、いいのよ。」
「カーラ、待ってくれ。」

ぽつりと雨が顔に当たった。

気が付けば、彼女が、消えていた。

「カーラ!!!!」


目の前にいるのは、大粒の涙をこぼしているLuciaだった。
ブーンに腕を掴まれたまま、声を押し殺して泣いている。

「Lucia・・・?」
「ご、ごめんなさい。」
何故泣いているのか、何故謝っているのか全く理解できないブーンは、掴んだ腕を引き寄せようとする。
「・・・っ!やだっ」
ブーンの腕を振り払い、部屋を飛び出していくLucia。
後を追いかけようと起き上がるが、ぐるりと世界が回ってベッドに再び倒れこむ。

「くそっ・・・!」



Lucky38を飛び出し、気が付けばLuciaはStrip地区北口を出てフリーサイドへと向かっていた。
どこに行く当てもないのだが。

「・・・どうしよう。」
ぼんやりとそんなことを考えていると、急に後ろから殴られた。
振り返ろうとするLuciaを強い力で押し倒す。

フリーサイドの通り魔だ。

武器をと思ったが、何も持たずにLucky38を飛び出してきてしまった。ナイフも銃も持ち合わせていない。
Luciaに馬乗りになり、何度か顔を殴りつける。
庇おうとする腕を払いのけ、持っていたナイフを振りかざして、フリーサイドの通り魔はニタりと笑った。

思わず目を瞑ったその時、重たい物が倒れる音がした。

「あなた、大丈夫?」
助け起こしてくれたのは、小さな銃を持った女性。
「私はリタよ。もう大丈夫だから、安心して。」
リタと名乗る女性に言われて気づいたが、知らぬ間に体が震えていた。思わず涙も溢れ出てくる。



リタが経営しているというカフェへと連れられてきた。
Luciaを座らせると、落ち着くまで休んでてと言い飲み物や薬を用意してくれる。
「ありがとう・・・。ごめんなさい。」
「ゆっくりしてて。・・・あら、いらっしゃい。」
リタは入ってきた客に向かって挨拶をする。

「ルー?お前、何故ここにいる?」

見ればヴァルプス・インカルタがいる。
「え?ジーノこそ、なんで?」
ヴァルプスは質問に答えず、Luciaの顔に手をかけ傷を調べ出した。

「どうした、この傷は。まさかあいつにやられたんじゃないだろうな。」
「あいつ?誰?」
「Lucky38で見かけたあいつだ。」

どうやらブーンのことを言っているらしい。
「ち、違うよ!」
リタが、フリーサイドの通り魔に襲われたのよ、と助け船を出してくれる。
ブーンのことが話題に上がったため、またしてもじわりと涙が溢れてきた。

「何故、泣く。」
「泣いてない!もう帰る!」
ヴァルプスの手を払い除け立ち上がるLuciaに向かって、また遊びにいらっしゃいとリタが優しく言う。



「・・・それで、Luciaに向かって奥さんの名前を呼んだというわけか。」

いつまでもブーンの部屋から戻ってこないLuciaを心配して様子を見に来たアルケイド。
しかし部屋には頭を抱えて寝転がるブーンの姿しかなかった。

Lucky38で暮らしている仲間には、カーラが死んだことは伝えてあった。
何故亡くなったのかを知っているのはLuciaだけなのだが。

「・・・泣いていた。」
「そりゃぁ・・・そうだろう。」
「・・・何故、そうだろうと思うんだ。昨日の夜も、俺はあいつを泣かせてしまった。」

アルケイドはブーンをまじまじと見た。
Luciaの思いを、俺がここでブーンに伝えることはできるが・・・。それは正しいことなのか?
ブーンは本当にLuciaの気持ちや自分の気持ちがわかっていないのか?

部屋の外で微かに音がしたことに気が付いたアルケイドは、そっと視線をドアへと向けた。
ドアに隠れる様にしてLuciaが中の様子を窺っているのが見えた。

「少し休め。そしてよく考えろ。」

「Lucia。」
アルケイドが優しく声をかける。
見れば顔や手に擦り傷が沢山出来ている。さっきまで泣いていたのか、目も腫れている。
Luciaが何も言わずにアルケイドに抱きついてきた。

「どうした?傷だらけじゃないか。」
優しく、その頭を撫でてやりながらブーンに聞こえる様に、あえて少し大きな声で話をする。
「・・・フリーサイドで・・・襲われちゃった。武器、持って行くの忘れて。」
部屋の中でブーンが身を起こすことが聞こえてきた。

怪我の手当てはもうしてもらったから大丈夫だよ、と笑うLucia。
さっきブーンさんに何も言わずに飛び出しちゃったから、謝らないと。

「Lucia。」いつになくアルケイドが真剣な声で名前を呼んだ。
「なぁに、先生。」
「ちゃんと自分の気持ちを伝えてごらん。」
優しくLuciaの頬にキスをして、ブーンの部屋へと押し込んだ。

ブーンが渋面を作ってベッドに腰かけているのが見えた。
「さ、さっきはごめんねブーンさん。なんか折角カーラさんの夢を見てたのに、起こしちゃって。」
一気に捲し立てるLuciaをブーンはじっと見つめていた。

そして呻き声を上げながら立ち上がると、Luciaの腕を掴み胸の内に掻き抱く。

一瞬何が起こったのか理解できなかったLuciaは、驚きすぎて声がでない。
「・・・すまん。」

「わ、わたし」
「・・・うん。」
「カーラさんじゃないの。」
「・・・うん。」

ドアをそっと締め、がんばれよLuciaとアルケイドは心の中で呟いた。

ラウルが大きな声でLuciaを探しているのが聞こえてきたので、慌ててそれを制する。
「そっとしておいてやってくれ。」
「OK、わかった。でもな。やつがボスを悲しませるようなことをしたら、タマ蹴り上げてやる。」
せめてケツにしてくれと言いながら、2人はキッチンへと戻って行った。

Shape of You

久々にブーンと出かけてLuciaは少し浮かれていた。
それが、キャンプゴルフでの頼まれごとを片付ける、ということだとしても。

ニューベガスに着く頃には日が傾き始めていた。
丁度キャスやベロニカが夕ご飯の支度を始める頃だろう。
お腹空いたね、とブーンと話ながらLucky38へと向かっていた。

急に、右手を掴まれた。

そんなLuciaには気づかず、ブーンは先にLucky38のドアを開けて中へと入る。

振り返ると、そこにはリージョン兵のヴァルプス・インカルタがいた。
リージョンの鎧ではなく、以前シーザーの使いとしてやってきた時のようにスーツを着ている。
ニューベガスでは珍しくもない、ギャンブラー風の服装だ。

ぎょっとしたLuciaは手を振りほどこうとするが、ヴァルプスは掴んだ手を離そうとはしない。
「な、なんなの・・・」ようやく言葉を吐き出すことができた。
「話がしたい。」

Luciaがやってこないことに気が付いたブーンが、扉を開けて外の様子を窺っている。
男に手を掴まれていることがわかると、つかつかと大股に近寄ってきた。
「・・・何をしている。」
暫くの間、ヴァルプスとブーンは睨みあっていた。
Luciaの方に向き直ると、知り合いなのかと尋ねてきた。掴まれた手を凝視しながら。

Luciaが答えるより先にヴァルプスが、昔からの知り合いだと言い放つ。
「久しぶりに会ったんだ、食事でもしようじゃないか。なぁ、ルー?」
その親し気な口調にブーンが眉を顰め、Luciaに視線を投げる。
「む、むかしからの知り合いで・・・ええと、前にお世話になって。あの、ブーンさん先に、も、戻ってて」
しどろもどろに答えるLuciaに、より眉間の皺が深くなるブーン。
深いため息をついた後、早めに戻るんだぞと言いLucky38へと戻って行った。

バルプスはLuciaの腕を掴んだまま、TOPSの方へと歩いていく。
「ちょっと、どこ行くつもりなの?」
「言ったろう。食事だ。」

TOPSの受付では慣れた様子でヴァルプスが話を進めている。
チェアマンがヴァルプスに鍵を渡した。
「ここは五月蠅すぎる。静かな場所へ移動する。」
チェアマンたちの視線を避ける様に、ヴァルプスの後へと続く。

やってきたのはプレジデンシャル・スイート。
奥にある服に着替えろと指示を出して、ヴァルプスは部屋を出て行った。

見ると洋服棚に赤いドレスが掛けられている。
ホテルだから、これに着替えろという事か。・・・確かに今着ている服では、この高級な部屋には似合わないだろう。
ベロニカが喜ぶだろうなと思いながら、ドレスに手を通す。
着替え終わり、ソファやテーブルがある部屋に戻ると、食事が運び込まれてるところだった。



着替えたLuciaを目を細めて見つめるヴァルプス。
向かい合わせに席につくと、Luciaに食事を勧める。
「い、いったい・・・なんなの?」
「昔、洋服を欲しがっただろう。どこかの家の若いのが着ていた赤いドレス。」
あまりに昔の話でLuciaはすぐには思い出せなかった。奴隷時代に、そんなことがあったかもしれないが・・・。

再びLuciaを見つめ、ふとヴァルプスが微笑んだ。
その顔は思い出の中の少年の笑顔と同じだった。
「ルー、思った通り似合ってるよ。」

Luciaに食事をすすめるが、ヴァルプス自身は酒を少し舐める程度だ。
「食べないの?」
「お前の為に用意した食事だ。それに俺は、この辺りの食べ物は食べない。」
そう言いながら、食べ物を口に運ぶLuciaを見つめている。
「見られてると、食べにくい。」
「お前と食事できるのが、嬉しくてな。」

Luciaが食べ終わる頃を見計らって、デザートとコーヒーが運び込まれてきた。
あまりの至れり尽くせりぶりに、Luciaは落ち着かなくなってきた。
「元・・・奴隷に、なんでこんなことするの?」
ヴァルプスの目が、一瞬すうと細くなる。
「俺の父も兄も、もういない。あの時代の事を覚えている人間は、ほとんどいない。更に、お前は病で亡くなったことになっている。」
もう奴隷時代のことを怯えなくていいのだろうか?見つかるかもしれないと、怯えなくても・・・

「・・・さっき一緒にいた男、あいつはNCRだろう。」
「え」
「あいつは、お前のなんなんだ?」
思いがけない方向から直球の玉が飛んできて面食らったLuciaは、「なにって?」と聞き返すのが精いっぱいだった。
そんなLuciaを面白そうに眺めると、そろそろ出るとしようと言い席を立った。

ヴァルプスは奥の部屋にかけてあった洋服を袋に入れると、ドレスのままで戻るといいと言いながら手渡してきた。

「ルー。」
Lucky38の前で別れ際にヴァルプスに名前を呼ばれた。
「昔のことを知っているのは、俺だけだ。」
目を見開いたLuciaを見つめながら、耳元に唇を近づけ「いつでもシーザーリージョンはお前を歓迎する」と囁く。
Luciaの頬に軽くキスをして、ヴァルプスは立ち去っていった。



見慣れぬドレス姿で戻ってきたLuciaを見て、まずラウルが盛大に褒めだした。
「ボス!どうしたんだい。いつもの格好もいいけど、赤いドレス似合ってるな。いいな、ボス」
ベロニカはドレスの生地に興味津々。あれこれと触っては溜息をついた。
アルケイドも、あちこちから眺めて、とても良く似合っていると褒めてくれる。
キャスは、Luciaの表情が硬いことに気が付いていた。

そしてブーンはというと、一瞥だけして何も言わずに部屋から出て行った。

泣きそうな顔になったLuciaの頭を大きな手でリリーが優しく撫でる。
思わずリリーの大きな体にしがみつくLucia。
「褒めるべき時に、言葉にできない男はダメだと婆ちゃんは思うね」
ブーンさんは、赤いドレスが嫌いなのかもよとリリーにしがみつきながら笑おうとする。

後ろからキャスが声をかけてきた。
「Lucia、一緒にお風呂に入ろうか。」前にキャスに奴隷時代の事を話したのも風呂場だった。
「心配かけてごめんなさい」
Luciaの頭にバスタオルをかけて、気にしないのとキャスが呟く。

Luciaがキャスに今日の出来事を話している頃、ラウルがブーンに赤いドレスは嫌いなのかと揶揄うように声をかけていた。
じろりとラウルを睨むと、「赤いドレスが嫌いとか、そういうことではない。」と呟いた。
「ああ、そうか。ボスが誰かに食事に招かれ素敵なドレスを着て戻ってきたことが気に食わないのか。」
ラウルは意地悪く、にやにやしながら言葉を続ける。
「ボスだって、デートくらいするだろうさ。」
グラスに酒を注いでブーンに渡すと、自分もちびりちびりとやり出した。
「相手は誰なんだろうなぁ。ブーン、お前見たか?」
「・・・。」外で見かけた男を思い出し、渋面を作る。

ひとしきりラウルはブーンに絡むと、じじいは寝るとするかねと呟いて部屋を出て行った。

グラスが空になったことに気づき、酒を足しにキッチンへと向かうブーン。
風呂上がりのLuciaが暗がりの中でぼんやりとしているのが見えた。
「・・・電気もつけずにどうした。」
急に声をかけられて驚いたLuciaは目元をこすって、眠れなくてと答えた。
「キャスさんがホットミルクいれてくれたから、これ飲んで寝るよ。ブーンさんは?」
「・・・俺も、これを飲んだら寝るとしよう。」
そう言うと、ブーンはLuciaから離れた場所に座り込んだ。

「・・・今日は、戻るのが遅かったな。」
「ご、ごめんなさい。もっと早く戻るつもりだったんだけど」
「・・・あいつは・・・誰なんだ?」
「え、あ、ええと。あの。」ブーンに責められているような気がして、上手く答えられない。

「言いたくないならいい。」
泣きそうになるのを、ぐっと堪えて「ごめんなさい」と小さく呟き、Luciaはキッチンを出て行こうとする。
ふいにブーンがLuciaの腕を掴んだ。
「・・・何故、泣いている。」
引き寄せようとするブーンの腕を払いのけ、涙声で小さく罵倒した。
「ぶーんさんのばか」



水を飲みにキッチンにきたアルケイドが、今まで見たことがないくらいに酔い潰れたブーンを見つけたのは明け方近くだった。
「一体こんなに酔い潰れるまで飲むなんて、なにがあったんだ。」ブーンを抱えてベッドへと運ぶ。
なにかもぞもぞと呟いていたが、アルケイドが聞き取れたのは「泣かせた」と言う単語だけだった。
目を覚ましたら聞くことにするかと考え、ベッドにブーンを投げ込むとアルケイドは自分の寝室へと戻って行った。

めぐる めぐる

温泉で骨休めをした闇の一党のメンバー。
中でもDiyaabはかなり右足の調子が良くなったと感じでいた。

完全に仕事に復帰するには、まだ時間がかかりそうだが・・・荷物にだけはならないようにしようと日々リハビリに励んでいる。
そんな折、ナジルが以前身に纏っていたマントと同じものを手にやってきた。
「そろそろ、いいんじゃないか?」
「・・・。」
「いつまでも商人風の男が、この場所に出入りしているのもおかしいだろう。着替えておくんだな。」

やれやれ、と溜息をつき服を着替えることにしたDiyaab。
ついでに伸びきった髪と髭も整えておくか。
白くなってしまった髪は元には戻らないが、以前と同じように短くし髭も剃り落とす。

足の調子も悪くないし、シャドウメアで遠出してみるか。
シセロとLadyに声をかける。
「・・・!聞こえし者!!」シセロが目を大きく見開いて、Diyaabを見つめる。
「前と同じだ!戻ったんだね、聞こえし者!」
大喜びしてシセロはその場でステップを踏む。

「・・・まて、シセロ。足は完治していないし、目も戻らん。」
「それでも、少しずつ良くなってきてるじゃないか!嗚呼、母よ!シセロの願いを聞いてくださったんだね!」
嬉しそうにLadyと共に、ドーンスターの聖域を飛び出していく。



シャドウメアに跨り、山中の小さな家へと向かう。
ここへ来るのも久しぶりだ。

静寂に耳を傾け、景色を無言で眺めるDiyaabをシセロがじっと見つめている。
「・・・なんだ?」
「すごくすごくシセロは嬉しいんだ!母が願いを叶えてくださった!」
「・・・一体何を願ったんだ。」

シセロが急に、ぐいと体を近づけてきた。
思わず身を引くDiyaab。

足に痛みが走る。足を庇おうとした時、強い風が吹き体がよろめいた。そのまま、高台から足を踏み外す。
まずい。

「聞こえし者!!!!」



どのくらい時間が経ったのか。
幸いにして雪がクッションとなり、大きな怪我をしなくて済んだようだ。
Diyaabを助けようと、シセロが手を伸ばしてきたところまでは覚えている。そうだ、シセロはどうした。
立ち上がろうと手を着いた時、シセロの服の端が見えた。

慌てて雪を掘り、シセロを助け出す。顔に無数の擦り傷が出来ているが、多量の出血は見当たらない。
「おい、シセロ。」頭を打っている可能性を考え、揺すらずに声をかける。
目を覚ます気配がない。気を失っているのか・・・。

Ladyの遠吠えが聞こえた。シャドウメアとLadyを呼び寄せる。
シセロを抱きかかえ、シャドウメアの背に乗せると一路ドーンスターの聖域を目指す。

「・・・シセロ大丈夫かな?」
「バベット、薪をもう少しくべて火を強くしてくれ。」

傷だらけになりながらシセロを抱えて戻ってきたDiyaabから、ナジルがシセロを引き取りベッドへと寝かせる。
濡れて冷え切った体をまずは暖めろとナジルが言う。

服を着替えシセロの元へ戻ろうとすると、部屋から叫び声が聞こえてきた。

「ここはいったいどこだ!!!!俺は何故こんな所にいるんだ!」
「シセロ、落ち着け。一体どうしたんだ。」
周りを疑い深い目で見ながら、叫ぶシセロ。
落ち着かせようと声をかけるが、聞く耳を持たない。

ベッドから立ち上がり逃げだそうとしたが、足首を捻って倒れこんでしまった。
手を貸そうとすると、振り払われた。
ぎらぎらと怒りに燃える瞳で憎々し気にDiyaabを見つめる。
Diyaabの知っているシセロの姿ではない。これは、一体誰なんだ。

「俺は、シェイディンハル聖域で夜母を守っていたんだ!うるさい、うるさい!俺を笑うな!!」
以前に見たシセロの日記を思い出す。シェイディンハル聖域。ファルクリースの聖域へ来る前にいた場所だ。

「・・・シセロ。ここはSkyrimだ。Skyrimのドーンスターの聖域だ。」
「Skyrimだと?何故そんな田舎に俺が来なければならないんだ。お前は一体誰だ?!」
「・・・俺は、聞こえし者だ。」

Diyaabが聞こえし者と名乗った瞬間、シセロが飛びかかってきた。
思わず手にしたナイフを叩き落し、床へシセロを押し倒す。
「離せ、この野郎!お前もラシャのように聞こえし者を騙るのか!母に対する何たる侮辱!」

騒ぎを聞きつけナジルが駆け付けてきた。
「どうしたんだ!?」
Diyaabとシセロを引き離し、何が起こったのか話を聞く。

どうやらシセロは高台から落ちた時の衝撃で、少し前の記憶を失っているようだ。
ナジルはワインをシセロに飲ませ、ひと眠りさせることにした。
眉間に皺が寄ったまま、眠りに落ちて行くシセロ。
Diyaabとナジルは顔を見合わせて溜息をつく。
「一時的な混乱状態だとは思うが。」
「・・・しばらく様子を見ることにする。皆に危害を加えないよう、俺が見張ろう。」



シセロの元へ戻ると、着ていた道化師の服を脱ぎ棄て暗殺者の鎧に着替えていた。
こちらを睨みつけると、道化師の服をナイフでずたずたに引き裂く。
「おい、何をしている。」
「うるさい、うるさい、うるさい!頭の中で嗤うな!お前は俺が殺しただろう!」
そうか。日記にも書いてあった。最後の仕事で殺した道化師の笑い声が聞こえてくる、と。

「聞こえし者。」

シセロが呼んだ。
驚いて顔を上げると、うっすらと瞳に狂気の色。
「シセロ・・・?」
「うるさい!!!」
そう叫ぶと、シセロは部屋を飛び出していく。

慌てて追いかけると、シセロは夜母の前で足を止めた。
「母よ・・・何故ここに?ここはシェイディンハルではないはずだ。母よ・・・。」
夜母に縋りつく。

Diyaabが後ろから近づいてきたことに気づくと、足を掬い転ばせ、馬乗りになる。
手には愛用の短剣。絶望と怒りと狂気を滲ませた瞳でDiyaabを見つめる。
「シセロ。」
「うるさい!!聞こえし者を騙る輩は俺が許さん!俺は奪いし者だ!」
「お前は・・・守りし者だろう?」

瞳が揺れる。
「母は」
「何故俺の声に応えてくれないんだ。何故だ、何故だ、何故だ!!」
短剣が手から滑り落ちた。かしゃんと音がしたが、気にも留めず母への言葉を口にし続けるシセロ。
ふいにシセロが笑い出した。
瞳には大粒の涙。流れ落ちる涙をそのままに、笑い続ける。
「母よ!愛しき母よ!シセロは・・・シセロは、貴方の声を聞かせて欲しいだけなんだ!」

夜母よ、シセロを再び苦しめなくてもよいではないか。そうじゃないか?
Diyaabは腹の中で思わず独り言ちたが、夜母からの返事はない。
夜母よ。あんたは残酷だ。

「シセロ。」
涙でぐしゃぐしゃになった顔をDiyaabへと向ける。
「聞こえし者ぉ。どうして母はシセロの問いかけに答えてくれないんだ?どうして、シセロじゃダメなの?」
手を伸ばすと、シセロが胸に倒れこんできた。
抱きかかえるような形で背中を撫でてやる。しゃくりあげる声が聞こえる。まるで・・・子供だ。

「シセロ。夜母は、お前の献身をちゃんとわかっている。お前の事を愛している。」
「どうしてシセロに話かけてくれないんだ?どうして?」
「そうだな・・・。」シセロを抱きかかえたまま、考える。
あれこれ逡巡していると、シセロが立てる寝息が聞こえてきた。
やれやれ・・・。

ゆっくりと身を起こすと、シセロを抱きかかえベッドへと運ぶ。
ナジルに、道化師の服を探してもらうか。それとも、このまま暗殺者の鎧の方がいいのか?
そんなことを考えながら部屋を出ようとした時、マントの裾を掴まれた。
振り向けば、シセロがベッドの中からDiyaabを見上げている。

「・・・どうした。」
「聞こえし者が無事でシセロは嬉しいよ。」
先ほどまでいた、狂気に飲み込まれていくシセロは姿を消したようだ。

「ゆっくりと眠るがいい。」
満足そうな吐息をつき眠りに落ちて行くシセロを、Diyaabはいつまでも見つめていた。

闇の一党 湯けむり慰安旅行

沢山の傷を負ったが、Skyrimに戻ることができたDiyaab。
少しづつ体力を取り戻し、リハビリでも開始するかとナジルと話し合う。

それにしても、ドーンスターの聖域は寒い。
強張った筋肉がなかなか緩まないな、と溜息交じりに呟く。

そんな話を聞いていた新人が、ウィンドヘルムの南にいい保養地があるらしいですよと教えてくれた。
なんでも狩人たちや動物が温泉に浸かって傷を癒しているという。
「温泉か・・・。そういえば、そんな話をどこかで聞いたことがあるな。」
「私行ってみたい!」バベットが諸手を挙げて賛成した。
ナジルがバベットとDiyaabを見比べて、ふむと言う。

「よし、お前とシセロで先に行ってくれ。私とバベット、新人たちは日が暮れたら落ち合うことにする。」
「わかった。シセロ!」Diyaabが呼ぶと、花を手にシセロが飛んできた。
「呼んだかい?聞こえし者」
「ウィンドヘルムの南にある保養地に皆で行くことにする。聖域も落ち着いたし、皆の慰安というわけだ。」



鼻歌を歌うシセロと、久々の遠出が嬉しいLady。
Diyaabは商人風の服装のまま現地へ向かうことにした。
足の悪い商人と、その従者という体でいくからなとシセロには説明した。
故郷から戻ることはできたが、まだ油断はできない。暫くの間は一般市民を装うことにすると決めた。

「あそこだね、聞こえし者!」シセロが歓声を上げた。

日が陰り出してきたため、保養に来ていた狩人たちは引き上げるようだった。
ふらりと現れた商人とその従者の姿を見て、親切にも声をかけてきた。
「あんたたち、保養に来たのかい?暗くなるから気を付けろよ。」
「ああ、ありがとうよ。妻がこれから来るはずだから、灯りを点けておきたいと思うんだが・・・。」
「じゃあ、このランタン使ってくれ。俺たちは、辺り慣れているから。」

シセロに持っていたランタンを渡し、狩人たちは帰って行った。

「聞こえし者、妻って?」ランタンで辺りを照らしながらシセロが聞く。
「ん?ナジルたちが来るだろ。灯りを点けておく口実だ。」
ふぅんと面白くなさそうに呟いて、シセロは背を向けた。

辺りが暗くなってきた頃、ナジルやバベット達が到着した。
バベットは初めて見る温泉に大はしゃぎだ。
「随分と荷物が多いな。」見れば新人たちが大きな籠を抱えている。
ナジルがにやりと笑った。
「慰安だからな。途中で酒や食べ物を調達してきた。今日はゆるりと楽しもう。」

新人とシセロで辺りを探索し、狼や巨人なんかを倒す。準備は万端だ。

傷ついた体を温かい湯に漬けると、思わずため息が出た。
ナジルもバベットも新人たちも満足そうだ。
エールを飲み、焼いた肉を食べる。ああ、五臓六腑に染みわたる。

湯の中で、右足の筋肉を揉み解す。やはりまだ痛みがあるな・・・。
そう思っていると、シセロがDiyaabの腕や背中をマッサージし始めた。
「お、おい。やめろ、シセロ!」
「早く治って欲しいんだよ、聞こえし者。右ひざ周りもストレッチしようか。」
慌ててシセロを止めようとするDiyaabに、バベットが笑いながら声をかけてきた。
「シセロはね、早く一緒に仕事がしたいのよ。だから一生懸命マッサージの仕方とか覚えたのよ。」
見ればナジルもにやりと笑いながら、こちらを見ている。

そう言われてしまうと、止めることができないじゃないか・・・。
大人しくシセロに任せることにした。

ふと目を上げると、オーロラと大きな月。

「私、今日の事忘れない。」
「バベット、また来ればいい。なぁ、Diyaab?」

皆のためにも、早く体調を戻さないとな。
「その通りだよ、聞こえし者!」蜂蜜酒を飲んでご機嫌になったシセロの叫び声がこだました。

tomber des hallebardes

ブリーズホームを整えるため手持ちの金を使ったErdeは、ひとまず金稼ぎをしたいとリディアに訴えた。

山賊退治などは首長が賞金をかけているはず。
宿屋に行って、仕事がないか聞いてみましょう。とリディアは提案した。

バナード・メアの女将フルダに声をかけると、あらと挨拶。
リディアの後ろにいるErdeとセロに気づき、リディアへ小首を傾げて誰なのかを確認した。
「こちらは首長から任命された従士のErde様と、その用心棒のテルドリン・セロです。」
「おい、リディア。その紹介の仕方はないだろう。」

静かなる月の野営地の山賊退治を紹介された。
行ってみることにしよう。

セロの戦い方を後ろから見ながら、Erdeも左手に火炎右手にメイスを持って戦う。

リディアは盾で弓を避けながら、一直線に敵へ突っ込んでいく。
脇からセロがアイススパイクを撃って敵を足止めする。
そして一気に間合いを詰めて、敵の首を掻っ切る。

あっという間に片付いた。
ついでに野営地の中にお宝がないか、確認してから戻るとしよう。

野営地にたどり着いた時は晴天だったが、中にもいた山賊を倒して出てきた時には土砂降りの雨。
「あら・・・かなり激しく振っていますね。従士様どうします?雨宿りしてから戻りますか?」
「ここからホワイトランまで距離そんなにないし、走って戻ろうかな。」
「そうだな・・・。雲の感じを見ると、暫く止みそうになさそうだ。とっとと戻るとしよう。」

そういうと3人は大急ぎで野営地を飛び出し、ホワイトランへと一目散に走る。

途中Erdeが滑って転んでしまい、泥だらけの惨めな姿になってしまった。
更にホワイトランに辿り着く頃には、寒いと言って震え出した。

「お前、風邪ひきかけてるんじゃないか?」セロが額に手を当てる。
ひゃっと可笑しな声を出して、セロの手を払いのけるErde。
「なんだ、そんな元気があるなら大丈夫だな。」



ブリーズホームに駆け込み、炉端の周りで体を温める。
「従士様?」
リディアがErdeの様子に気が付いた。

炉端前でぐったりと座り込むErdeの額に慌てて手をやると・・・熱い。
「セロ!乾いた布を持ってきてください。あと従士様の着替えを!」
湯を沸かし体を拭いた後、濡れた衣服を着替えさせベッドに横たえる。

てきぱきと看病するリディアを遠巻きにセロは見つめていた。
「セロ、私はアルカディアのところに行って薬を貰ってきます。その間、従士様の看病をしていてください。」
「は?私がか?」
じろりとセロを睨む。渋々看病を引き受けることとなったセロは不機嫌そうだ。

看病ったってな・・・。
とりあえずベッドの傍にある椅子に腰かけてErdeの様子を窺う。
額に乗せた濡れタオルを変えてやっている時、Erdeが小さく何か呟いた。

「セロさん・・・」

熱っぽい手を握ってやると、セロの手が冷たくて気持ちいいのか両手で握りしめてきた。
首筋とか脇の下を冷やすといいんだったか。
空いた手で、Erdeの首筋を触る。ふうとErdeが溜息をついた。

「あれ・・・?セロさん?」
「気づいたか。水を飲め」
体を起こしてやり、コップを渡す。Erdeは素直に水を飲み干した。

「まったく・・・。雇い主に倒れられたら敵わんよ。」
「ごめんなさい・・・」
熱でぼんやりしているのか、いつもより素直な返事をするErdeにセロが調子に乗って首筋に手を当てる。
「冷たくて気持ちいい。」
額に手を当てた時は振り払ったのにな。どうした?と思いながら、更に脇も冷やそうか?と言ってみる。

「脇・・・?熱、下がるの?」
そういうとErdeが服を捲りだした。




「何をしてるんですか。」

振り返るとリディアが仁王立ちしていた。
首筋に手を当てているセロ。服を捲り上げようとしているErde。
セロを叩き出し、Erdeに解熱の薬を飲ませる。

えへへと笑いながら、リディアを見上げる。
「どうしたんですか、従士様?」
「セロさんの手、大きかった。」
あいつ、まさか変なことをしたんじゃないでしょうね。リディアが一瞬形相を変えたことにErdeは気づかなかった。
「とにかく、今は寝て熱を下げましょう。従士様、ゆっくりお休みくださいね。」

「言っておくが、やましいことは何一つしていないからな。」
2Fから降りてきたリディアに気づいたセロが、まずは口火を切った。
「熱を出してぼんやりしている若い娘の首筋に手を当て、更に服を捲り上げさせている姿のどこが、やましくないんでしょうね?」

「私は、雇い主とどうこうするつもりはない。関係を持つつもりはない。」
「・・・へぇ?」疑った表情のままリディアが傍の椅子に腰かける。
「なんだ。私がそんなに節操なしに見えるのか?」
リディアは黙ったまま首を振る。

汗をかいた衣服を着替えようと階段付近まで歩いてきていたErdeは、セロとリディアの会話を耳にした。

雇い主。
ああ、そうか。

着替える気持ちが急に失せ、ベッドに戻り布団に潜り込む。
熱のせいなのか、わからなかったが涙が浮かんで仕方がなかった。

Vouloir c’est pouvoir

ソルスセイムからウィンドヘルムへ戻ってきたErde。
セロが、以前ウィンドヘルムの灰色地区に住んでたことがあると呟いた。

「それで?何をしにホワイトランへ行くのだ?」
「ヘルゲンでの出来事を・・・首長に伝えて欲しいって言われてたの。」
「ヘルゲン?小さな山村だったな」

セロにぽつりぽつりと帝国とストームクロークの諍いに巻き込まれて死刑になりそうになったことや、ドラゴンの急襲、ヘルゲンからの脱出の話を聞かせる。

黙って耳を傾けるセロ。
よくよく考えると、ドラゴンに襲われただなんて信じてもらえないかもしれない。
そう思うと少し悲しくなった。

「噂で耳にしたことはあったが・・・ドラゴンねぇ」
疑っている風もなく、どうやら受け入れてくれたようだ。
「セロさん・・・信じてくれるの?」
「自分の目で見ていないからな、完全に信じるとは言い難いが・・・」
そこでセロが言葉を切った。
兜、外してくれないかな。表情が見えなくて何を考えているのかわからず不安になる。

「そんな嘘をつくような人間にも見えないしな。」
「あ、ありがとう。」



ホワイトランへたどり着き、ドラゴンズリーチでバルグルーフ首長と話をした後は慌ただしかった。
ドラゴンストーンを入手するためにブリーク・フォール墓地へ行き、戻ってきたらドラゴンとの闘いが待ち受けていた。

衛兵たちと協力してドラゴンを倒すと、礼にとバルグルーフ首長はErdeをホワイトランの従士に任命した。
従士になったことにより、リディアという私兵が付くこととなった。
「従士様。リディアと申します。何なりとお申し付けください。」
「私兵?」
「貴方を守ると誓います。」
「Erde、なんか重たいもん背負っちまったな。」
じろりとリディアがセロを睨む。

従士になったことにより、ホワイトランに一軒家(ブリーズホーム)を持つことができた。
なんだかんだと金稼ぎをして、家の中を整えていく。

「・・・ねぇ、セロさん。」
「?どうした、改まって。」

二、三度言い淀んだ後、Erdeは意を決した。
「兜・・・外してくれないかな。」

「これで満足か?」

Erdeが動揺した。
「従士様?」
「!!!ずるい!セロさん、ずるい!!」
「はぁ!?ずるい?なんだそれは」

ぷいと背を向けたErdeの耳が赤くなっていることにリディアは気が付いた。
セロはというと、Erdeの剣幕にぶつぶつ文句を言っている。
おやおや、これは・・・?



ブリーズホームで食事をし、人心地つく3人。
ベッドが足りないため、Erdeとリディアは2Fでセロは1Fで寝ることにした。

一緒に寝るといって聞かないので、渋々ながらリディアはベッドの端に身を横たえた。
キャラバンとしてSkyrimにやってきたことや、ヘルゲンでの脱出劇などをErdeは話す。
「・・・で、セロのふざけた兜の中身が、あんなんだとは思っていなかったという訳ですね。」
図星を指されたErdeは思わず顔を手で覆う。だって、ずるいじゃない。戦いも強くて、中身があれなんて。

あの男が従士様に不足がないか私が見定めましょう、と謎の責任感を胸にリディアは眠りに落ちて行った。

À bon chat, bon rat.

ヘルゲンでの騒動をようやく切り抜け、レイロフと2人リバーウッドへ向かう。

Erdeはダークウォータークロッシングで運悪く、帝国とストームクロークの小競り合いに巻き込まれてしまったようだ。
しかし・・・全く記憶が戻ってこない。

ダークウォータークロッシング近くで、一体私は何をしていたの?
不安そうな顔のErdeを見て、レイロフが馬車で運ばれている時に船がどうのと呟いていたことを教えてくれる。

リバーウッドで休んでいくようにレイロフは言ってくれたが、それを断りダークウォータークロッシングを目指すことにする。


山賊や狼を相手にして、なんとかダークウォータークロッシングに辿り着いた。
辺りを見渡すが、心に響くものもなく期待は裏切られる。
気落ちして火の傍に座り込むと、女性が1人近づいてきた。

アネックと名乗る女性は、Erdeのことを覚えていた。
「あら、あなた。ソルスセイムへ行くって言ってたけど、どうしたの?」
「ソルスセイム・・・?どこ?」
戦いに巻き込まれ、ヘルゲンで処刑されそうになったこと。
以前の記憶がまったくないことをアネックに告げる。

アネックがErdeを痛ましそうに見つめる。
「誰かを探している風だったわよ。確か・・・恩人とか言ってたわ。」

アネックにソルスセイムへ渡るにはウィンドヘルムから出ている船で行く必要があることを教わった。
食べ物や使っていない武器や防具も貰って、早速ソルスセイムへ向かうことにしよう。



ソルスセイムはスカイリムのどことも風景が違っていた。
住んでいるのは、ほとんどがダンマーだ。家の形も・・・見たことがない。

ソルスセイムの住人にもErdeのような存在は珍しいようで、行く先々で声をかけられた。
ここに来れば、アネックが言っていた恩人とやらのことを思い出すかと思ったが、そんな簡単な話ではなかった。

さすがに疲れたので、宿屋で休むことにしよう。
薬を買うために立ち寄ったミロール・イエンスのところで、宿屋レッチング・ネッチの話を聞く。
不思議な形をした建物の中に宿屋があるらしい。

中に入ると、人がたくさんいる。仕事を終えて喉を潤しに来ている人たちだろう。
ふと、その中にひと際目を引く鎧兜を身に着けた人物がいることに気が付いた。

・・・あれ?
頭の中で何かがちらついた。

思わず近づいて行く。
周りの人たちも、毛色の違う人物が急に現れたことに少々驚いているようだ。Erdeの挙動を見守っている。

Skyrimでは見たことのない兜を被ったその人物の前に立ち、じっと見つめる。
「・・・私になにか用か?」

この声。
思わず眉を顰める。聞き覚えがあるような、ないような。
じっと見つめるErdeを、相手もまじまじと見つめ返す。
すると、何か思い当たったのか立ち上がってErdeを指さした。

「・・・?お前・・・Skyrimで助けたキャラバンにいたな?」

その言葉で、一気に何が起こったのかを思い出した。



Erdeは家族でキャラバン隊として、ソリチュードを目指していた。
しかし山賊に目を付けられ、ずっと追い回されていたのだ。
大きな街道から少し道を外れたところで、とうとう山賊どもが襲い掛かってきた。
父や母、兄もErdeも必死に戦った。

そんなところに、ノルドの雇い主とSkyrimに来ていた男が手助けをしてくれたのだ。
Erde達を襲った山賊の首を嬉々として刎ねると、ノルドと男は山賊の砦を壊滅させると言って立ち去って行った。

「それで、お前はここで何をしている?」
男の言葉で我に返る。
「あ・・・お礼を言いたくて」
「礼?そんなものを言うために、ソルスセイムまで来たのか?」呆れた様子だ。

「キャラバンはどうした」
「もう・・・何もないの」
折角助けて貰ったのだが、父母に兄の3人は深手を負っていた。
近くに村もなく、持ち合わせの薬もないため夜には息を引き取ってしまったのだ。
3人をSkyrimの冷たい土に埋めてやったErdeは、助けてくれた二人組に礼を言って・・・それから故郷に帰るか命を絶つか。

「・・・私は腕の立つ傭兵だ。金さえ払って貰えるなら、お前を守ってやることができるぞ。」

思わず男を見つめる。
「あの人は?Skyrimで一緒にいた男の人。」
「前の雇い主は・・・まぁ、恐らく死んだんだろうな。山賊の砦に1人で突っ込んでいったよ。」

急いで胸のポケットにしまっておいた財布の中身を確認する。
男が提示してきた金額ぎりぎりだ。Skyrimに戻ったら、しばらくの間金を稼がないと駄目そうだ。
それでも、この人がいたら・・・安心できそうな気がする。
たった1度助けてもらっただけで、信頼するのも笑われるかもしれないが。

Erdeが金を支払うと満足そうに頷いた。
「私はテルドリン・セロ。よろしくな。」

急に気が抜けたのかErdeはへなへなと床に座り込んだ。
やれやれと溜息をつき、セロが手を貸して立たせてくれた。
「さて、これからどうするんだ?」
「Skyrimに戻って、ホワイトランに行くつもり。」

レイブン・ロックからウィンドヘルムへ戻る船の中で、久しぶりにErdeはぐっすりと眠ることができた。

「À bon chat, bon rat」終

香りの魔女と無口な黒猫(1)

私はレティシア。
村はずれの森で小さな・・・そうね、薬局のようなものを営んでいる。
裏の畑や森の中で集めた薬草を調合して傷が早く治るような薬を作ったり、家畜がよく子を産むように餌に混ぜる薬やまじないなんかを行ったり、そんなことをして日々暮らしている。

この家を見つけたのは、2年位前。
魔女だった曾祖母が暮らしていたという家だ。
森に散歩に出かけた時に偶然見つけ母に聞くと、曾祖母が帝都へ出て行くまで暮らしていた家だと教えてくれた。

祖父母や父母は、曾祖母が魔女だったことの多くを語ろうとはしなかった。
どうやら100年前の大戦で亡くなったらしい。帝都を守って死んだそうだ。
その家で暮らしたいと言ったとき、父母は最初はあまりいい顔をしなかった。特に母親が。

元々、薬草を育てたり調合したりするのが得意だった私は、それで生計を立てたいと考えていた。
曾祖母みたいに帝都を守るような魔女にはなれなくても、村の役に立てる魔女にはなれるだろうと。



曾祖母の家には、彼女が書き記した薬の調合の技術やまじないの書物が残されていた。
正式に学んでいない私には、わからないことも多かった。

去年、村で家畜の流行病が出て多くの牛が死んでいった。
私にできたことは、ほんの少しだけ病の進行を遅らせることだけだった。
目の前で、どんどん牛が死んでいくのを見るのが、本当に苦しかった。

そんな時、曾祖母の事を知るという一人の女性が私を訪ねてきた。儀式を受けないか、と言うのだ。
正式に魔女として学ぶためには、使い魔と契約を交わす必要がある。
その儀式を受けろと、女性は言う。
彼女は自分の事を多くは語らなかった。一週間後にエルフルトの町に来てと言い残して、家を出て行った。



そして今日。
目の前で白髪の女性が、私の使い魔を決める儀式を行っている。
女性は、この地区の長だという。

・・・。
ただ、どの動物も怯えて私に近寄ろうとしない。使い魔が決まらないのだ。
こまったなと思った時、「俺がなろう。」と囁く声が耳元で聞こえたような気がした。
長も何かを感じ取ったようで私をじっと見つめている。

「・・・何かが通りましたね。」
『何か?』
「そう。どうやら、その何かに動物たちが怯えているようです。」
『私の使い魔は・・・どうなるのでしょう?』
「・・・今日は決まりそうにありません。明日また訪ねてきてください。」
仕方がない、今日の所は宿に戻るとしよう。そう思って軽く礼をして立ち去ろうとした私の後ろに長が声をかけてきた。

「もし」
振り返ると、長が緊張した面持ちで私を見つめていた。
「もし、明日ここに来るまでの間に出会いがあったとしたら・・・それを連れてきてください。」
『出会い?動物と、ですか?』
「・・・どうでしょうね。動物だと思っておきましょう。」



宿屋へ戻る道すがら、ぼんやりと使い魔は決まるのだろうかと考えながら歩いていた。
何かが通った、ってなんなんだろう?
そんなことを考えていると、家の屋根から黒い物体が降ってきて・・・あっという間に私の持っていた籠の中に飛び込んだ。
通りの角から、首輪を手にした14~5歳くらいの少年が、意地の悪そうな笑みを浮かべてやってくるのが見えた。

「なぁ、きったない黒猫見なかった?」
『黒猫?さぁ・・・?』
「片目が見えない、汚い黒猫。あれ、俺のだから。」にやにやしながら近づいてくる。

『知らないって言ってるでしょ。』
暫し睨みあう。少年が舌打ちしたのを機に、さっさとその場を立ち去る。
振り返らないようにして、宿屋の扉を開け中に入った。

ふう、と溜息をついて籠の中を見ると、黒猫がいた。
右目が開いていない。傷だらけだ。・・・あの少年にやられたのだろうか。
そっと、籠から出してやるとベッドの隅で小さくなっている。

このままにはしておけない。
湯で軽く洗ってやり、傷には持ち歩いている薬を付けてやった。
黒猫は痛みにもじっと耐えている。
宿屋の女将に食事を部屋に運んでもらい、黒猫と分け合って食べることにする。

食事を終えると人心地付いたのか、丸くなって寝始めた。

ああ、もしかして。この黒猫が、長が言っていた出会いなんだろうか。
明日、連れて行ってみよう。

『ねえ、あんた。助けてやったお礼って訳じゃないんだけど、私の使い魔にならない?』
「にゃ」黒猫が小さく返事をした。



<< つづく >>

西の風は日暮れまで

ウィンターホールド大学での仕事がひと段落着いたので、休暇を取ってドーンスター ⇒ モーサル ⇒ソリチュードと旅をすることにしたJadeとマーキュリオ。

途中ドゥーマーの遺跡に潜ってみたりと、なかなか楽しい旅路だ。

ソリチュードからマルカルスへ向かってみようか?と話をしながら、今夜の宿ウィンキング・スキーヴァーへとやってきた。

宿屋の主人と話をしていると、ふいに女性が声をかけてきた。

「あら、マーキュリオじゃない。」
声の方に向き直ると、上品な装いの美しい女性が艶やかに微笑んでいる。

マーキュリオが一瞬驚き、それから苦い顔をしたのをJadeは見逃さなかった。
女性はマーキュリオとJadeを見比べながら、近づいてくる。

「ジェマイマか・・・。久しぶりだな。ソリチュードで何をしている。」
ジェマイマと呼ばれた女性は、Jadeに視線を走らせた後マーキュリオの腕にそっと手を置いて、意味ありげに笑う。
「何って・・・知っているでしょう?」
もう一度Jadeを見て、「貴方、子守をしているの?」と尋ねる。

思わずカッとなって、他を見てくると宿屋を飛び出すJade。
後を追おうとしたマーキュリオの腕を掴み、ジェマイマは食事に誘った。
掴まれた腕をそっと外し、呆れたような表情でジェマイマを見つめる。
「・・・お前は、あんな意地の悪い言い方をするような奴ではなかったはずだ。」
「あら、意地悪をしたつもりはないわ。」



なにさ、子守って!!とJadeは最初怒っていたが、ふと思いついた昔の彼女とかなんだろうかという考えが頭から離れなくなってしまった。
綺麗な人だったな。綺麗な服着てたな。

ぼんやりと考えながら歩いていたため、向かいから荷物を持ってやってきたアルトマーの女性とぶつかってしまう。
「あ、ごめんなさい!」
「大丈夫よ、気にしないで。」
持っていた荷物を落としてしまったので、一緒に拾う。
女性が、自分をじっと見つめていることに気が付いた。

「な、なに?」
「あなた・・・随分と汚れているわね。」

軽蔑したような物言いではなく、事実がそのまま口から出たというような口調だった。
思わず自分の服装を確認するJade。
言われてみれば、遺跡で戦って着替えもせずにそのままの状態だ。袖口には血糊が付き、埃でうっすらと汚れている。
格別自分が汚いとは思わなかったが、先ほどマーキュリオに声をかけてきた女性と比べれば・・・その差は歴然だ。

軽くショックを受け、黙り込んだJadeに向かって女性が店に来なさいよと誘う。

ターリエと名乗る女性は、ソリチュードで高級服飾店レディアント装具店を姉と2人で営んでいるという。
上手いこと乗せられたような気がしないでもないが、折角なので似合う服を見繕ってもらうとしよう。

姉のエンダリーとターリエがあれこれと服やら靴やらアクセサリやらを持ってきてくれ、ああでもないと着せ替え人形のように着替えさせる。
Jadeは肩の出る、明るい色の服が気に入ったので買うことにした。
それなら髪型やアクセサリも素敵に仕上げましょうとエンダリーが髪を結い上げ、飾りをつけてくれる。
仕上げにと、薄く化粧までしてくれた。

鏡の中に映る自分が、今まで着たことのない装いで微笑んでいるのがくすぐったい。
「あら、似合うじゃない。さっきまで着てた服は宿屋に届けておくわね。」
「ありがとう!あ、じゃあ武器も一緒に預けてもいいかな。」
「そうね。折角可愛い服装してるのに、腰にメイスぶら下げているのは頂けないわ。」

うきうきとした足取りでレディアント装具店を後にする。
宿屋へ戻ろうとすると、マーキュリオがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

一瞬眩しそうな顔をしてJadeを見つめる。
「お前・・・どうしたんだ、その格好。」

「・・・いいじゃない。」
「そんな服・・・」
そんな服。先ほどまでの浮足立った気持ちに冷や水を浴びせられた気分だ。
マーキュリオの渋い顔をまともに見ることができず、顔を背けて歩き出す。

「着替えてくれ。」腕を掴まれた。
「マーキュリオに言われる筋合いない!」

腕を振り払い、宿屋とは反対側へと駆け出していく。



夕暮れ時になり、ランタンの灯りが灯り始めた。
どこかで陽気な音楽が奏でられている。歌声も聞こえてきた。
見ると、そこは吟遊詩人大学。出店が出ていて、皆楽しそうに飲み食いしている。

吸い込まれるように近づいて行くと、歌を歌っていた吟遊詩人が酒を片手に近寄ってきた。
「やあ、お嬢さん。この出会いに祝杯を上げようじゃないか。」
その軽い口調に思わず微笑む。差し出された杯を受け取り、一気に飲み干す。

「美味しい。」甘くて心地よい酔いが体に広がる。
「お口にあってよかった。君はとっても可愛いね。その服も凄く似合ってるよ。」
吟遊詩人はそう言うと、そっとJadeの肩に手を回してきた。
マーキュリオに言って欲しかった台詞をさらりと口にする。
美味しいお酒と陽気な雰囲気に気分が良くなり、肩に回された手を不快には思わなかった。

「おい。」
吟遊詩人の腕がねじり上げられる。微かに焦げたような臭いもした。

いたた!と悲鳴を上げ吟遊詩人が逃げ出していく。
振り返ると、今まで見たことない怒った表情のマーキュリオが立っていた。
「何をしている。」
Jadeの腕を掴み、強引にその場から連れ出す。

険しい顔をして、無言でJadeを宿屋へ連れ帰ってきたマーキュリオをジェマイマは見逃さなかった。
仲間と食事をしていた席を立ち、2人に近づいてくる。
「お嬢ちゃんの子守?腕の立つ傭兵なのに、あなた大変ね。」
Jadeの服装を見て、くすりと笑う。

マーキュリオがジェマイマを睨みつける。
「俺の大切な嫁さんだ。」


そのまま二階へと上がり、乱暴に部屋へ連れ込まれる。
掴んでいた手を離すと、マーキュリオは背を向けたまま窓際で立ち尽くす。

ああ、くそっとマーキュリオが呟いた。
大きくため息をつき振り返ると、Jadeが声を出さないように唇を噛み締めて涙を零していた。
触れようとマーキュリオが一歩踏み出すと、びくっと体を縮める。

「おい。」
「ど、どうせ似合わないもの。」
「そんなこと言ってないだろう。」
「あんな、ふうに、綺麗に、なれないもん。綺麗じゃ、ないもん」

へたへたと床に座り込み、しゃくりあげるJadeを見て、最初何を言っているのかマーキュリオはわからなかった。

ジェマイマか。
そう思い当たると、「違うんだ」と呟いたがJadeの耳には届かない。

無理やり抱き上げベッドの端に座らせると、マーキュリオは椅子を引き寄せJadeの向かいに座り込んだ。
Jadeの手を取り愛おしそうに撫でる。
何度か言い淀んだ後、似合っているよと囁いた。

「・・・無理にほめなくていい・・・」俯いて、マーキュリオを見ようともしない。

「違う。」
強くJadeの手を握りしめる。折角結い上げてもらった髪も崩れて顔にかかっている。そっと優しく髪を払う。

見せたくないんだよ。
嬉しそうにしているお前をずっと見つめていたいけど、他の男に見せたくないんだ。
心の中でそう呟いた。

バツの悪そうな顔をして、Jadeを見つめる。
「全部、俺のわがままなんだ。」手に口づけしながら、傷つけたことを謝るマーキュリオの言葉を黙ってJadeは聞いていた。

すくっとJadeが立ち上がった。

「・・・似合ってる?」
「うん。」
その場でくるりと回る。
「・・・可愛い?」
「ああ、可愛いよ。髪型も、全部可愛いよ。」

「うれしい。」涙で濡れた顔でにっこり微笑む。


その夜。
遅い時間まで、Jadeと出会うまでに携わっていた傭兵の仕事の話をマーキュリオは聞かせていた。
ジェマイマは以前の雇い主で、シロディールからスカイリムへの旅路を守ってやったという。

話の途中でJadeが、すやすやと寝息を立てていることに気が付いた。
自分の妬心と、ジェマイマに対してのJadeの妬心にくすぐったさを覚えながら、腕の中のJadeと一緒に眠りに落ちて行った。

「西の風は日暮れまで」終

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