「なんだと?」
思いがけない言葉を聞いて、クレイグ・ブーンはルシアに聞き返した。

ここはフリーサイド北門近く。
つい今しがたフィーンドの集団を倒したばかりで、足元には死体が転がっている。
「やっぱりBlackWidowのスキルは威力があるね。これでベニーもイチコロかな!?」
にこにこしながらルシアは答える。

「お前、一体いつそのスキルを取ったんだ」
思ったよりきつい口調になってしまったことに気づいて、ブーンは思わず顔を背けた。
うーんと、とルシアは記憶を辿る。

「この間、アルケイド先生とキャスに相談して。BlackWidowがいいんじゃないかって話になったの。」
無邪気に答えるルシアを直視できず、視線を合わせないまま口の中で唸る。
「・・・そうか」
「ブーンさん?」
「・・・戻るか」
ブーンの機嫌が悪くなったことにルシアは気づいたが、どうしていいのかわからず黙ったまま後をついて歩いた。


「話がある」
いつも以上にむっつりとした表情でブーンがアルケイドに声をかけた。
研究が一息つき、コーヒーを飲んで寛いでいたアルケイドは虚を突かれた形となった。
「え?ああ、どうした?」

眉間のしわをより深くしたブーンは、入り口に寄りかかったままだ。
黙ったままのブーンをアルケイドは見つめる。
「いつまでそうやっているつもりだ?」
「・・・。」
「言い出しにくいことなのか?」
「・・・ルシアに」
「ん?」
「ルシアに何故BlackWidowを取れと言った」

「え?」
問い返したが、ブーンは外を眺めこちらに顔を見せようとしない。
これは一体・・・?
アルケイドは先日キャスとルシアと3人で、次に取得するスキルのことを話していた場面を思い返していた。
確かにキャスと2人でBlackWidowがいいんじゃないかと言ったが・・・。
ブーンがぼそりと話を続ける。
「ルシアは」
「うん」
「あいつはBlackWidowを使えばベニーはイチコロだと喜んでいる」

アルケイドはどう答えるのが正解なのか、少し逡巡した。
「色々なスキルを覚えることは悪いことじゃないだろう?」
「・・・。」
ブーンはまだこちらを見ない。今どんな顔をして俺を問い詰めているんだか・・・。
「キャスにも聞いてみたらどうだ?彼女もいっしょに相談に乗っていたんだから。
俺はルシアが色々な事を覚えようとするのは良いことだと思っているよ。」
「・・・わかった」
低い声でそう答えてブーンはアルケイドの部屋から出て行った。

「さて・・・どうする?」
冷めてしまったコーヒーを一口飲み、アルケイドは楽しそうに呟いた。


キャスは今日も一人で静かにウィスキーを楽しむつもりでいた。もう酒も氷も用意した。
なのに何故。
苦虫を潰したような顔をしたブーンと向かい合っているのか。
「あのねぇ」
ブーンは黙ったままだ。
「あたしの楽しみの時間を邪魔しないで欲しいんだけど」
ブーンを無視して酒を注いだ。もしかしたら、口が滑らかになるかも?と考えてブーンの酒も用意してやった。
目の前に置かれたオンザロックをゆらゆらしながら、それでもまだブーンは話し出さない。

「なんなのよ。」キャスは2杯目を飲みだした。
意を決したように酒を流し込み、ブーンは手元のコップを眺めながら話し出した。
「ルシアにBlackWidowを取れと勧めたのは何故だ」
「はい?」
予想もしていなかった展開にキャスも咄嗟に答えが出なかった。
「何よ。BlackWidowを取るの、何が悪いのよ」3杯目。これは酒の力がいるかもしれない。ブーンのコップに継ぎ足してやった。

「悪いとは言っていない・・・」
キャスはブーンを眺めた。眉間にしわは寄ったままだが、なんとも言えない表情をしている。
「・・・。あんたが真っ先に喧嘩しかける相手は誰よ」
「リージョン」
「リージョンの構成員は?」
「?どういうことだ?」
「リージョンは男ばかりで構成されているわよね?BlackWidowを持っていれば、与えるダメージ大きいでしょ?だから取ったのよ、あのこ。」
ブーンはコップを握りしめたまま、無言だ。

「あのこが探しているベニーって男を倒すのにも有効でしょ?まぁ、ベニーの件はついでみたいなもんね」
「・・・すまない」
「え?」
「邪魔してすまなかった。久しぶりに飲んだ。」
そう言って、コップを置きブーンは部屋から出て行った。


ブーンを見送ったキャスは5杯目を口にした。
「ブーンさんにも効くかな?」と言っていたルシアの姿を思い出した。

「ルシアに乾杯」

-END-

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