マーキュリオとウィンターホールドから久しぶりにリフテンにやってきたJade。

「リフテンだ!久しぶり・・・というか、ここはマーキュリオと会ったという記憶しかない場所かも。」
「・・・」

マーキュリオが黙ってJadeを見つめていた。
「マーキュリオ?大学出てから、変だよ?大丈夫?」
「ん?あ、ああ。ビーアンドバルブに顔を出したいんだが」そう言って視線を外す。
「うん。いいよ。」

ウィンターホールドを出て、リフテンに近づくにつれマーキュリオが無口になってきているのが気になっていた。

表情もなんだか緊張しているような感じで強張っている。
どうしたんだろう・・・?

ビーアンドバルブではいつものようにタレン・ジェイが酒を給仕したり、キーラバが口悪く客をあしらっていたりした。
マーキュリオに気づいたタレン・ジェイが近づいてきて、親し気に声をかけてきた。

「やあ、マーキュリオじゃないか。最近見ないと思っていたら・・・こちらは?」
「タレン。ああ、こちらは・・・俺の・・・」思わず口ごもるマーキュリオ。
タレン・ジェイは目ざとくJadeの首に下げられているマーラのアミュレットに気づいた。
が、何も言わずマーキュリオの顔を見つめる。

「部屋を借りに来たわけ?ゴールドがあるなら、うちに来たのは正解ね。」キーラバが言葉を挟む。
「キーラバ。部屋は・・・どうだったかな。」とタレン・ジェイがキーラバの元へと戻り、何やら話し込んでいる。

Jadeはというと、お腹が空いたのかキーラバが出してくれたキャベツのポテトスープとサケのステーキをもくもくと食べている。
「マーキュリオ。申し訳ないんだが、空いている部屋が一つしかない。」
「なっ」
キーラバが、小声でよかったわねと呟いた。
「待ってくれ。俺は」
「私は一緒でもいいよ?」のんきなJadeの声が割って入る。

マーキュリオが困ったような、呆れたような、悲しいような顔でJadeを見つめた。
タレン・ジェイがそんなマーキュリオとJadeを連れて2階の一室へと案内する。

大きなダブルベッドが備え付けられている、なかなか立派な部屋に通された。
疲れと満腹で眠くなったJadeは着替えもせずに、ベッドへと倒れこんだ。
マーキュリオは部屋の端にある椅子に苦虫を潰したような顔で座り込んでいる。

「マーキュリオ・・・寝ないの?」ぼんやりとした声でJadeがマーキュリオに声をかける。
「・・・」Jadeを見つめたまま、マーキュリオは黙り込んでいる。
そのうちJadeが規則正しい寝息を立て始めた。


「タレン。余計な気を使わないでくれ」
Jadeが寝たことを確認したマーキュリオは階下へと降りてきて、タレン・ジェイと飲み始めた。
「なぜ?アミュレットを渡した相手なんだろう?」
「あいつは・・・わかっていないんだ。」
ぐいとブラック・ブライアのリザーブを飲み干した。

「マーキュリオ、場所を変えて飲むことにしよう」

目を覚ますと、マーキュリオがいないことに気づいたJadeは下に降りてキーラバに聞いてみることにした。
「キーラバ、マーキュリオどこにいったか知ってる?」
キーラバはJadeを見ると、ふんと鼻を鳴らした。
「タレンと一緒にヘルガんとこ行ったわよ。」
突き放す様に、それだけ言うとキーラバは自室へ行ってしまった。

ヘルガの宿舎をこっそり覗いてみると、マーキュリオとタレンが隅で飲んでいるのが見えた。
・・・マーキュリオの膝にヘルガが座っているではないか。
マーキュリオはヘルガを押しのけようとしているが、ヘルガはものともせず甘えた声を出している。

かっと顔に血が上るのを感じた。
こんなとこで何してるの。

タレン・ジェイはJadeがヘルガの宿舎に入ってきた時から気づいていた。彼女がどうするかを見届けようと思っていたのだ。
泣きそうな顔でマーキュリオを見つめ、宿舎を出て行くのを見て後を追うことにした。
「マーキュリオ、俺はそろそろ戻ることにする。キーラバに怒られるからな。」
「・・・おう。俺もそろそろ戻る。」
「なによーぉ。マーキュリオ、もうちょっとここにいたら?気分を晴らすのに、私と一緒にどお?」
「・・・遠慮する。」


ヘルガの宿舎を出ると、タレンはJadeがぼんやりと河の流れを見つめているのを見つけた。
「お嬢さん、夜風は冷えるから部屋に戻ったほうがいい。」
タレンに後ろから声をかけられ驚いたJadeは目元をこすって、振り返った。

「あ、キーラバのとこの。へへ、眠れなくて夜風に当たってたの。」
「・・・君は・・・その、首からかけているアミュレットについて、何も知らないのかい?」
「え?これ?」
タレンは余計なお世話かとも思ったが、簡単に意味するところをJadeに教えてやった。
みるみるうちにJadeの顔が赤くなっていく。

「そんなこと、ひとことも、マーキュリオ言わなかった。」
「あいつに・・・君の思いを伝えてやってくれないか?」
タレン・ジェイは優しくJadeの肩を叩く。ビーアンドバルブに戻ろうかとJadeを促した。


ヘルガを振り切って、ようやくビーアンドバルブに戻ってきたマーキュリオ。
Jadeは寝ているだろうと思って灯りもつけずに部屋の中に入ると、ベッドに腰かけているJadeがぼんやりと見えた。
「起こしたか?すまんな。俺は下で寝るとするよ」
背を向けたマーキュリオにJadeが飛びついてきた。

「おい、どうした?怖い夢でも見たか?」
「・・・ヘルガさんを膝に乗せてたの、嫌なの。」
ヘルガの宿舎に行っていたことを知られた・・・と思ったマーキュリオは、Jadeに向きなおった。
Jadeがマーキュリオの胸に顔を埋めてくる。

「お前、何故知っている?」
「・・・嫌なの。」
マーキュリオがそっとJadeの背中に手を回した。
「マーキュリオ、好き。」小声で震えながらJadeが囁く。

「え?」咄嗟の事に、気の利いた返事もできない。
Jadeはというと、恥ずかしさのあまりマーキュリオの背中に回した腕に力が思い切り入っている。
「俺が・・・渡したアミュレットなんだがな。」
胸に顔を埋めたままJadeが頷く。タレン・ジェイに教えて貰ったと呟いた。
「明日、一緒にマーラの聖堂へ行かないか。」
Jadeが再び頷いた。

口付けをすると留めることができなくなりそうで、マーキュリオはJadeをそっと体から離し、眠るように言った。
「傍にいるから。お前は眠るといい。」

ベッドの傍らに椅子を運んできて、手をつなぐとJadeは子供のように安心して眠りについた。



次の日。
マーラの聖堂にはJadeとマーキュリオとの結婚式を祝うため、ウィンターホールド大学の面々やエランドゥル、ゴルディールたちが駆け付けてくれた。

マラマルが祝福の言葉を与えてくれて、晴れて夫婦となった2人。

「「「「おめでとう!幸せに!」」」



花束を君に 終