ネリス空軍基地でラウルの壮絶な過去と老いることへの恐れを聞いた帰り道。

ラッキー38に戻ってくると、意を決したようにルシアが声をかけてきた。
「ラウル、背中貸して」
「どうした、ボス?」

不思議そうな顔をして、それでもラウルはルシアに背を向けた。
その広い背中に顔を埋め、腰に手を回す。
「おいおい、ボス。随分と積極的じゃないか。」
あやす様に、その手をぽんぽんと叩いた。

ぐすっと鼻をすする音が聞こえた。
「ボス、泣いてるのか?」
背中に顔をぐりぐりと押し付ける。どうやら否定しているようだ。
ふう、と深くため息をつくとラウルはルシアの手に自分の手を重ねた。
「ボス、さっきの話のせいで泣いているなら・・・すまなかった。泣かせるつもりじゃなかったんだ。」
再び背中に埋めた顔を左右に振る。
「ボス、鼻水はつけるなよ」
「・・・ごめん、ラウル」
「何故あんたが謝る?それなら・・・場所を考えずに話をしてしまった俺の責任だ。」
「聞かせてくれて・・・ありがとう」鼻声でそう答えるルシア。
「聞いてくれて、ありがとうなボス。ほら、折角ならこっちへこい」
そう言うとラウルはルシアの手を引き、胸に抱きしめ頭を優しく撫でた。

「年寄りで申し訳ないが、まあ我慢してくれ」
「へへへ」
「若い娘を抱きしめるなんて、何年ぶりだろうなぁ」
「私でよければ、いつでもどうぞ」どうやら笑えるようになったようだ。ひとしきり話をした後、2人は別れた。


銃の手入れをしているラウルの元へヴェロニカが浮かない顔をして近づいてきた。
「ねえ、ラウル。ブーンの様子がおかしいんだけど、なんか聞いてる?」
「ブーンが?さてね・・・」
「いつも以上に不機嫌でさ、仏頂面で。リージョンにやられたわけでもなさそうだし・・・。怪我はしていなさそうだった」
「ふーん、不機嫌ねぇ」
「なによ、ラウル。にやにやして」
「そのうち機嫌も直るだろ」
そうなんだけどさ、とぶつぶつ言いながらヴェロニカは立ち去って行った。

ブーンの部屋を覗いてみると、確かに眉間に皺が寄って怖い顔をしてグラスを傾けていた。
ラウルは余計なお世話とわかっていたが、ブーンに一言だけ言いたくなった。
「そんな仏頂面で飲んでも酒がまずくなるだけだろう」
「・・・ラウルか」
何か言いたそうな表情が浮かんだが、ブーンは酒と共にそれを飲み干した。

「お前のな」
「ん?」
「お前の、その冷静さを俺は買っている。」
「・・・そうか」
「だがな、後悔ばかりに囚われていると見えるものも見えなくなるぞ」
ブーンは弾かれたように顔を上げたが、それを見ずにラウルは部屋を出た。

キッチンに通りかかると、ルシアとキャスが仲良く夕ご飯の支度をしていた。
ラファエラが、妹が生きていたら見ることができたかも知れない風景なんだろうか。
「全く似ていないのにな。じじいはボケたかね」独り言を呟いたラウルを見つけたキャスが声をかけてきた。
「ラウル!ルシアがデザート何がいいって聞いてるよ!」

「そうだな、何か甘くて旨いものにしてくれ。ボス」

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