ブリーズホームを整えるため手持ちの金を使ったErdeは、ひとまず金稼ぎをしたいとリディアに訴えた。
山賊退治などは首長が賞金をかけているはず。
宿屋に行って、仕事がないか聞いてみましょう。とリディアは提案した。
バナード・メアの女将フルダに声をかけると、あらと挨拶。
リディアの後ろにいるErdeとセロに気づき、リディアへ小首を傾げて誰なのかを確認した。
「こちらは首長から任命された従士のErde様と、その用心棒のテルドリン・セロです。」
「おい、リディア。その紹介の仕方はないだろう。」
静かなる月の野営地の山賊退治を紹介された。
行ってみることにしよう。
セロの戦い方を後ろから見ながら、Erdeも左手に火炎右手にメイスを持って戦う。
リディアは盾で弓を避けながら、一直線に敵へ突っ込んでいく。
脇からセロがアイススパイクを撃って敵を足止めする。
そして一気に間合いを詰めて、敵の首を掻っ切る。
あっという間に片付いた。
ついでに野営地の中にお宝がないか、確認してから戻るとしよう。
野営地にたどり着いた時は晴天だったが、中にもいた山賊を倒して出てきた時には土砂降りの雨。
「あら・・・かなり激しく振っていますね。従士様どうします?雨宿りしてから戻りますか?」
「ここからホワイトランまで距離そんなにないし、走って戻ろうかな。」
「そうだな・・・。雲の感じを見ると、暫く止みそうになさそうだ。とっとと戻るとしよう。」
そういうと3人は大急ぎで野営地を飛び出し、ホワイトランへと一目散に走る。
途中Erdeが滑って転んでしまい、泥だらけの惨めな姿になってしまった。
更にホワイトランに辿り着く頃には、寒いと言って震え出した。
「お前、風邪ひきかけてるんじゃないか?」セロが額に手を当てる。
ひゃっと可笑しな声を出して、セロの手を払いのけるErde。
「なんだ、そんな元気があるなら大丈夫だな。」
ブリーズホームに駆け込み、炉端の周りで体を温める。
「従士様?」
リディアがErdeの様子に気が付いた。
炉端前でぐったりと座り込むErdeの額に慌てて手をやると・・・熱い。
「セロ!乾いた布を持ってきてください。あと従士様の着替えを!」
湯を沸かし体を拭いた後、濡れた衣服を着替えさせベッドに横たえる。
てきぱきと看病するリディアを遠巻きにセロは見つめていた。
「セロ、私はアルカディアのところに行って薬を貰ってきます。その間、従士様の看病をしていてください。」
「は?私がか?」
じろりとセロを睨む。渋々看病を引き受けることとなったセロは不機嫌そうだ。
看病ったってな・・・。
とりあえずベッドの傍にある椅子に腰かけてErdeの様子を窺う。
額に乗せた濡れタオルを変えてやっている時、Erdeが小さく何か呟いた。
「セロさん・・・」
熱っぽい手を握ってやると、セロの手が冷たくて気持ちいいのか両手で握りしめてきた。
首筋とか脇の下を冷やすといいんだったか。
空いた手で、Erdeの首筋を触る。ふうとErdeが溜息をついた。
「あれ・・・?セロさん?」
「気づいたか。水を飲め」
体を起こしてやり、コップを渡す。Erdeは素直に水を飲み干した。
「まったく・・・。雇い主に倒れられたら敵わんよ。」
「ごめんなさい・・・」
熱でぼんやりしているのか、いつもより素直な返事をするErdeにセロが調子に乗って首筋に手を当てる。
「冷たくて気持ちいい。」
額に手を当てた時は振り払ったのにな。どうした?と思いながら、更に脇も冷やそうか?と言ってみる。
「脇・・・?熱、下がるの?」
そういうとErdeが服を捲りだした。
「何をしてるんですか。」
振り返るとリディアが仁王立ちしていた。
首筋に手を当てているセロ。服を捲り上げようとしているErde。
セロを叩き出し、Erdeに解熱の薬を飲ませる。
えへへと笑いながら、リディアを見上げる。
「どうしたんですか、従士様?」
「セロさんの手、大きかった。」
あいつ、まさか変なことをしたんじゃないでしょうね。リディアが一瞬形相を変えたことにErdeは気づかなかった。
「とにかく、今は寝て熱を下げましょう。従士様、ゆっくりお休みくださいね。」
「言っておくが、やましいことは何一つしていないからな。」
2Fから降りてきたリディアに気づいたセロが、まずは口火を切った。
「熱を出してぼんやりしている若い娘の首筋に手を当て、更に服を捲り上げさせている姿のどこが、やましくないんでしょうね?」
「私は、雇い主とどうこうするつもりはない。関係を持つつもりはない。」
「・・・へぇ?」疑った表情のままリディアが傍の椅子に腰かける。
「なんだ。私がそんなに節操なしに見えるのか?」
リディアは黙ったまま首を振る。
汗をかいた衣服を着替えようと階段付近まで歩いてきていたErdeは、セロとリディアの会話を耳にした。
雇い主。
ああ、そうか。
着替える気持ちが急に失せ、ベッドに戻り布団に潜り込む。
熱のせいなのか、わからなかったが涙が浮かんで仕方がなかった。