Also A Deram...

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Soleil

深酒をして泥のような眠りについたブーンが目を覚ましたのは、すでに日が高く昇った昼近くだった。

頭がまだ働かず、体は重い。
喉の渇きを覚えて立ち上がると、まだ酔ったような感覚で足元がふらついた。
こんな酷い二日酔いは久しぶりだ。

幸いなことに、今日は予定が入っていない。
1日自堕落に過ごしても問題はないということだ。

アルケイドがブーンの部屋を覗くと、痛む頭を抱えてベッドに寝転ぶ姿があった。

「やれやれ・・・。二日酔いか?」
「・・・何故、そう思う。」
「お前、昨日キッチンで酔い潰れていたのを覚えていないのか。」

渋い顔をしてアルケイドを見ると、呻き声を上げた。

「何があったんだ?」溜息をつきながら、アルケイドが尋ねる。
再び唸り声を上げるブーン。
「・・・薬と水をくれ。」



アルケイドが薬を手にキッチンへ向かうと、キャスとLuciaがお茶としながら話をしているのが見えた。
「あれ、ブーンは?まだ寝てるの?」キャスが珍しいわね、と呟く。
「ああ、今日は1日動けなさそうだ。酷い二日酔いで潰れてるよ。」
そう言うと、Luciaに向かって薬と水を持って行ってくれないかと頼む。

いつもなら、元気よく返事をするLuciaだったが一瞬迷いを見せた。
「あ、うん。渡してくるね。」アルケイドから薬と水を受け取ると、キッチンを後にした。

「・・・どう思う?」ぽつりとキャス。
「どうって?」
「あの二人、昨日何かあったのかなって思ってるんだよね。」
アルケイドは昨晩のブーンの酔い潰れた様子を思い浮かべたが、何があったのかブーンから聞いていなので話題にあげることは避けた。

「ブーンがLuciaを傷つけるようなことしたら・・・タマ蹴り上げてやる。」
「・・・尻を蹴上げるくらいにしてやってくれ・・・。想像するだけで痛い。」



ひまわり畑の中に愛しい笑顔が見えた。
花をかき分け進んで行くが、なかなか辿り着かない。
腕を伸ばせば、その手を掴めそうなのに。

必死な思いで、ようやく手を掴む。二度と離すものか。

彼女はいつもの笑顔で語り掛けてきた。
「クレイグ。もう、いいのよ。」
「カーラ、待ってくれ。」

ぽつりと雨が顔に当たった。

気が付けば、彼女が、消えていた。

「カーラ!!!!」


目の前にいるのは、大粒の涙をこぼしているLuciaだった。
ブーンに腕を掴まれたまま、声を押し殺して泣いている。

「Lucia・・・?」
「ご、ごめんなさい。」
何故泣いているのか、何故謝っているのか全く理解できないブーンは、掴んだ腕を引き寄せようとする。
「・・・っ!やだっ」
ブーンの腕を振り払い、部屋を飛び出していくLucia。
後を追いかけようと起き上がるが、ぐるりと世界が回ってベッドに再び倒れこむ。

「くそっ・・・!」



Lucky38を飛び出し、気が付けばLuciaはStrip地区北口を出てフリーサイドへと向かっていた。
どこに行く当てもないのだが。

「・・・どうしよう。」
ぼんやりとそんなことを考えていると、急に後ろから殴られた。
振り返ろうとするLuciaを強い力で押し倒す。

フリーサイドの通り魔だ。

武器をと思ったが、何も持たずにLucky38を飛び出してきてしまった。ナイフも銃も持ち合わせていない。
Luciaに馬乗りになり、何度か顔を殴りつける。
庇おうとする腕を払いのけ、持っていたナイフを振りかざして、フリーサイドの通り魔はニタりと笑った。

思わず目を瞑ったその時、重たい物が倒れる音がした。

「あなた、大丈夫?」
助け起こしてくれたのは、小さな銃を持った女性。
「私はリタよ。もう大丈夫だから、安心して。」
リタと名乗る女性に言われて気づいたが、知らぬ間に体が震えていた。思わず涙も溢れ出てくる。



リタが経営しているというカフェへと連れられてきた。
Luciaを座らせると、落ち着くまで休んでてと言い飲み物や薬を用意してくれる。
「ありがとう・・・。ごめんなさい。」
「ゆっくりしてて。・・・あら、いらっしゃい。」
リタは入ってきた客に向かって挨拶をする。

「ルー?お前、何故ここにいる?」

見ればヴァルプス・インカルタがいる。
「え?ジーノこそ、なんで?」
ヴァルプスは質問に答えず、Luciaの顔に手をかけ傷を調べ出した。

「どうした、この傷は。まさかあいつにやられたんじゃないだろうな。」
「あいつ?誰?」
「Lucky38で見かけたあいつだ。」

どうやらブーンのことを言っているらしい。
「ち、違うよ!」
リタが、フリーサイドの通り魔に襲われたのよ、と助け船を出してくれる。
ブーンのことが話題に上がったため、またしてもじわりと涙が溢れてきた。

「何故、泣く。」
「泣いてない!もう帰る!」
ヴァルプスの手を払い除け立ち上がるLuciaに向かって、また遊びにいらっしゃいとリタが優しく言う。



「・・・それで、Luciaに向かって奥さんの名前を呼んだというわけか。」

いつまでもブーンの部屋から戻ってこないLuciaを心配して様子を見に来たアルケイド。
しかし部屋には頭を抱えて寝転がるブーンの姿しかなかった。

Lucky38で暮らしている仲間には、カーラが死んだことは伝えてあった。
何故亡くなったのかを知っているのはLuciaだけなのだが。

「・・・泣いていた。」
「そりゃぁ・・・そうだろう。」
「・・・何故、そうだろうと思うんだ。昨日の夜も、俺はあいつを泣かせてしまった。」

アルケイドはブーンをまじまじと見た。
Luciaの思いを、俺がここでブーンに伝えることはできるが・・・。それは正しいことなのか?
ブーンは本当にLuciaの気持ちや自分の気持ちがわかっていないのか?

部屋の外で微かに音がしたことに気が付いたアルケイドは、そっと視線をドアへと向けた。
ドアに隠れる様にしてLuciaが中の様子を窺っているのが見えた。

「少し休め。そしてよく考えろ。」

「Lucia。」
アルケイドが優しく声をかける。
見れば顔や手に擦り傷が沢山出来ている。さっきまで泣いていたのか、目も腫れている。
Luciaが何も言わずにアルケイドに抱きついてきた。

「どうした?傷だらけじゃないか。」
優しく、その頭を撫でてやりながらブーンに聞こえる様に、あえて少し大きな声で話をする。
「・・・フリーサイドで・・・襲われちゃった。武器、持って行くの忘れて。」
部屋の中でブーンが身を起こすことが聞こえてきた。

怪我の手当てはもうしてもらったから大丈夫だよ、と笑うLucia。
さっきブーンさんに何も言わずに飛び出しちゃったから、謝らないと。

「Lucia。」いつになくアルケイドが真剣な声で名前を呼んだ。
「なぁに、先生。」
「ちゃんと自分の気持ちを伝えてごらん。」
優しくLuciaの頬にキスをして、ブーンの部屋へと押し込んだ。

ブーンが渋面を作ってベッドに腰かけているのが見えた。
「さ、さっきはごめんねブーンさん。なんか折角カーラさんの夢を見てたのに、起こしちゃって。」
一気に捲し立てるLuciaをブーンはじっと見つめていた。

そして呻き声を上げながら立ち上がると、Luciaの腕を掴み胸の内に掻き抱く。

一瞬何が起こったのか理解できなかったLuciaは、驚きすぎて声がでない。
「・・・すまん。」

「わ、わたし」
「・・・うん。」
「カーラさんじゃないの。」
「・・・うん。」

ドアをそっと締め、がんばれよLuciaとアルケイドは心の中で呟いた。

ラウルが大きな声でLuciaを探しているのが聞こえてきたので、慌ててそれを制する。
「そっとしておいてやってくれ。」
「OK、わかった。でもな。やつがボスを悲しませるようなことをしたら、タマ蹴り上げてやる。」
せめてケツにしてくれと言いながら、2人はキッチンへと戻って行った。

Shape of You

久々にブーンと出かけてLuciaは少し浮かれていた。
それが、キャンプゴルフでの頼まれごとを片付ける、ということだとしても。

ニューベガスに着く頃には日が傾き始めていた。
丁度キャスやベロニカが夕ご飯の支度を始める頃だろう。
お腹空いたね、とブーンと話ながらLucky38へと向かっていた。

急に、右手を掴まれた。

そんなLuciaには気づかず、ブーンは先にLucky38のドアを開けて中へと入る。

振り返ると、そこにはリージョン兵のヴァルプス・インカルタがいた。
リージョンの鎧ではなく、以前シーザーの使いとしてやってきた時のようにスーツを着ている。
ニューベガスでは珍しくもない、ギャンブラー風の服装だ。

ぎょっとしたLuciaは手を振りほどこうとするが、ヴァルプスは掴んだ手を離そうとはしない。
「な、なんなの・・・」ようやく言葉を吐き出すことができた。
「話がしたい。」

Luciaがやってこないことに気が付いたブーンが、扉を開けて外の様子を窺っている。
男に手を掴まれていることがわかると、つかつかと大股に近寄ってきた。
「・・・何をしている。」
暫くの間、ヴァルプスとブーンは睨みあっていた。
Luciaの方に向き直ると、知り合いなのかと尋ねてきた。掴まれた手を凝視しながら。

Luciaが答えるより先にヴァルプスが、昔からの知り合いだと言い放つ。
「久しぶりに会ったんだ、食事でもしようじゃないか。なぁ、ルー?」
その親し気な口調にブーンが眉を顰め、Luciaに視線を投げる。
「む、むかしからの知り合いで・・・ええと、前にお世話になって。あの、ブーンさん先に、も、戻ってて」
しどろもどろに答えるLuciaに、より眉間の皺が深くなるブーン。
深いため息をついた後、早めに戻るんだぞと言いLucky38へと戻って行った。

バルプスはLuciaの腕を掴んだまま、TOPSの方へと歩いていく。
「ちょっと、どこ行くつもりなの?」
「言ったろう。食事だ。」

TOPSの受付では慣れた様子でヴァルプスが話を進めている。
チェアマンがヴァルプスに鍵を渡した。
「ここは五月蠅すぎる。静かな場所へ移動する。」
チェアマンたちの視線を避ける様に、ヴァルプスの後へと続く。

やってきたのはプレジデンシャル・スイート。
奥にある服に着替えろと指示を出して、ヴァルプスは部屋を出て行った。

見ると洋服棚に赤いドレスが掛けられている。
ホテルだから、これに着替えろという事か。・・・確かに今着ている服では、この高級な部屋には似合わないだろう。
ベロニカが喜ぶだろうなと思いながら、ドレスに手を通す。
着替え終わり、ソファやテーブルがある部屋に戻ると、食事が運び込まれてるところだった。



着替えたLuciaを目を細めて見つめるヴァルプス。
向かい合わせに席につくと、Luciaに食事を勧める。
「い、いったい・・・なんなの?」
「昔、洋服を欲しがっただろう。どこかの家の若いのが着ていた赤いドレス。」
あまりに昔の話でLuciaはすぐには思い出せなかった。奴隷時代に、そんなことがあったかもしれないが・・・。

再びLuciaを見つめ、ふとヴァルプスが微笑んだ。
その顔は思い出の中の少年の笑顔と同じだった。
「ルー、思った通り似合ってるよ。」

Luciaに食事をすすめるが、ヴァルプス自身は酒を少し舐める程度だ。
「食べないの?」
「お前の為に用意した食事だ。それに俺は、この辺りの食べ物は食べない。」
そう言いながら、食べ物を口に運ぶLuciaを見つめている。
「見られてると、食べにくい。」
「お前と食事できるのが、嬉しくてな。」

Luciaが食べ終わる頃を見計らって、デザートとコーヒーが運び込まれてきた。
あまりの至れり尽くせりぶりに、Luciaは落ち着かなくなってきた。
「元・・・奴隷に、なんでこんなことするの?」
ヴァルプスの目が、一瞬すうと細くなる。
「俺の父も兄も、もういない。あの時代の事を覚えている人間は、ほとんどいない。更に、お前は病で亡くなったことになっている。」
もう奴隷時代のことを怯えなくていいのだろうか?見つかるかもしれないと、怯えなくても・・・

「・・・さっき一緒にいた男、あいつはNCRだろう。」
「え」
「あいつは、お前のなんなんだ?」
思いがけない方向から直球の玉が飛んできて面食らったLuciaは、「なにって?」と聞き返すのが精いっぱいだった。
そんなLuciaを面白そうに眺めると、そろそろ出るとしようと言い席を立った。

ヴァルプスは奥の部屋にかけてあった洋服を袋に入れると、ドレスのままで戻るといいと言いながら手渡してきた。

「ルー。」
Lucky38の前で別れ際にヴァルプスに名前を呼ばれた。
「昔のことを知っているのは、俺だけだ。」
目を見開いたLuciaを見つめながら、耳元に唇を近づけ「いつでもシーザーリージョンはお前を歓迎する」と囁く。
Luciaの頬に軽くキスをして、ヴァルプスは立ち去っていった。



見慣れぬドレス姿で戻ってきたLuciaを見て、まずラウルが盛大に褒めだした。
「ボス!どうしたんだい。いつもの格好もいいけど、赤いドレス似合ってるな。いいな、ボス」
ベロニカはドレスの生地に興味津々。あれこれと触っては溜息をついた。
アルケイドも、あちこちから眺めて、とても良く似合っていると褒めてくれる。
キャスは、Luciaの表情が硬いことに気が付いていた。

そしてブーンはというと、一瞥だけして何も言わずに部屋から出て行った。

泣きそうな顔になったLuciaの頭を大きな手でリリーが優しく撫でる。
思わずリリーの大きな体にしがみつくLucia。
「褒めるべき時に、言葉にできない男はダメだと婆ちゃんは思うね」
ブーンさんは、赤いドレスが嫌いなのかもよとリリーにしがみつきながら笑おうとする。

後ろからキャスが声をかけてきた。
「Lucia、一緒にお風呂に入ろうか。」前にキャスに奴隷時代の事を話したのも風呂場だった。
「心配かけてごめんなさい」
Luciaの頭にバスタオルをかけて、気にしないのとキャスが呟く。

Luciaがキャスに今日の出来事を話している頃、ラウルがブーンに赤いドレスは嫌いなのかと揶揄うように声をかけていた。
じろりとラウルを睨むと、「赤いドレスが嫌いとか、そういうことではない。」と呟いた。
「ああ、そうか。ボスが誰かに食事に招かれ素敵なドレスを着て戻ってきたことが気に食わないのか。」
ラウルは意地悪く、にやにやしながら言葉を続ける。
「ボスだって、デートくらいするだろうさ。」
グラスに酒を注いでブーンに渡すと、自分もちびりちびりとやり出した。
「相手は誰なんだろうなぁ。ブーン、お前見たか?」
「・・・。」外で見かけた男を思い出し、渋面を作る。

ひとしきりラウルはブーンに絡むと、じじいは寝るとするかねと呟いて部屋を出て行った。

グラスが空になったことに気づき、酒を足しにキッチンへと向かうブーン。
風呂上がりのLuciaが暗がりの中でぼんやりとしているのが見えた。
「・・・電気もつけずにどうした。」
急に声をかけられて驚いたLuciaは目元をこすって、眠れなくてと答えた。
「キャスさんがホットミルクいれてくれたから、これ飲んで寝るよ。ブーンさんは?」
「・・・俺も、これを飲んだら寝るとしよう。」
そう言うと、ブーンはLuciaから離れた場所に座り込んだ。

「・・・今日は、戻るのが遅かったな。」
「ご、ごめんなさい。もっと早く戻るつもりだったんだけど」
「・・・あいつは・・・誰なんだ?」
「え、あ、ええと。あの。」ブーンに責められているような気がして、上手く答えられない。

「言いたくないならいい。」
泣きそうになるのを、ぐっと堪えて「ごめんなさい」と小さく呟き、Luciaはキッチンを出て行こうとする。
ふいにブーンがLuciaの腕を掴んだ。
「・・・何故、泣いている。」
引き寄せようとするブーンの腕を払いのけ、涙声で小さく罵倒した。
「ぶーんさんのばか」



水を飲みにキッチンにきたアルケイドが、今まで見たことがないくらいに酔い潰れたブーンを見つけたのは明け方近くだった。
「一体こんなに酔い潰れるまで飲むなんて、なにがあったんだ。」ブーンを抱えてベッドへと運ぶ。
なにかもぞもぞと呟いていたが、アルケイドが聞き取れたのは「泣かせた」と言う単語だけだった。
目を覚ましたら聞くことにするかと考え、ベッドにブーンを投げ込むとアルケイドは自分の寝室へと戻って行った。

A blessing in disguise

Lucky38の外で声をかけてきたリージョン兵、ヴァルプス・インカルタ。

シーザーからだと勲章を渡された時、ルシアの手をじっと見つめてたのが気にかかる。
あいつは一体何を見ていたの?。
まさか・・・元奴隷だって気づいた?

いや、それはないだろう。
奴隷の証である焼き印やタトゥーは背中にしかない。見える場所には何もないはずだ。

手が震えてしまったが、勲章を渋々受け取る。
そんなLuciaをまじまじとヴァルプスは見つめる。

シーザーがフォートで待っている、といい残しヴァルプス・インカルタは立ち去って行った。

いや、立ち去ろうとした。
二三歩歩いたところで、思い直したように向きを変え再びルシアへと向かってくる。

あ、と思ったときには右腕を掴まれていた。


何を見ているの。

ヴァルプスの視線の先は、手の甲にある小さな痣。
少し面白い形をしているが、小さな痣なので余り人には気づかれない・・・はずだ。

何故この男は、この痣を熱心に見ているの?なんなの?
恐怖が勝ってしまい、ヴァルプスの手を振りほどくことができないルシア。

そんなはずはない、とヴァルプスが小声で呟くのが聞こえた。
一瞬眉根を寄せ、信じられないといった表情で「ルーなのか?」と聞いてきた。

ルシアをルーと呼ぶ人間はほとんどいない。
それは、奴隷時代を思い出させるものだった。
恐怖に凍り付き、返事をすることもできない。声が出ないのだ。

ヴァルプスが痣を愛おしそうに撫でる。
「お前は・・・ルーなのか?」

その名の呼び方が記憶を呼び覚ます。
「ジーノ・・・?」
奴隷として売られた2つ目の家に、ルシアより少し年上の兄弟がいた。
兄の方は意地の悪い性格で、奴隷たちをよく虐めていた。ルシアとて例外ではない。
その兄からよく庇ってくれたのが弟のルドヴィコで、家族に隠れて「ルー」「ジーノ」と呼び合っていた。
奴隷を所有している家の人間にしては珍しく、ジーノという少年はルシアや他の奴隷たちにも親切だった。

しかし、ルシアが病に罹ると父親が働けない奴隷など不要と言い出し山奥に捨てるように家の者に命じた。
ジーノはなんとかしてルシアを助けようとしたが、父親や兄に殴られ部屋に閉じ込められ手が出せないようにされてしまう。

山中に捨てられ死を覚悟したルシアを助けたのは、偶然通りかかったキャラバン隊の犬たちだった。
ルシアを見つけ、体温が下がらないようにぴたりと寄り添ってくれた。
更にキャラバン隊も親切な人間で、持ち合わせていた薬を飲ませ体力が回復するまで荷馬車に乗せて一緒に行動してくれたのだ。

そういった思い出が脳裏を過る。

しかし。
懐かしさより、見つかってしまったという恐怖の方が大きくヴァルプスの手を振り払って逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
だが、声も出ず足も動かない。



震えるルシアの腕を一層強くつかむヴァルプス。
「俺は、俺は・・・あの時、お前を守ることができなかったことを・・・」
一歩踏み出そうとしたヴァルプスだったが、ラウルが2人の様子に不審を抱き近寄ってくることに気が付いて、さっと掴んでいた腕を離した。

「シーザーがお前を待っている。フォートへ来るといい」
それだけ言い残して、今度こそ後ろを振り返らずにヴァルプス・インカルタが立ち去って行った。

「ボス、大丈夫かい?あいつは・・・誰だ?」ラウルが心配そうに声をかけてきた。
『だ、大丈夫・・・。なんかCaesarが会いたがってるんだって』

ヴァルプスの後姿を不安げに見送る。



「運び屋には勲章と謁見の話をしてまいりました」
「そうか、わかった。よくやったな、ヴァルプス。」
シーザーへ結果を報告し、自室へと戻る。

棚の奥にしまい込んでいた、埃の被った小さな箱を取り出してヴァルプスは眺める。
そこには、おもちゃのような小さな指輪が入っていた。

「今度こそ。お前を・・・。」



Can’t Help Falling In Love

倒したリージョン兵の返り血を浴びて、死体の山の真ん中で立ち尽くすルシア。
右肩をしきりに触っている。

それに気づいたブーンが、後ろから声をかけてきた。
「怪我でもしたか?」肩に触れようとした時、体をふいに硬くした。

「ああ、すまん。」触れられたくないようだった。差し出した右手をそっと元に戻す。
「ご、ごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって。」無理やり笑おうとしているのが、わかる。

「戻って、その血を洗い流せ。怪我ならアルケイドに見てもらうんだな。」
へへへ、と笑って答えずに背を向けて歩き出すルシアを、ブーンはじっと見つめた。


「あらあら。随分と汚れたわね!シャワー浴びちゃいな。」
血の匂いをさせて戻ってきたルシアを見て、キャスが声をかけてきた。
小さく頷きバスルームへと姿を消すルシアを見送り、キャスは新しいTシャツを用意してやった。
「ルシア、新しいシャツここに置いて・・・」
汚れた服を脱いでいるところに遭遇。
右肩に火傷のような引き攣れと肩甲骨付近にタトゥーが刻み込まれているのが目に飛び込んできた。

あっと小さく叫んで、ルシアは慌てて背中を隠そうとする。
「ルシア、あんた・・・怪我したの?」
「ええと・・・あの・・・」
「痛いの?」
大きくかぶりを振る。ちがうの、と口の中で小さく呟いた。
「こっちへおいで」キャスが優しくルシアを抱き寄せる。
火傷と思ったのは、どうやら焼き印の痕のようだ。タトゥーは躍動する牛。これは・・・。思い当たることはただ一つ。
「ルシア、あんたもしかして・・・。」

観念したのかルシアは重い口を開いて、過去にシーザー・リージョンの奴隷だったことを話しだした。

「本当のお父さん、お母さんの記憶はないわ。育ててくれた人たちが・・・奴隷商人でね、5歳の時に売られたの。」
聞いたことがある。孤児を積極的に受け入れて、まるで高潔な人間のような顔をして裏でリージョンに売り飛ばす輩がいると。
「2つの家」
「うん?」
「最初に売られた家で、こっちのタトゥーを入れられてね。」
「5歳の子供に・・・」キャスは青くなった。
「11歳の秋に・・・大きな家・・・私と同じくらいの兄弟がいる家に売られたの。そこで、焼き印を押された。」
ルシアを抱く手に力が入る。このこは、よくここまで生きてきた。

ルシアはキャスの胸に顔を埋めて、小さく笑った。
「もう痛くないよ。時々・・・疼くくらい。」
ルシアはそこで言葉を切った。次の言葉を探しているのか、なかなか出てこない。

「あのね。」
「うん。」
「怖いの。」
そこで言葉を切り、体を震わせた。
「見つかったら、どうしようって。」
「あんた・・・逃げ出したの?」逃亡奴隷を許すほどリージョンは甘くないだろう。見つかった場合、最悪殺される。
「・・・捨てられた。」ぽつりとルシアが呟く。
「え?捨てられた?」
「13歳の時に・・・病気になって。役立たずはいらないって、山の中に捨てられた。」
キャスは言葉が出なかった。確かにルシアの体は年齢にしては、か細い。女性らしいふくよかさも、あまり見てとれない。
でも、だからって。


バスタブからお湯が流れ出ている音がする。
「よし、体冷えちゃうからお風呂に入んな。背中流してあげる。」

「病気して・・・よく生き残れたわね。」
「キャラバン隊の犬が倒れているのを見つけてくれて。すごく運が良かったんだと思う。そのキャラバン隊の人たちも皆いい人でね。」
キャスに背中を流してもらいながら、ルシアは遠くを見るような目で記憶を辿る。
あの犬やキャラバンの皆は、元気だろうか?
「そっか・・・。いつか元いた家の奴に見つかるんじゃないかって思ってるんだね。」
ブーンと一緒に行動していれば、嫌でもリージョン兵と戦うことになる。逃げることもできやしない。キャスは深くため息をついた。

「ブーンには言ってないの?」
「・・・うん。」
湯船に深々と浸かって、ルシアは答える。
「一時的にでもリージョンに関わっていたって・・・言えなくて。」
「馬鹿ね!あんたリージョンに所属していたわけじゃないでしょ!」思わず大きな声がでてしまった。
バスルームに大きく響き渡る。

「ありがとう」

と、そこで外からブーンが声をかけてきた。
「おい、どうした」
ルシアを見ると、必死の形相でキャスの袖を掴んでいる。
まったく、もう・・・と口の中で呟いて、ブーンに答える。
「なんでもないわよ!ルシアの背中流し終わって、これから上がるところだから覗かないで!」
「ば、馬鹿か。誰が覗き見なんかするか。」ブーンが慌てて立ち去るのが聞こえてきた。

「キャスさん、話を聞いてくれてありがとう。」
「馬鹿ね、仲間でしょう?着替えは置いておくから、ゆっくりね。」
へへへ、と笑って肩までお湯に浸かるルシアを残してキャスはバスルームを出た。

「あいつは・・・怪我でもしたのか?」
濡れた手足をタオルで拭いていると、ブーンが近づいてきた。
あんたのせいで・・・、とブーンが悪くないのはわかってはいるが、そういった感情がどうしても湧き上がってしまい、キャスは冷たく「なんで?」と聞いた。
口元に手をやり、視線を泳がす。ブーンにしては珍しく、言葉を選んでいるようだ。
「・・・さっき、右肩をひどく気にしている仕草をしていた。触られるのが嫌なようでな。」
「ふーん。」
「怪我をしていることを隠そうとしているなら、馬鹿なことはするなと言っておいてくれ。」
キャスがブーンを睨みつける。
「あんたが言えば良いんじゃないの。」
「俺が言うより・・・お前やアルケイドのほうがいいだろう。」自嘲気味にそう言うブーンをまじまじと見つめる。

「あんた・・・あんたって・・・」
「なんだ。」
「あんたって、そこなしの馬鹿野郎ね。」

もういい、と呟いてブーンの脇をすり抜ける。
本当に・・・あの男は・・・

腹立ち気に後ろを振り返ると、風呂上がりのルシアにブーンが声をかけていた。
不器用な様子で、ルシアに怪我はないかと聞いているようだ。

「いつか、ちゃんとブーンに伝えなよ、ルシア」

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Thinking of you

男性陣が珍しく全て出払った日の午後。
(アルケイドはオールドモルモンフォートへ、ブーンとラウルは武器の手入れをするためにラウルの小屋へ)

珍しく新鮮なリンゴと小麦粉、バターも手に入ったのでリリーがアップルパイを作ろうと言い出した。
ルシアはキャスと一緒にリリーにレシピを聞きながら焼き上げ、買い出しから戻ったヴェロニカと4人でお茶にすることに。リリーが折角だからと、美味しいお茶まで入れてくれた。
女性陣4人はあれやこれやとお喋りに花が咲いた。足元でレックスがのんびりと寝そべっている。

「この間、ルシアとネリス空軍基地に行ってきたんだけどさ。入り口にいた子、結構好みだったんだよね」
「キャスはイケメン好きだからなぁ」ヴェロニカが混ぜっ返す。
「ばあちゃんは、顔だけの男は好きじゃないね」
「えー!じゃあ、リリーはどんな人がいいの?」
「そうだねぇ。逞しくてしっかりした男かねぇ」

あ、と何かを思い出したルシアが、もじもじしながら質問をした。
「あ、あのね・・・」
3人の視線が集まる。
「男の人って・・・、やっぱり、こう・・・グラマーな人が好き?」
キャスが茶を吹き出し、ヴェロニカはアップルパイをこぼした。リリーは大きな手でルシアの頭を撫でて聞き返した。
「私のかわいい子。どうしてそんなことを聞くんだい?」
「えと・・・。この間、ベニーのところに行ったときにね。私の姿を上から下まで見て・・・こんな子供だったかって言ったの。」
「あんのクソ野郎」キャスが舌打ちする。死んで当然だね!と相槌を打つヴェロニカ。
「それだけじゃないね?」リリーが、お見通しだよと言わんばかりに先を促す。

ルシアは耳まで赤くなった。何かをもぞもぞと呟いた。
「ブ、ブーンさんの・・・奥さん、美人だったんだって」
「うん」
「派手な人だったって言う人もいたけど、きっと綺麗でスタイルも良くて・・・」
「あいつに言われたの?俺は美人でグラマーは好きだって?」ヴェロニカがアップルパイを頬張りながら聞く。
「ううん。でも、俺にぴったりだったって言ってた。つまり、そういうことでしょう?」

「それで、諦めるのかい?」リリーが聞いてきた。
「え?」
「あんたの中の、好きって気持ちをなかったことにできるのかい?」

ルシアが頭を大きく振った。
「じゃあ、いいじゃないか。ばあちゃんはいつでも味方だよ。」愛しそうにルシアの頬を大きな手で撫でる。
私たちだって!とキャスとヴェロニカが立ち上がる。
さっきまで泣きそうな顔をしていたルシアも破顔一笑。へへ、と笑って残りのお茶を飲み干した。
そこへアルケイドの声が聞こえてきた。「ルシア!ちょっと手伝ってくれないかー!?」
「はーい!」

キッチンから走り出て行くルシアを見送ってヴェロニカが呟いた。
「ブーンはさ、自覚ないのかね。ルシアとラウルが仲良くしてたら不機嫌になったんだよね。絶対焼きもちだと思うんだけど」
「あー、あいつそういえばBlackWidowをルシアが取った時、すごい機嫌悪くなってさ。アルケイドとあたし八つ当たりされたようなもんだわ。」
「死んだ奥さんに悪いとか余計なことを考えていると、ばあちゃんは思うね」

女3人で喧々諤々と話をしているところに、ひょっこりアルケイドが顔をのぞかせた。
「ルシア、機嫌良いみたいだけど、何かあった?」
キャスがにやりと笑った。

「ねえ、ルシアを幸せにする会に入らない?」

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Take Me Home, Country Roads

ネリス空軍基地でラウルの壮絶な過去と老いることへの恐れを聞いた帰り道。

ラッキー38に戻ってくると、意を決したようにルシアが声をかけてきた。
「ラウル、背中貸して」
「どうした、ボス?」

不思議そうな顔をして、それでもラウルはルシアに背を向けた。
その広い背中に顔を埋め、腰に手を回す。
「おいおい、ボス。随分と積極的じゃないか。」
あやす様に、その手をぽんぽんと叩いた。

ぐすっと鼻をすする音が聞こえた。
「ボス、泣いてるのか?」
背中に顔をぐりぐりと押し付ける。どうやら否定しているようだ。
ふう、と深くため息をつくとラウルはルシアの手に自分の手を重ねた。
「ボス、さっきの話のせいで泣いているなら・・・すまなかった。泣かせるつもりじゃなかったんだ。」
再び背中に埋めた顔を左右に振る。
「ボス、鼻水はつけるなよ」
「・・・ごめん、ラウル」
「何故あんたが謝る?それなら・・・場所を考えずに話をしてしまった俺の責任だ。」
「聞かせてくれて・・・ありがとう」鼻声でそう答えるルシア。
「聞いてくれて、ありがとうなボス。ほら、折角ならこっちへこい」
そう言うとラウルはルシアの手を引き、胸に抱きしめ頭を優しく撫でた。

「年寄りで申し訳ないが、まあ我慢してくれ」
「へへへ」
「若い娘を抱きしめるなんて、何年ぶりだろうなぁ」
「私でよければ、いつでもどうぞ」どうやら笑えるようになったようだ。ひとしきり話をした後、2人は別れた。


銃の手入れをしているラウルの元へヴェロニカが浮かない顔をして近づいてきた。
「ねえ、ラウル。ブーンの様子がおかしいんだけど、なんか聞いてる?」
「ブーンが?さてね・・・」
「いつも以上に不機嫌でさ、仏頂面で。リージョンにやられたわけでもなさそうだし・・・。怪我はしていなさそうだった」
「ふーん、不機嫌ねぇ」
「なによ、ラウル。にやにやして」
「そのうち機嫌も直るだろ」
そうなんだけどさ、とぶつぶつ言いながらヴェロニカは立ち去って行った。

ブーンの部屋を覗いてみると、確かに眉間に皺が寄って怖い顔をしてグラスを傾けていた。
ラウルは余計なお世話とわかっていたが、ブーンに一言だけ言いたくなった。
「そんな仏頂面で飲んでも酒がまずくなるだけだろう」
「・・・ラウルか」
何か言いたそうな表情が浮かんだが、ブーンは酒と共にそれを飲み干した。

「お前のな」
「ん?」
「お前の、その冷静さを俺は買っている。」
「・・・そうか」
「だがな、後悔ばかりに囚われていると見えるものも見えなくなるぞ」
ブーンは弾かれたように顔を上げたが、それを見ずにラウルは部屋を出た。

キッチンに通りかかると、ルシアとキャスが仲良く夕ご飯の支度をしていた。
ラファエラが、妹が生きていたら見ることができたかも知れない風景なんだろうか。
「全く似ていないのにな。じじいはボケたかね」独り言を呟いたラウルを見つけたキャスが声をかけてきた。
「ラウル!ルシアがデザート何がいいって聞いてるよ!」

「そうだな、何か甘くて旨いものにしてくれ。ボス」

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思惑

「なんだと?」
思いがけない言葉を聞いて、クレイグ・ブーンはルシアに聞き返した。

ここはフリーサイド北門近く。
つい今しがたフィーンドの集団を倒したばかりで、足元には死体が転がっている。
「やっぱりBlackWidowのスキルは威力があるね。これでベニーもイチコロかな!?」
にこにこしながらルシアは答える。

「お前、一体いつそのスキルを取ったんだ」
思ったよりきつい口調になってしまったことに気づいて、ブーンは思わず顔を背けた。
うーんと、とルシアは記憶を辿る。

「この間、アルケイド先生とキャスに相談して。BlackWidowがいいんじゃないかって話になったの。」
無邪気に答えるルシアを直視できず、視線を合わせないまま口の中で唸る。
「・・・そうか」
「ブーンさん?」
「・・・戻るか」
ブーンの機嫌が悪くなったことにルシアは気づいたが、どうしていいのかわからず黙ったまま後をついて歩いた。


「話がある」
いつも以上にむっつりとした表情でブーンがアルケイドに声をかけた。
研究が一息つき、コーヒーを飲んで寛いでいたアルケイドは虚を突かれた形となった。
「え?ああ、どうした?」

眉間のしわをより深くしたブーンは、入り口に寄りかかったままだ。
黙ったままのブーンをアルケイドは見つめる。
「いつまでそうやっているつもりだ?」
「・・・。」
「言い出しにくいことなのか?」
「・・・ルシアに」
「ん?」
「ルシアに何故BlackWidowを取れと言った」

「え?」
問い返したが、ブーンは外を眺めこちらに顔を見せようとしない。
これは一体・・・?
アルケイドは先日キャスとルシアと3人で、次に取得するスキルのことを話していた場面を思い返していた。
確かにキャスと2人でBlackWidowがいいんじゃないかと言ったが・・・。
ブーンがぼそりと話を続ける。
「ルシアは」
「うん」
「あいつはBlackWidowを使えばベニーはイチコロだと喜んでいる」

アルケイドはどう答えるのが正解なのか、少し逡巡した。
「色々なスキルを覚えることは悪いことじゃないだろう?」
「・・・。」
ブーンはまだこちらを見ない。今どんな顔をして俺を問い詰めているんだか・・・。
「キャスにも聞いてみたらどうだ?彼女もいっしょに相談に乗っていたんだから。
俺はルシアが色々な事を覚えようとするのは良いことだと思っているよ。」
「・・・わかった」
低い声でそう答えてブーンはアルケイドの部屋から出て行った。

「さて・・・どうする?」
冷めてしまったコーヒーを一口飲み、アルケイドは楽しそうに呟いた。


キャスは今日も一人で静かにウィスキーを楽しむつもりでいた。もう酒も氷も用意した。
なのに何故。
苦虫を潰したような顔をしたブーンと向かい合っているのか。
「あのねぇ」
ブーンは黙ったままだ。
「あたしの楽しみの時間を邪魔しないで欲しいんだけど」
ブーンを無視して酒を注いだ。もしかしたら、口が滑らかになるかも?と考えてブーンの酒も用意してやった。
目の前に置かれたオンザロックをゆらゆらしながら、それでもまだブーンは話し出さない。

「なんなのよ。」キャスは2杯目を飲みだした。
意を決したように酒を流し込み、ブーンは手元のコップを眺めながら話し出した。
「ルシアにBlackWidowを取れと勧めたのは何故だ」
「はい?」
予想もしていなかった展開にキャスも咄嗟に答えが出なかった。
「何よ。BlackWidowを取るの、何が悪いのよ」3杯目。これは酒の力がいるかもしれない。ブーンのコップに継ぎ足してやった。

「悪いとは言っていない・・・」
キャスはブーンを眺めた。眉間にしわは寄ったままだが、なんとも言えない表情をしている。
「・・・。あんたが真っ先に喧嘩しかける相手は誰よ」
「リージョン」
「リージョンの構成員は?」
「?どういうことだ?」
「リージョンは男ばかりで構成されているわよね?BlackWidowを持っていれば、与えるダメージ大きいでしょ?だから取ったのよ、あのこ。」
ブーンはコップを握りしめたまま、無言だ。

「あのこが探しているベニーって男を倒すのにも有効でしょ?まぁ、ベニーの件はついでみたいなもんね」
「・・・すまない」
「え?」
「邪魔してすまなかった。久しぶりに飲んだ。」
そう言って、コップを置きブーンは部屋から出て行った。


ブーンを見送ったキャスは5杯目を口にした。
「ブーンさんにも効くかな?」と言っていたルシアの姿を思い出した。

「ルシアに乾杯」

-END-

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